菖蒲蓬

2018年6月4日
今回の行事はにかほ市金浦の「菖蒲蓬(しょうぶよもぎ)」
数は多くないながらも全国各地に点在する菖蒲たたき行事の一形態として、金浦の赤石地区で長く継承されてきた行事だ。
簡単に言うと「菖蒲と蓬を包んだ野球のバットぐらいの長さのワラを地面に打ちつけて、厄除けや健康を祈願する」とでもなるだろうか。
実は管理人は5年ほど前に一度鑑賞した事があり、今回はそれ以来の訪問となる。

行事が行われるのは毎年6月4日
今年は月曜日にあたるので本当なら仕事で鑑賞できないはずだが、私用を理由に午後から有給休暇を取得できたので(というか、この行事を見るためにこの日に用事を入れました)、夕刻の行事開始に間に合うという訳だ。
以前鑑賞したときは17時半に行事を始めていたので、私用がちょっと長引いたとしてもおそらく余裕で間に合うだろうという計算です。
そして当日
私用はさっさと片付いたので一も二もなくにかほ市金浦へ向かい、15時には到着してしまった。
行事の開始までだいぶ時間があったので、金浦駅に併設されているにかほ市立図書館こぴあで読書しながら時間を潰す。
そして17時に現地金浦赤石へ向かった。

にかほ市へ来たのならば、まずは鳥海山に挨拶せねばなるまい。
こんにちはー!今日も秀麗ッスねー!

そして会場となる橋へ向かう。お~子供たちがいるいる。

冒頭書いたように管理人は5年前にこの行事を鑑賞したので迷うことなく、行事の行われる赤石川にかかる橋へたどり着いたが、場所がちょっと分かりづらい。
要は金浦駅前の大通り(羽州浜街道)をクッと曲がって細い道に入るのだが、初めての人はどこで曲がればよいかまず分からないだろうし、もちろん「菖蒲蓬会場はこちら⇒」と看板が出ている訳でもない。
ということでgoogleストリートビューで見るとこんなかんじになってます↓

そろそろ菖蒲たたきが始まるのか?などと悠長に様子を見ていると‥なんか様子がおかしい‥

ワラを道路に散々打ち付ける行事なので当然ワラ屑が大量に散らかるのだが、どうやらワラ屑を片付けている最中
ん?菖蒲たたきはこれから始まるんじゃないのか??

橋のたもとのあたりでは‥


「秋田の祭り・行事」には「縄(管理人注:ワラを束ねる縄のこと)が切れると5mほどの大蛇に作り替え、とぐろ巻きにして子供を乗せ、掛け声をして行事を盛り上げます」とあるのだが、どう見てもワラをとぐろ巻きにする作業が行われている。
基本的にこの作業は菖蒲たたきが終わってからでないと着手できない。
作業をしていた一人の男性に恐る恐る「あの~、もしかして菖蒲たたきって終わっちゃったんですか?」と尋ねると「はい。16時半に終わりましたよ」と無慈悲な答えが!ガーーン

クライマックスである菖蒲たたきの場面をあろうことか見逃してしまったわけだ。
しかも行事の開始に間に合わなかったとかの理由なら百歩譲ってまだ納得できるが、とっくに現地に着いていながら見逃すという失態
市立図書館こぴあでボーッと時間を潰したことを激しく後悔(しかも、読書というかほとんど昼寝していただけだし)
いやあまいったなあ‥などと独りごちてももう遅いのです。
ということで致し方ない。前回(2013年)の訪問時に撮影した菖蒲たたきの様子がこちら↓
考えてみれば5年前は17時半から行事が始まったからといって、それが2018年の今年も通用するというものではない。
きちんと事前に確認を取らなかった管理人がダメなのだ。
まあ、前回は菖蒲たたきの場面だけを鑑賞し、そのあととぐろ巻きの大蛇に子供たちを乗せるところは見ていなかったので(そんなことが行われているって知らなかった)、前回と今回の2本を合わせて1本分鑑賞した、と思うことにした。

それにしてもワラを巻く作業に思いのほか時間がかかる。


細かく観察していたわけではないので手順を正確には覚えていないが、一回巻くたびに外側と内側のワラをきつく荒縄で束ねて、さらにもう一巻きしたらまた外側と内側を束ねるというのを繰り返していた。
荒縄は千枚通しのような道具を使って表から裏、裏から表へと通される。
たしかに体重2~40kgぐらいの小学生の子たちを乗せる訳なので、スポーンと解けたりするとたいへんなことになる。
ということで頑丈に束ねて強度を上げないといけないのだ。

