長太郎稲荷神社の初午梵天2018

2018年2月4日
2月。いよいよ待ちに待った小正月行事ラッシュが到来する。
特に2月10日以降は県内のあちこちで大型の小正月行事が目白押しとなるが、それらの陰に隠れるように、だがしかし秋田県民であれば決してスルーしてはいけない行事もこの時期に盛んに行われる。
それはもちろん、梵天行事!
このブログでもたびたび取り上げてきたし、どんな行事かという説明はこの際省かせていただきたい。

今回取り上げたのは、昨年も鑑賞した横手市大雄の「長太郎稲荷神社の初午梵天」
今年に入ってから、横手市大森町の「三助稲荷神社梵天」や秋田市の「太平山三吉神社ぼんでん祭り」など比較的メジャーな梵天行事がすでに行われているが予定がなかなか合わず、ようやく大雄の初午梵天を鑑賞できる運びになった。
初午とは、2月のいちばん初めの午(うま・十二支のひとつ)の日のことであり、伏見稲荷大社の主祭神であるウカノミタマが稲荷山に降りて鎮座した日なのだそうだ。
今年に関して言えば初午は2月7日(水)だったが、この梵天行事は毎年2月第一日曜日開催と決まっている。

当日2月4日を迎える。
11時の行事開始に合わせるように自宅を出発したが、思いのほか時間がかかってしまい、現地に到着したのは11時10分
1月中旬まではそれほどでもなかった積雪量だが、1月後半からずっと雪が続いて結果的にはいつもの冬の景色になった。

もう行事が始まっちゃったかなあ‥と心配しつつ、会場となる長太郎稲荷神社へ向かっていたところ、家々の間から梵天が見えた。

県立図書館で読んだ「大雄村史」によると、当日は朝8時頃から若者が集まって巡回を開始、途中の家々で恵比寿俵を玄関先に入れて梵天唄を唄う、ということでおそらくまだ巡回の最中なのだろう。

そして各地区の男たちが続々と稲荷神社に集まってくる。


昨年は中島、宮丁、西丁、乗阿気の4地区が登場したが、今年はそれに加えて大慈寺谷地(だいじちやち)地区が参加した。
新顔が初見参か!と思ったが、ここ数年はずっと出続けていたものの昨年だけ事情により参加できなかったらしい。
10本以上の梵天が奉納された最盛期に比べると数は激減したものの、常連の地区により行事が支えられている様子は見ていて頼もしい。

梵天一行に随行する軽トラックの荷台横を見ると‥

おお‥梵天用ホルダーが!
ここに梵天を固定して移動できるわけですね、大発明!

各地区が神社鳥居付近に集結
この行事は神社の所在地である中島地区の若衆が他地区の若衆を迎える形で行われる。
ということで、中島地区と他地区の若衆たちが対峙して、梵天唄が始まった。

制札をぶつけ合い、気勢をあげる。

鉛色の冬の空に梵天唄が響き渡る。
秋田の素晴らしい光景の一つだと本当に思う。
♪ 朝のなあ 出掛けによ 東を見れば 黄金な 混じりの 霧が降るなえ
♪ さえぎな またいでよ 座敷を見れば 鶴とな 亀とが 舞踊るなえ
大雄村史には「歌詞には番楽の言い立てや、ささら舞中の神舞の言い立てと共通する部分がある」と書かれている。
他の秋田の芸能と共通した精神性、様式が根底に流れているのだろうか。

こちらは乗阿気地区の皆さん
昨年の記事で紹介したように、昨年約25年ぶりにこの行事に復活を遂げた地区だ。
昨年に続いて、今年も元気に参加

これが長太郎稲荷神社
というか本殿はこの後ろに建っており、こちらの建物はオシャオド(押し合いお堂)と呼ばれ、昭和57年に梵天専用のお堂として作られた。
一辺が4.5mほどの長さの正方形の建物で、天井の高さも余裕を持って梵天奉納できるように建築されたらしい。

オシャオド前に鎮座するお稲荷さま

お稲荷さまの好物とされる油揚げがお供えされるらしいが、大雄村史によるとかつては生きた鶏がお供えされることもあったらしい。
そりゃ狐は鶏を襲うこともあっただろうけど、生きた鶏とは‥

そして梵天奉納が始まる。


この行事は、昭和42年に当時の潮流となっていた新生活運動や、出稼ぎの活発化などの影響でいったん休止となっている。
その後昭和55年に復活を遂げたが、その際にそれまで行われていなかった梵天奉納が行われるようになった。
恵比寿俵奉納がメインの行事ではあるが、梵天があることにより梵天コンクールも行われるし、それにより男臭いだけではない彩りが添えられている気がする。

大人に混じり、子供たちもオシャオドに突撃
こちらは宮丁こども梵天。梵天コンクールでは見事特別賞を受賞
子供たちよ、この行事を長く引き継いでいってねー!


