女鹿のアマハゲ

2017年1月3日
「秋田の小さな祭りたち」という当ブログのタイトルに鑑みれば今回は番外編という扱いになる。
取り上げるのは「女鹿(めが)のアマハゲ」
女鹿はどこの市町村にあるかご存知だろうか?
「男鹿の下あたりじゃない?」とか言ってる秋田県民のあなた。ちょっと違う、いや全然違う。
女鹿は山形県飽海(あくみ)郡遊佐町吹浦(ふくら)の集落です。

女鹿のアマハゲを初めて見たのは、2014年10月に国民文化祭の一環として男鹿市で催された「全国ナマハゲの祭典」においてである。
講演や朗読などいくつかのブログラムで構成された催しだったが、その中で全国各地の来訪神の実演が行われた。
無論男鹿のナマハゲは登場したし、石川県輪島市のアマメハギ、岩手県大船渡市のスネカなど様々な来訪神を見れたが、その中のひとつが遊佐のアマハゲだった。
ステージ上に組まれた屋内セットで所狭しと動き回るアマハゲはまさに衝撃だった。
「ウホーッ!」と耳障りな奇声をあげながら、子役をいたぶるばかりか、その父親役もいたぶる。
男鹿のナマハゲ行事では、ナマハゲから子を守ることで父親は威厳を示すのだが、そのシナリオはアマハゲには通用しない。
そのくせ、ナマハゲの力強さ、重々しさは全くなく、どこか道化じみた剽軽さを漂わせる。
会場の盛り上がり度合いはダントツだった。
そして管理人もハートを鷲掴みにされたのだった。

そのときの様子です。
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2015年には遊佐鳥海観光協会主催のアマハゲ見学バスツアーにも参加した。
このときも会場となった酒田屋旅館の広間を縦横無尽に暴れまわっていた。
そして2017年
本物のアマハゲ行事を見るべく、遊佐町訪問を計画する。
「遊佐のアマハゲ」は遊佐町内の以下の3つの集落で、以下の日に行われる。
1/1 滝ノ浦集落
1/3 女鹿集落
1/6 鳥崎集落
日程的に一番都合があうのが3日、ということで女鹿集落行きを決めた。
アマハゲを含めた「遊佐の小正月行事」についてはこちらのサイトに詳しい。

当日
昼前に自宅を出発し、途中日沿道を使って1時半には遊佐町に到着
道すがら昼ごはんを食べたり休憩を入れたりしての正味1時間半ぐらいのドライブだったろうか。
日沿道の延伸のおかげでびっくりするぐらい早く着いた。
そこまではよかったが、午前中は早春を思わせるぐらいの陽気だったのが、徐々に天気が下り坂となり遊佐についたあたりには土砂降りになってしまった。
雨の中の行事はいやだな‥と思いながら道の駅鳥海ふらっとまで足を伸ばし、時間を潰す。
(人気の道の駅です。管理人も好きです)
雨は一向に止む様子がないが、いろいろ準備したいこともあったため3時には女鹿集落に入る。
と、ここで
雨足がピタッと止んで、何と青空まで見えるではないか。
これで快適にアマハゲ行事を楽しめると思わずほくそ笑む
それにしても、先日の男鹿のナマハゲのときには「雪がなくて晴れてて残念」みたいなことを書いてたのに、今日は「晴れてよかった!」とか言ってる。
人間てバカだなって思う、いや管理人が馬鹿なだけだ。

女鹿集落の様子
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女鹿集落から見える日本海
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遊佐は湧水の里としても有名だ。
女鹿集落内の「神泉(かみこ)の水」
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アマハゲののぼりが立てられていた。
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早速、行事の鑑賞で家に上げてくれるお宅を探す。
行事のあらましを聞くため、1週間ほど前に遊佐町役場に電話した際に、家に上げるかどうかは各家々の判断なので個別に相談してほしい、と説明されたが、それと同時に「最近、家人の了承を得ないまま撮影のために家々に上がり込む人が増えてるんです。きちんとお家の方と話をしてOKをもらってから上がってくださいね」と釘を刺された。
もとより、そうするつもりだったので何もたいへんなことはないのだが、そのような話が出るということは実際にアマハゲ行事の行われる地域のお宅からクレームが上がっているのだろう。
いくらお祭りとはいえ、全くの他人が何も告げずに家に上がってきたら不快に思う方がいるのも当然だ。
大手の報道機関であれ、個人ブロガーであれ部外者ならばその点に十分配慮しなければならない。
結局3件ほどのお宅から上がっていいよ、とありがたい返事をいただけた。

