釜ヶ台番楽/杉沢比山/坂之下番楽/屋敷番楽

2018年3月24日
昨年10月以来となる番楽の登場だ。
今回はにかほ市の観光拠点センター「にかほっと」のイベントとして催された「環鳥海地域伝承芸能祭典」において、本海流獅子舞を伝承する4団体の番楽を鑑賞した。
同系統の番楽として共通する部分もあれば、異なる部分もあると思う。
そういった違いを意識しつつ、4団体それぞれの舞を楽しもうと目論んだわけだ。

当日
13時からの、各団体の登場に合わせられるように自宅を出発
途中で昼ごはんを食べたりしながら、12時半ににかほっとへ到着

会場となるフードコートはすでに人でいっぱい

後日読んだ秋田魁新報の記事によると200人超の観客が番楽鑑賞に集まったそうだ。
場所が場所だけにランチ目当ての人の出入りで会場がバタバタするのでは‥とも思っていたが、番楽をじっくりと楽しもうと来た人たちが大半だったようで、落ち着いて鑑賞することができた。
また、午前中は番楽の衣装をつけたり、獅子頭に触れたりできる体験コーナーが設けられ、そちらのほうも盛況だったようだ。

最初に登場する「釜ヶ台番楽」の番楽幕が早くも張られております。

本日の出演団体は以下の通り
①釜ヶ台番楽(にかほ市/旧仁賀保町)
②杉沢比山(山形県遊佐町)
③坂之下番楽(由利本荘市/矢島町)
④屋敷番楽(由利本荘市/旧由利町)

時刻は13時
お囃子方の準備が完了。ほどなく演目が始まる。

最初の演目は道化舞「番楽太郎」


シャグマ(髪の長いカッパの頭のような装身具。本海流番楽ではお馴染み)を背中と股に下げて、大げさな表情の面を被った道化がユーモラスに舞う。
また、左足首に手拭いが結ばれており(途中からずり落ちて、結局ほどけてしまうが)、県立図書館で借りた「本海番楽 -鳥海山麓に伝わる修験の舞-」によると、これは道化舞の典型的なファッションなのだそうだ。
頭に被るはずのシャグマを股に下げ、手拭いを足首に結ぶことで道化としての滑稽さが強調されているのだろう。

釜ヶ台番楽は五拍子の番楽として知られているそうだ。
たしかに、番楽太郎でも拍子が変わり、道化が部分的に激しく舞う箇所が見られる。
これは、本海獅子舞番楽の祖、本海坊が若くて体力のある頃に釜ヶ台に番楽を伝授したからと云われている。
因みにこの後に登場する、坂之下番楽は本海坊が年老いてからの伝授だったため、腰を曲げての所作が多いと云われており、同じ本海流の仲間ではあっても大きな違いがあることが分かる。

釜ヶ台番楽は8月14日の初棚供養、同20日の遅れ盆に地区の多目的会館において披露される(「秋田の祭り・行事」によると、かつては1月16日に災難消除、4月8日薬師様祭り、8月26日二十六夜待ち、9月8日秋祭りなどでも舞われていたそうだ)。
考えてみれば、これまでたくさんの番楽団体の舞を鑑賞したが、にかほ市の番楽を見るのは初めてだ。
本当なら昨年9月、由利本荘市民俗伝承館まいーれで催された「からうすからみ全國大會」で釜ヶ台番楽(演目は「四人臼舞」)を鑑賞するはずだったが、あろうことか遅参してしまい見れなかった経緯がある。
演目は違えども、今日はその時のリベンジということになるのだろうか。
なお、にかほ市には現在、本海流に属する番楽として釜ヶ台のほかに「伊勢居地番楽」「冬師番楽」「小滝番楽」「横岡番楽」が継承されている。


コミカルで、トリックスター的な所作が面白い。
エンディング近くでは道化が観客席に乱入し、あろうことか客イジリを始める。
こんな演目もあるんだな~とビックリしたが、道化舞やあるいはもちつきなどで割とお約束の所作でもあるようだ。


道化にちょっかいを出された男性は持ち上げられたまま、番楽幕後ろまで連れて行かれてしまった。
で、そのまま終演

オープニングを楽しく飾った番楽太郎につづいて「三人立ち」
この演目は昨年10月に山形県真室川町で行われた番楽フェスティバルで鑑賞済み(金山町の柳原番楽による舞)だったが、今日はなんと小学1年生3人組による舞!
登場とともに会場中が「頑張れ~!」という雰囲気に包まれた。