子供がつかむ取っ手部分です。

先に「全国に点在する菖蒲たたき」などと書いてしまったが、正直に言うと分布の状況がまるで分からない。
秋田県内で見ると由利本荘市(旧由利町)飯沢地区の「チャラポッポ(飯沢菖蒲たたき)」や男鹿市の一部地域、県外では山形県でも行われているようだが、全国的な分布を網羅する資料などを見つけることができなかった。
ただ、ここ金浦のようにワラをとぐろ巻きにして子供たちを乗せる、というのは由利本荘市や男鹿市でも行われていないようだし、おそらく全国的に見ても希少だと思う。
また、由利本荘市や男鹿市においては子供たちが各家々を回って玄関先で菖蒲たたきを行うらしいが、赤石では橋に集合して行うスタイルとなっている。

大人たちが準備をしている間にも子供たちはかけっこをしたり、綱引きをしたり元気いっぱい

余ったワラは川岸で焼き払われる。

煙があたりに広がる。

煙から口、鼻を守る子供たち。イスラム教の礼拝ではない。

この行事に関する資料は見つけることができなかったが、先述の「チャラポッポ(飯沢菖蒲たたき)」の詳細が記されている「由利の民俗 下巻」を読んでみたところ、チャラポッポの起源となった言い伝えとして「昔飯沢の近くに鬼婆が住んでおり、月夜になると襲ってきたため、飯沢集落の住民が菖蒲の中に隠れたところ、菖蒲の葉が月の光で光って剣の先のように見えたため、鬼婆は恐れをなして退散した」ことが書かれていた。
赤石と飯沢がそれほど近い距離だとも思えないが、にかほ市と由利本荘市であれば何らかの関連があってもおかしくないし、むしろ何かの繋がりがあるほうが自然なようにも思える。

そして、少々時間がかかったが無事に大蛇のとぐろ巻きの完成
小さい子供たちから順に大蛇に乗せられる。

この行事の目的について「秋田の祭り・行事」には「子どもを悪魔から守る祈願」、「金浦町史 上巻」には「子供たちの身体堅固、無病息災を祈るため」と記されている。
いわば、地区の大人たちが子供たちのために行う行事であり、主体は大人、主役は子供の行事とでも云えよう。
そして子供たちが楽しみにしているのが、大蛇に乗って胴上げよろしく持ち上げられるこれからの時間なのだ。

持ち手の男性の「ドンツキドン!」の掛け声に合わせて、4~5度ほど子供たちが宙に上げられる。
掛け声ということで言えば、本来は「ごんがんごえのしょうぶよもぎのばっちゃばちゃ、鬼のまなぐつぶえれ」と子供たちが唱えながら菖蒲たたきが行われていたらしい。
「ごんがんごえ」とは5月5日のことで、この行事が元々端午の節句(旧暦5月5日)の行事として行われていたことに由来している。
5年前に菖蒲たたきを鑑賞したときにはこの掛け声は唱えられていなかったので、おそらく耳にすることはもうできないと思う。

そして、あっという間に最後の子の番となる。
その立派な体格に一同あらためて気合を入れ直す(笑)本日最多となる5人の担ぎ手により持ち上げられる。


こうして無事に終了
子供たちが無邪気に、屈託なく楽しむ様子が本当に素晴らしい。
伝統行事がこのような形で子供たちに喜ばれ、そして周りを囲む親御さんたちも思わずほっこりしてしまう。
菖蒲たたきの場面は見逃したものの、こんな素敵な場面を見れただけでも来た甲斐があったというものだ。

次に子供たちを乗せた大蛇のとぐろを解いて、一本の綱に戻す。


この作業は非常に短時間で終わった。

そして皆で大蛇を持ちながら羽州浜街道沿いに歩を進める。

距離にして80mほど歩くと、あるお宅の敷地内に大きな木がそびえ立っている。

この木は「タブノキ」
おそらく高さ8~10mはあるであろう、この巨木に男性が登って大蛇を巻きつける。
この行事がいつから始まったか定かではないが、このタブノキには何百年にも渡って端午の節句の折に大蛇を引き受けてきた、と思わせるような貫禄がある。
因みに現地の年配の方に伺ったところによるとタブノキが自生する北限がちょうどこのあたり(にかほ市周辺)なのだそうな。

子供たちがタブノキへ向かって一礼

これにて行事は無事終了。その場で散会となった。
管理人も菖蒲たたきの場面を見逃したことなどほぼ忘れたぐらいに満足し、秋田市へと帰っていった。

派手さはなく、地元のごく限られた人しか参加しない行事ではあるが、子供たちが心の底から行事を楽しんでいる様子がとても印象的だった。
そして、子供たちの晴れ晴れとした笑顔をこのような伝統行事の中で見ることができる、というのがとても素晴らしいことだと思う。
金浦赤石では、1月には子供たちが来訪神に扮するアマハゲ行事も行われている。
秋田広しと言えども、これほどに子供たちの行事に独自性が見られる地域も珍しいのではないだろうか。
ということで菖蒲蓬。これからも地域に長く受け継がれるハートウォーミングな行事として、たくさんの笑顔をもたらしてほしいと思う。


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