地区の区長さんと話すこともできた。
前年に不幸のあったお宅にはアマハゲは上がれない決まりなのだが、聞くと女鹿集落の全戸数約60戸の2/3にあたるお宅に不幸があったということで、今年上がれるお宅は20戸ほどしかないらしい。
何でも集落内は親族という形で繋がっているお宅がほとんどのため、一人亡くなることで多くのお宅が影響を受けて喪中となってしまうそうだ。
区長さんのお宅も喪中ということでアマハゲを上げないらしい。
因みに、昨年不幸がなかったご家庭ではこのように門松を飾っており、そういったお宅をアマハゲは回ることになる。
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集落をブラブラと散策していると、徐々に通りに人が増えてきた。
この行事は集落内の八幡神社から始まる。
遊佐町役場の方から、行事が始まるのは4時ぐらいと聞いていたので少し時間的に早かったのだが、八幡神社へ行きアマハゲの登場を待つ。
同じくアマハゲ行事を鑑賞しようと神社に集まった方々といろいろと話をしていると、作務衣姿の若い人たちが神社に少しづつ集まり出す。
どうやらこの方たちがアマハゲに扮するようだ。
そして神社本道脇のお堂内でアマハゲになるべく支度を始めた。
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ナマハゲ行事では「ケデ」と呼ばれる衣装だが、アマハゲにおいては「ケンダン」と呼ばれる。
おそらく語源は同じであろう。
聞けばケンダンを7枚重ねで着込むらしい。
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全員アマハゲに変装したようだ。
アマハゲ役の人たちの顔をお見せすることはできないが、若い人たちばかりである。
男鹿のナマハゲにおいては「ナマハゲの高齢化」ということが諸問題の一つとされているが、アマハゲ行事ではそのような心配はなさそうだ。
そして行事に先立っての祈祷が始まる。
このときばかりはアマハゲも奇声を上げたりせず神妙にしていた。

そして出発
まずは境内でカメラマンの要望に応え、記念撮影
アマハゲは全部で5体
それに交代要員3人+先導の太鼓叩き1人の計9人で集落を回る。
交代要員3人というのは、アマハゲは自分の家には上がれない、という決まりがあるらしくその場合に交代するためとのこと
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アマハゲが集落を回り始めるとあっという間に集落の人々、カメラマン、取材陣に取り囲まれる。
テレビでは山形放送、山形テレビ、NHK、新聞では山形新聞、荘内日報が取材に訪れた。
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アマハゲは管理人が思っている以上に人気がある。
まるで集落出身の有名人の凱旋パレードのようだ。
男鹿のナマハゲに同行した際には、暗くなった夜道を誰に会うこともなく歩いたイメージがあるのでこの差にはちょっとびっくりした。
おそらく男鹿のナマハゲは同日(12/31)にたくさんの集落で行われるのでギャラリーが分散化するのに対し、アマハゲ行事は3つの集落でしか行われず、したがって一つの集落に人が集中しやすいという傾向はあるだろう。
だが、実はそれだけではない。
アマハゲは子供に人気があるのだ。
もちろん小学校低学年ぐらいまでの子は格好の標的になってしまうのだが、それよりも大きい子供たちはどうやらアマハゲにかまってほしい、とばかりに接近しているのが分かった。
大人には理解できないゆるキャラ的可愛さでもあるのだろうか?
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アマハゲはどうやら一体ごと名前があるらしい。
「赤鬼」「青鬼」「ジオウ」「カンマグレ」「ガンゴジ」といった名前がついている、というもののどれがどれかはよく分からなかった。
これらは番楽の面だそうだ。
なお、滝ノ浦、女鹿、鳥崎の各集落ごとのアマハゲ行事の様子はこちらのサイトで確認できる。
個人的には滝ノ浦集落の面がいちばん怖い。

家屋が集まっている集落中心部から少し外れて、秋田県寄りの北側へ進むと国道7号線に面しているお宅もある。
そういったお宅にも当然向かうわけで、国道沿いをアマハゲ一行が歩くことになる。
車通りの多い道路だけにたくさんのドライバーから見られるのだが、アマハゲを知らないドライバーであれば「何だ?今の?」と驚いてしまうだろう。