シャグマに頬かむり、襷掛けといった基本の装いは保ちつつも、ほとんどスパッツのような股引を履いて、太刀の替りに棒を持つなど、ところどころキッズ仕様になっているところが可愛らしい。
15年前に出版された、カメラマン初瀬 武美さんの写真集「鳥海山麓獅子舞・番楽」を拝見すると、やはり小学生ぐらいの子供たちが三人立ちを舞っている作品が掲載されていた。
北秋田市根子番楽においては、子供たちはまず先番楽である「露払い」をマスターするところから番楽を習得し始めるが、同じようなことが釜ヶ台における三人立ちにも言えたりするのだろうか。

後半は棒のあいだを入れ替わり立ち替わりくぐり抜ける難パートに突入
たいへんそうだけど頑張れ~!なお、後半の拍子は「くずし」と云われているそうだ。


釜ヶ台番楽には、四方固め(東西南北四方に向きを変えて同じ所作で舞うこと)が念入りに舞われるという特徴があるらしい。
これは本海坊が比較的若いときに釜ヶ台に番楽を伝授した影響と云われているのだが、小学1年の子たちの舞においても四方固めを重んじる伝統が感じられた。

小学1年生の子たちの舞が終了。健気に舞い遂げた3人に満場の拍手が送られる。
頑張ったね!よかったよ~(-^〇^-)

続いて「牛若弁慶」
まずは牛若の一人舞


牛若と弁慶といえば、管理人的には即座に「鞍馬」を思い浮かべてしまうのだが、「牛若弁慶」は装いはだいぶ異なるものの「曽我兄弟」にも通じるような武士舞だった。
本日登場する団体では、屋敷番楽に「弁慶」という演目があるが、こちらは題名が異なるだけで内容は「牛若弁慶」同様の二人舞だ。

弁慶が登場し、二人舞となる。

牛若は扇子を刀に持ち替えて、薙刀を振るう弁慶と対峙する。
しきりに跳躍を繰り返しながら刀と薙刀を合わせ続ける、躍動感いっぱいのエネルギッシュな舞だ。


シャグマに頬かむり、そして鎧姿で見せる激しい舞が観客を惹きつける。
それにしても200人超の観客が番楽に見入るというのは、本海流獅子舞が色濃く受け継がれているこの地ならでは、という気がする。
秋田県内でも全く番楽が存在しないところもあるし、当然地域による温度差がある訳だが、先に紹介した写真集「鳥海山麓獅子舞・番楽」では一般家庭の座敷と思しき場所で老若男女が大笑いしながら番楽鑑賞しているショットが載っている。
管理人の実家である横手市増田町には「八木番楽」があるが、これほどに盛り上がることはない。
同じ秋田だから‥と一括りにはできない文化、習俗の差異がこんなところからも感じられて面白い。

弁慶の一人舞へと移行

弁慶が見事な薙刀さばきを見せて、牛若弁慶は終了
以上で釜ヶ台番楽の出番が終わった。
4団体のオープニングを飾るに相応しい楽しさ、激しさ、そして可愛らしさに溢れた舞を披露してくれた。
釜ヶ台番楽では、現在18の演目が継承されているとのこと
式舞、武士舞といったスタンダードから、本海獅子舞ではそれほど多くない女舞(若子)、さらには昨年「からうすからみ全國大會」で披露された「四人臼舞(四人空臼とも言われる)」などバリエーションは豊かだ。
なかには「さかさま番楽」「やっちゃぎ獅子」など管理人にはとんと想像できない名前の演目まである。
保存会は積極的に各種イベントや公演に出演しているし、SNSを駆使しての情報発信にも努めており、今後の鑑賞機会も楽しみにしたいと思う。

続いて登場する団体は「杉沢比山」
昨年の番楽フェスティバルで山形の団体を幾つか鑑賞したが、杉沢比山は初めてとなる。
番楽幕が替えられた。

本海流といえば濃紺を基調とした番楽幕がほとんどだと思うが、杉沢比山の番楽幕は白地だった。
これは珍しい。この点だけを取っても、杉沢比山がスタンダードな本海流とは異なる要素を持つことが何となくうかがえる。