昨年はほとんど見かけなかった上半身裸になっての奉納姿が、今年はとても多かった。
かつては上半身裸で行っていたものを、近年になって半纏を着用するようになったらしいが、これは原点回帰ということなのだろうか。
いずれにしても大雄の男たちの心意気が伝わってくるようだ。

梵天奉納が終わる。
その後梵天は社殿横の雪面に突き立てられる。

おお‥秋田犬ですかあ
こちらは中島地区

こちらは大慈寺谷地

今年の干支「戌」に因んでの梵天飾りではあるが、この後開幕する平昌冬季オリンピック 女子フィギュア金メダルのザギトワ選手絡みの秋田犬の盛り上がりをまるで予見していたかのようだ。
なお、今年の梵天コンクールの結果は以下の通り
最優秀賞‥乗阿気
優秀賞‥宮丁・西丁・大慈寺谷地
優良賞‥中島
特別賞‥宮丁こども梵天

梵天奉納に続いては、恵比寿俵奉納。いちばん盛り上がるヤツです。
待ち受ける中島の男衆

まずは中島地区同士で押し合いを行う。

そして、他地区を迎える。
一地区ずつ押し合いをするというのではなく、まとめて4地区を相手にする中島地区は本当にたいへん
もうグッチャグチャです!


スゴイ熱気!!オシャオド内はまさに芋を洗うかのような喧騒ぶりだ。
恵比寿俵は本物の米俵に比べるとかなり小型に作られている。
だが、中にはこのあと餅まきで振舞われるお菓子やみかん、餅が詰まっているのでそれなりに重いはずだ。
また、恵比寿俵には「先払い」といって、他地区の若衆を払い避けるための棒状の縄がつけられており、一般的な米俵とは形状も異なる。

そして奉納が終わるとオシャオド横の出口から全員が転げ落ちるように退出

オシャオドへ突進し、激しく押し合い、そしてゴロゴロと転げ落ちて最早クタクタなはずだが、この所作がなんと3回繰り返される。
その規模には不釣合いなぐらいにハードな行事なのだ。


激しい押し合いは五穀豊穣、無病息災を祈願するこの行事における目玉であり、より激しく奉納を行うことで願いが成就するとの謂れがあるとされている。
5地区の若衆たちは楽しみながらも、地区の幸せを一身に背負いながら行事を行っているのだ。
神聖さと激しさが入り混じり、独特の熱気を生み出していた。

恵比寿俵奉納に続いて、観客お待ちかねの餅まき
小さな雪の丘のうえと、オシャオド横の木のうえの2ヶ所から撒かれる。


恵比寿俵を開いて、中に詰められたみかんやお菓子、餅が皆に振舞われる。
こちらの熱気もすごく、観客が我先にとばかりキャッチ
因みにみかんはキャッチできずに直接地面に落っこちてしまうと大概割れてしまうので要注意
また、昨年同様に餅はカッチカチに固く締まっているので、キャッチミスして額に当ててしまった観客の「イテッ!!」という叫びが聞こえるのもお馴染みのシーンだ。


管理人はボーッと撮影している訳だが、それでも足元にお菓子や餅が転がってくることもあったので、ありがたくいただきました。

餅まきが終わり、行事は12時過ぎに終了
男衆の熱気、そして観客たちの元気さにいっときではあるものの、寒さを忘れられた気がする。
おまけに餅やらお菓子やらいただいたし‥、昨年同様、今年も楽しませてもらいました!
行事の終わったあとのオシャオドの様子

地域の男衆、皆さんがこの盛冬真っ只中の行事を心から楽しんでいる様子を今年も見ることができた。
また、わざわざ梵天のためだけにオシャオドを建てたことからも分かるように、地域の人たちがこの行事に捧げる熱を感じ取ることもできた。
小さな行事ではあるものの、地域の人たちにはかけがえのない唯一無二の行事なのだ。
先に書いたように、一時期には10本以上も奉納された梵天の数は今や6本に減ってしまったが、それでも大雄のこの地区の冬の風物詩としてずっと続いて行って欲しいと思う。


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