集落の北端に着いたところで、南に進みながらお宅に上がっていく。
下手(しもて)から上手(かみて)に向かって進んでいくということになろうか。
管理人は、と言えばアマハゲの後ろをついて撮影することはせず、先ほど上げてもらう許可をいただいたお宅で待つことにした。
(3件のお宅から許可をもらいましたが実際に上がったお宅は結局1件だけでした。上がれなかった2件のお宅の皆さん、お騒がせしてすいませんでした)
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事前に「ウチには子供がいっぱい集まるんですよ」と伺っていたお宅へお邪魔する。
その言葉どおり、おぉいるいる元気な子供たちが
アマハゲも脅し甲斐、いや働き甲斐があるだろう。
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子供を連れてきた人たちと少し会話する。
遊佐町内の女鹿ではない集落から来られた女性は「孫が言うこと聞かないんで、ちょっとアマハゲに懲らしめてもらおうと思って連れてきたよ」と仰っていた。
因みに、その言うこと聞かない子はアマハゲを知らないらしい。
他にもアマハゲのことを知らないまま、親御さんの意思で連れてこられた子が少なからずいた。
先に書いたとおり、行事が行われるのは滝ノ浦、女鹿、鳥崎の3集落だけなのだが、アマハゲは遊佐町を代表する行事であり、遊佐町の人たちが誇りに思っていることが伝わってきた。

少し待っていると外から太鼓の音が聞こえてくる。
「これ、もうすぐアマハゲ来るんじゃない?」などと思い、お家の方に尋ねると「太鼓の音が聞こえてきても、何件かのお家を回るからすぐには来ないよ」と教えてくれた。
管理人ビビリ過ぎである。
とは言え、外でアマハゲが暴れるのを黙って待つのも勿体無い気がしたので、屋外に出て様子を見る。
冬の日暮れは早く、5時ぐらいには外は真っ暗になっていた。
アマハゲは各家々を回っている。

アマハゲがお宅に上がる。
こちらのお宅にも子供がいっぱいいるようで、玄関先からもカメラのフラッシュが盛んに焚かれているのが分かる。
そして、アマハゲの奇声やら叫び声やらが聞こえてくる。
現場は見えないが、中の音だけが聞こえる分阿鼻叫喚の度合いが強い。

男鹿のナマハゲのように、通りを歩いているときに「ウオーッ!」と叫んだりはしない。
代わりに太鼓の音に導かれながらアマハゲは各家々を回るのだが、「ドン・・・・ドン・・・・ドン・・・」というスカスカの太鼓のリズムが妙に怖さを煽るのだ。
これから訪れる修羅場を予感させる呪術的な響き、というのは大げさか。

アマハゲ来訪中、太鼓叩きは玄関前で待機
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そして、いよいよ上がらせてもらったお宅にアマハゲが向かう。
管理人も再度お邪魔して来訪に備える。
ゆったりした太鼓のリズムが急に早くなった刹那アマハゲが入ってきた!

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小さい子は泣き叫び、ちょっと大きい子はアマハゲに抱っこされて喜ぶ。
山形放送のTVカメラも入っているし、カメラマンもシャッターチャンスを逃すまいとアマハゲに密着する。
二間の和室にアマハゲ含め、2~30人がいるだろうか。
ということで、まさに芋の子を洗うような状態である。
その中で、アマハゲの「フェーッ!!」という素っ頓狂な雄叫び
ちょっとしたカオスと化す。

しばらく子供たちを相手にしていたアマハゲが横一列に座り、家のご主人と新年の挨拶を交わす。
そして餅とみかんをもらい、酒のもてなしを受ける。
男鹿のナマハゲは「早く酒をつげ!」だの「嫁コ、酒ついでけれ!」だの注文が多かったが、アマハゲは大人しくもてなしを受ける。
アマハゲは基本的に言葉を発しないので、そのせいもあるのだろうか。
動と静の落差が極端だ。