最初は「しのぶ」
奥州平泉高館合戦での信夫太郎景時の奮戦の様子をモチーフにした演目だ。


舞い始めの僅かな時間で、一般的な本海流とは一線を画す番楽だということが分かった。
太鼓と手平鉦のシンプルなリズムを基本として、決してアップテンポに切り替わることはない。
また、お囃子方は番楽幕の後ろに陣取っており、おそらくは舞手を見ないまま演奏しているはずだ。
そして舞手は右足を前に高く上げる動作、円を描くようにゆっくりと歩く所作を頻繁に繰り出す。
このような特徴は本海流にはない。

小太鼓を持っての舞へ続く。
この所作は以前鑑賞した、本海獅子舞番楽 前ノ沢講中の「信夫」において、舞手が太鼓を担ぎ上げて舞を見せる部分と類似している。
この所作が入るため、同演目は「胴取り信夫」と呼ばれることがある。


杉沢比山のことを知るために県立図書館で借りた「民俗芸能探訪ガイドブック」には、この武士舞について「独特の太鼓のリズムときびきびした所作が目立ち、じつに切れのいい演技が基本になっている」と記されている(執筆者は昨年の番楽フェスティバルで解説を務められた菊地和博さんでした)。
ともすれば単調とも言えるような太鼓のリズムは、むしろ舞手の所作のひとつひとつを際立たせるためのものではないか、とも思えるし、さらにはシンプルなリズムが繰り返されることによって一種のトランス状態へ導かれ易いとされており、そういった効果をも狙っているのではないかとも考える。

太刀を持っての舞から扇子の舞へと移る。


このパートでは空中で太刀を振り回しつつ、走るように「腿上げ」を繰り返す番楽ではお馴染みの所作が短いあいだながら見られた。
舞の最終盤でようやく管理人が知っている番楽と符合したかんじだ。
因みに、本海獅子舞番楽では必ず最初の演目として披露される獅子舞は、杉沢比山にはないそうだ。

「しのぶ」が終了
本海流のなかでもかなり異質で独自性の色濃い舞であり、秋田県内の本海流とはもちろんのこと、昨年鑑賞した山形県真室川町・金山町の諸団体とも違う「杉沢比山」としか言い様のない舞だった(真室川町・金山町の番楽は本海流の要素をかなり忠実に受け継いでいる)。
「しのぶ」に続いて舞われるのは「翁」
そして翁においては、本海流からよりかけ離れた不思議な舞が見られたのだった。

舞手が登場


最早番楽ではなく、これは能だと思う。
一般的な番楽では決してお目にかかることのない能装束のような衣装に、ほとんど謡(うたい)だけのお囃子に乗ったゆったりとした舞
管理人が知っている番楽の範疇からは完全に逸脱している。
だが、100%能かといえばそうでもなく、なんとなく番楽らしさが残っている気もする。
番楽の記事を書くたびに、ジャンル分け・分類に汲々としている管理人をさらに悩ませる演目に出会ってしまった訳だ。

翁は長寿を祈る舞とされている。
その点は以前根子番楽で鑑賞した「翁舞」と共通だが、杉沢比山に関して言えば能における「翁」との共通項のほうが見出しやすいはずだ。
因みに能の世界においても翁は「能にして、能にあらず」とされるほど、特殊で独自性の強い演目らしい。


「民俗芸能探訪ガイドブック」によると翁や「三番叟」などは、観阿弥・世阿弥によって能が大成される以前の「猿楽能」の古い姿をうかがわせる演目なのだそうだ。
山形県日本海側には鶴岡市に「黒川能」という全国的に知られる能が継承されているし、杉沢比山の本拠である遊佐町杉沢地区のすぐ近くには酒田市の本盾神代神楽なども存在する。
そのうえに本海流の伝播もあった訳で、それらの芸能が見事に杉沢比山の舞に凝縮しているかのようだ。
また、杉沢比山には「猩々(じょうじょう)」という演目もあるのだが、それなどは太刀を咥えたまま逆立ちをしてみせるという極めてアクロバチックな所作を含んでいたりする。
演目によっていろんな側面を持つ芸能であると言えよう。

ゆったりとした舞が15分以上披露された。
先の「しのぶ」にはトランス状態志向があるように感じたが、翁のほうはぴーんと張り詰めた緊張感が伝わる舞だ。


翁が終わり、杉沢比山の出番は終了となる。
秋田と山形の違い、という枠では捉えきれないぐらいに異なったスケールを見せてくれた杉沢比山だった。
「本海番楽 -鳥海山麓に伝わる修験の舞-」には、この違いについて、そもそも鳥海山の麓の地域といえども、修験(番楽は修験がその誕生の基礎と云われている)の系統が異なっており、その点があたかも番楽の相違に反映されているかのようだ、との内容が記されている。
曰く、本海流の本拠は矢島町~鳥海町のいわゆる矢島修験であり、そこから二次的三次的に伝播していった番楽継承地を本海流としているが、杉沢比山は元々山形県側の蕨岡修験に属するらしく(蕨岡修験を「順峰修験」、矢島修験を「逆峰修験」とも呼ぶそうだ)、だとすれば元々の文化的土壌が異なっているとも考えられる。
そして先に書いたとおり能の影響もあり、「本海流にして本海流にあらず」(←「能にして能にあらず」をパクりました)とでも言うべき極めてユニークな番楽が完成したように思う。
そのようなことを考えさせるぐらいに素晴らしく、異文化体験とでも言えるぐらいのインパクトにあふれた杉沢比山との出会いだった。

続いて坂之下番楽が登場
番楽幕には、御用番楽として坂之下番楽を庇護していた、矢島藩主生駒家の半車御紋が染め抜かれている。

最初の演目は「獅子舞」


この地に伝承される番楽の魂とでも言えるのが獅子舞だ。
獅子頭には神が宿るとされており、本海獅子舞、本海流では神聖かつ重要なものなのだ。
そして、他の番楽諸演目と異なる点は獅子舞は番楽の舞台のみならず、新築家屋での火伏せの祈祷、お盆のお祓い、亡者の弔いなど生活のさまざまな場面で舞われる点にある。
まさに、鳥海山麓集落の守り神として信仰されてきた訳だ。
また、番楽においては、必ず最初に舞われることになっており、獅子舞は獅子頭を持つ前の「下舞(あるいは神舞)」と、獅子頭を持ってからの「獅子がかり」で構成される。
坂之下番楽の獅子舞は、素手で踊る→獅子の咥えていた扇を振って舞う→太刀を抜いて舞うという順番で構成されており、おおむね本海獅子舞、本海流はこの順番と同じ構成になっている。

獅子がかりへ移行


獅子舞の特徴となる所作が次々と繰り出される。
けたたましい歯打ちの音、獅子頭を左右に振って、さらには高く掲げる激しい動き
本海獅子舞において、「天地和合」「龍門の振り返し」「三条のみこし」と呼ばれる、獅子舞の重要な要素だ。
これらの所作を繰り返すことで家内安全を祈願し、災難疫病を祓うとされており、獅子舞が「祈祷獅子」とも呼ばれる所以となっている。

エンディングに向けて、獅子がさらに躍動する。


獅子舞が終了
坂之下番楽は幕開き・幕納め以外に、お盆公演など含めて年に数回舞を披露しているが、調べたところ坂之下の獅子舞を見られる機会はそれほど多くないようで、今回は本当に貴重な経験だった。
10分ほどの時間ではあったが、本海流の獅子舞のエッセンスを凝縮した素晴らしい舞を鑑賞できた。

続いては「空臼からみ」


中央の臼の周囲をグルグル回りながら、時には闊達で、ときにはユーモラスな所作を交えて舞われるユニークな演目だ。
先の獅子舞については、滅多に見れるものではないようなことを書いたが、空臼からみについて言えば管理人は3回目の鑑賞となる。
1度目は昨年3月、2度目は昨年9月、そして今回。このペースで行けば今年の9月に4回目を見ることになる。
ちょっとした空臼からみマニアのようだ。
前二回と同様、今回も矢島高校の生徒さんたちによる舞だ。

この舞を見るたびに思うのだが、とにかく動きが激しい!
瞬発力+持久力(舞は20分近く続く!)が必要で、無尽蔵のスタミナがないと務まらなさそう。
そういった意味でも若年~青年層にしか舞うことのできない希少さを内包する舞なのだ。

空臼からみと同種の演目は他の団体にもある(鳥海町貝沢集落には、番楽の演目としてではなく「貝沢からうすからみ」という名の単独の芸能として伝承されている)が、坂之下の空臼からみは舞手が飛び跳ね、体をひねり、かがんだりと、とにかくよく動く。
それに合わせてお囃子も曲を次々と変えて、舞をさらに盛り上げる。
この展開の激しさがひとつの魅力でもあると思う。