アマハゲのアップ
家の明かりの下で面を見ると、やっぱりちょっと怖い。
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この子はまさに泣き出しそう
というか、泣いちゃっているのかな?
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が、ちょこんと座るアマハゲにはどこか愛くるしさを感じる。
何より、叱ったり怒鳴ったりしないのがいいのか、子供にもたいへんウケがよく、抱っこされて喜ぶ子供も多数
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男鹿で見た「全国ナマハゲの祭典」のように、大人をいたぶるようなことは全くなかった。
子供たちの相手で忙しかったのだろうか、それとも滝ノ浦や鳥崎に行けばそういった場面に出くわすこともあるのだろうか。
その点はよく分からないが、滝ノ浦と鳥崎のアマハゲは女鹿とはそのしきたりが少し異なることは先に紹介したサイトにも記述がある。
男鹿のナマハゲがそうであるように、遊佐のアマハゲも集落ごとの多様性があるようで、その違いを楽しむのもありだろう。

そして退出
いったん大人しくなったはずのアマハゲが最後のひと暴れとばかりに再び子供たちに向かっていく。
子供たちを散々いたぶったかと思えば、静かになってしおらしくお酌を受ける。と思ったらまた暴れる。
この理不尽さを幼心に疎ましく思った子も多いだろう。
可哀想だ、だが盛り上がる。

結構動き回って疲れているはずのアマハゲだが、さすがに若い方が務めているだけありまだまだ元気な様子だ。
意気揚々と通りを闊歩する。
アマハゲに同行する子供たちは各家々から供されるご祝儀やみかん、餅などを受け取る。

ところで、こういった来訪神行事は全国にどれぐらいあるのだろうか。
男鹿のナマハゲでも紹介した稲 雄次さんの「ナマハゲ」によると、全部で74の行事が確認できたということだ(秋田県のナマハゲとナマハゲ類似行事を除く)。
思っていたとおり日本海沿岸地域に集まってはいるが、中には東京都西多摩郡の「トタタキ(トヘトヘ)」などもある。
同書を読むと、面をかぶらない来訪神行事も同種の祭りとして挙げており、日本人のマレビト信仰の奥深さを窺い知ることができる。

行事の開始から随分時間が経った。
カメラマンの数もぐっと減り、TV局、新聞社の人たちもとっくの前に撤収済みである。
ということで、アマハゲの出立直後には黒山の人だかりだったのが嘘のように集落は静まりかえっている。
その中を太鼓の音とアマハゲの奇声が響く。
これから上がるお宅には子供がおらず、したがって盛り上がる場面も終わったのでギャラリーはほぼなし、ということだが、おそらくひと昔ふた昔前ぐらいはこんなかんじだったんだろうな、と想像してしまう。

アマハゲは次々とお宅を訪問する。

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集落のほぼ南端まで進み、いよいよ最後のお宅訪問
子供のいないお宅でのアマハゲの振る舞いも見てみたいと思い、急遽お家の方にお願いして上げていただいた。
やはり子供がいないとアマハゲは奇声は上げどもたいへんに大人しく、礼儀正しくさえある。
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これでアマハゲは集落を全て回りきった。
アマハゲ退出後にこちらのお宅のご主人、奥様と言葉を交わす。
座敷にはアマハゲの面の額が飾ってある。
ご主人から「アマハゲの面は簡単には作れないよ。今はわざわざ秋田県仙北市の人にお願いして作っているんだ」と教えていただいた。
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奥様は「アマハゲがウチに来るのは最後のほうだから、毎年雪でビショビショになって座敷を濡らしていくんだけど今年は綺麗だね」と笑っていた。

アマハゲ一行はこれから打ち上げということで、集落の会館に集まる。
若い人たちが中心になっていたこともあり、賑やかな宴会になったことだろう。
出発~終了までおおよそ3時間
行事の終わった女鹿集落
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ということで、遊佐町いや山形県を代表する行事になりつつあるアマハゲ行事を堪能した。
子供たちを脅して回る存在ではあるが、どこか憎めない可愛らしさを併せ持つアマハゲ
行事開始前に、女鹿在住のおそらく90歳ぐらいのお婆ちゃんと話をしたが「アマハゲの太鼓の音を聞くと今でも怖いよ」と仰っていた。
そんなお婆ちゃんも、アマハゲの行進をニコニコと微笑みをたたえながら楽しそうに眺めていたのが印象に残った。
子供たちにトラウマ級の怖さを与えておきながら、一方ではその登場についつい笑みをこぼさせてしまうアンビバレントな存在
その多面的で、いかようにも受け取れる掴みどころのない魅力がアマハゲにはあるのだろう。
「ナマハゲが来訪神界のスーパースターなら、アマハゲは来訪神界のトリックスターだな」などと適当なコピーを付けて、一人悦に入りながら自宅のある秋田市を目指したのだった。


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