この演目にこっけい舞である鳥刺舞の要素が入っている、ということを以前聞いたものの、どこにその要素があるのか知らなかったが、臼から離れた舞手が棒を下半身から突き出すあたりが鳥刺舞なのだそうだ。
たしかに卑猥な仕草ですなあ‥


坂之下番楽は御用番楽だったにもかかわらず、伝承されている全19演目のなかには、空臼からみ以外にも「ソッツォク」「可笑」「餅搗き」などの道化舞が含まれている。
まさかそれらの舞を殿様の前で披露することはなかったと思うが、御用番楽としての格調を保つ一方で、下ネタ混じりの演目もレパートリーにしてしまう振り幅の大きさを窺い知ることができて何だか面白い。

そしてテンポが急速に早まり、エンディング
もうみんなヘトヘトだろうな~、頑張れー!!

そして舞は終了。満場の喝采を浴びていました。

今回もまた堪能させてもらった。
以前の記事にも書いたとおり、この演目は番楽を全く知らない人でも十分に楽しめるキャッチーな魅力を持っている。
舞そのものの楽しさもあるし、カラフルなハダコ(衣装)、どこかコミカルなメロディを持つお囃子など、本海流の数ある演目のなかでもエンターテインメント性は抜群だ。
是非たくさんの人にこの舞の面白さに触れて欲しい、ということでダイジェスト編集しました。

「獅子舞」「空臼からみ」の二演目を披露した坂ノ下番楽に続いて、トリを務める屋敷番楽の登場

まずは「獅子舞」


坂之下番楽の獅子舞同様、神聖で厳粛な舞が披露された。
坂之下と比べるとお囃子のテンポがスローな分、重く腹の底に響くかんじだ(屋敷番楽は五拍子が特徴とされている)。
屋敷番楽の獅子舞は、天明3年(1783年)に由利地方で猛威を振るった飢饉で多くの人々が亡くなったのち、集落の人たちが矢島町荒沢に出向いて獅子舞を習得したのがルーツとなっており、それがゆえに悪疫退散、五穀豊穣を祈願する目的で舞が継承されてきた。
他にも家屋の新築、収穫の儀式などでも披露されることがあるそうだが、現在は8月16・26日の春日神社奉納後に集落内に建立された舞楽堂で、その舞を見ることができる。

今回は獅子頭を持つ前の下舞は省略され、始まりと同時に獅子頭を取っての獅子がかりが披露された。


獅子が頭を地面にすりつけるように舞う。
この所作は、新築家屋において火伏せの祈祷を目的として行われる「柱がらみ」でよく見られるという。
昨年、由利本荘市民俗芸能伝承館まいーれのプレオープンイベントの様子の一部がNHKで放送されたが、その際に柱がらみが披露されていたのでご覧になった方もいると思う。
これは家の中心である柱を祭柱として獅子が絡みつくところからその名称がついている。
そして柱がらみの特徴的な所作が頭を地面につけながら掛け歌を唄う「這い獅子」と呼ばれる所作なのだ。
今では柱がらみを依頼する家庭も少なくなったようだが、個人的には一度生で見てみたいと思っている。

伝統の獅子舞に続いて披露されるのは「熊谷」
一の谷の戦いにおける熊谷直実と平敦盛の一騎打ちをモチーフとした演目だ。


「曽我兄弟」「信夫」などと並んで武士舞の代表的な演目で、管理人は今回が初めての鑑賞だ。
で、熊谷と平敦盛の二人舞だと思っていたが、一人舞だった。
「本海番楽 -鳥海山麓に伝わる修験の舞-」にも「(熊谷と敦盛が)刀を抜いて一ノ谷の合戦で戦う様子を演じる」と書いてあるので、基本は二人舞のようだが、同じ演目でも2通りの舞があるということだろうか。
因みに今舞われている熊谷はシャグマに頬かむり姿なのに対して、「本海番楽 -鳥海山麓に伝わる修験の舞-」に記されている熊谷と敦盛の出で立ちは烏帽子、襷掛け、ゴザ袴ということであり衣装も異なっている。

屋敷番楽には現在20の演目が伝えられており、「熊谷」は一時途絶えていたものの近年になって復活した演目のひとつだ。
以前の記事「蒲田天神講」を書く際にも参考にした「由利の民俗(下巻)」を読むと、1990年代になってそれまで途絶えていた演目が続々と復活を遂げてきたことが分かる。
「蕨折り」などは約40年ぶりに復活したというから、関係者の方々の熱い思いが伝わってくるようだ。


ところで旧由利町は屋敷番楽、先に紹介した「蒲田天神講」以外にも「飯沢菖蒲叩き」「曲沢精霊だち」「町村奉納相撲」など管理人好みの小さな行事がたくさん存在する、一大要注目スポットなのだ。

扇子を太刀に持ち替えて舞が続く。
太刀を巧みに操る所作が随所に見られ、武士舞のダイナミックさと同時に美しさも感じられる舞だ。


熊谷が終わった。
屋敷番楽の武士舞について、「秋田の祭り・行事」に「テンポが早く、所作は勇壮」と書かれているとおりで、キレのあるシャープな舞を楽しませてもらった。
武士舞の特徴がよく表れており男性的ではあるが、装具の色使いに女性らしさも見え隠れするカッコイイ舞だと思う。

いよいよ本日最後の演目「鳥舞」


式舞の代表的な演目の一つである「鳥舞」は、天の岩戸が開かれた時に鶏が夜明けを告げるために舞った、あるいは雌雄の鶏の仲睦まじい様子を表現したと云われている。
舞い手が雌雄の鳥甲を被り、袴姿、襷掛けの衣装ははどの番楽にも共通しているが、中には本海獅子舞 八木山・平根講中のように雌鳥が振袖姿というところもあるらしい。
おそらくは鳥甲に丸(満月?)があしらわれている方が雄で、三日月があしらわれている方が雌だと思う(雄の鳥甲の上についているトサカのほうが大きいので)。

舞は向かい合った体勢から始まり、背中合わせ、そして最後は雌雄ともに観客の方を向いて舞われる。

おそらくは源平合戦を題材としたであろう番楽幕を背景に、カラフルな衣装の雌雄の鶏が舞う様子は色彩が豊かで、思わず楽しい気分になってしまう。
式舞は番楽上演において、最初に舞われる獅子舞(神舞)に続いて披露されることが多く、「本海番楽 -鳥海山麓に伝わる修験の舞-」によると、鳥舞 → 翁 → 三番叟の順番が比較的よく見られるパターンなのだそうだ。
たしかに楽しく明るい舞(鳥舞)から、静かでスローな舞(翁)、激しい舞(三番叟)と続く展開は見るものを飽きさせない工夫があることをうかがわせる。


鳥舞が終わった。
エンディングを明るく盛り上げるような楽しい舞を見せてもらった。
屋敷番楽には「志賀団七」という、本海獅子舞にはほとんど見られない演目が存在する。
白石城主片倉小十郎重長の剣術指南役 志賀団七に父を殺された姉妹が、由井正雪の手ほどきで剣術を身に付け、やがて仇討ちに成功するといったストーリーを、第一幕~第四幕に渡って披露する物語舞とも言えるような長編の演目だ。
また、屋敷番楽は先に書いたようにたくさんの演目の復活に成功し、2009年には全20演目を完全収録したDVDを制作するなどエネルギッシュな活動ぶりが注目される。
志賀団七含めた、それら情熱の結晶ともいえる数々の演目をいつの日か地区の伝統芸能専用施設(これも珍しい!)舞楽堂で鑑賞したいと思う。

これにて全ての団体の演目が終了。観客は一斉に引き上げ、管理人も会場をあとにする。
外に出ると、雄大な鳥海山がくっきりと姿を現した(決して電柱を撮影した訳ではありません)。

2時間半にわたって4団体の舞を堪能
秋田県内各団体の伝統的な本海流の番楽を見れたうえ、杉沢比山のような異質な舞にも接することができて大満足だ。
番楽のバリエーションの幅広さを知るとともに、ひとつひとつの演目の面白さにも目を奪われた。
暖かい時期の到来とともに、集落の行事のみならず、いろんな場所での上演機会が増えると思うが、もっともっとたくさんの秋田県民にこの伝統芸能のことを知ってもらいたいと思う。
今日の観客たちのように、友達と連れ合ってお茶とお菓子を楽しみながら、わいわいがやがやと気軽に鑑賞できる楽しいコンテンツでもあるし、まだ見たことがないという人には一度鑑賞することをお勧めしたい。
そして、管理人も環鳥海地域の団体はもちろんのこと、秋田県内に広く分布する番楽団体をこれからもフォローしていきたいと思う。


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