藍と端縫いまつり

2018年8月5日
8月16~18日の3日間に渡り、羽後町西馬音内で行われる「西馬音内の盆踊り」
阿波踊り、郡上おどりと並んで日本三大盆踊りのひとつとされる、秋田が全国に誇る伝統行事だ。
そして盆踊り本番を前に行われるのが今回の「藍と端縫いまつり」
盆踊りの衣装である端縫い(はぬい)を所有する各家庭が、衣装の虫干しを行うとともに公開するイベントで、今年で19回目の開催となる。

イベントは8月の第一土日曜日に行われる。
昨年は第一金土日の3日間、それ以前は第一日曜日の1日のみと毎年開催日数が変わっているが、今年は土日の2日間ということだ。
ちょうど日曜日に増田町の実家で用事があったので、それを終えてから羽後町行きを計画
管理人は一昨年に出かけたことがある。
そのときはとにかく暑い日で、たしか最高気温36℃を記録していたと思う。
それでも端縫いを展示しているお宅におじゃまして冷たい麦茶をご馳走になったり、名店「弥助そば」で名物冷やがけを食べたり、盆踊り会館の定期公演を鑑賞したり、と印象深い一日を過ごすことができた。
あの日の楽しさよもう一度、ということで再訪を決定

当日
実家での用事が思いのほか時間がかかってしまい、現地西馬音内に到着したのは14時半過ぎ
16時のイベント終了までそれほど時間がなく、のんびりと鑑賞できそうにない。

おそらく午前中から昼にかけてはたくさんの客で賑わったと思うが、今ぐらいの時間になると人の姿はまばら
また、このイベントに合わせて行われる盆踊り会館の特別公演は14時~開始なのでそちらも見ることができなかった。

早速突撃開始

西馬音内本町通り沿いを歩くと↑のようなのぼりを掲げているお宅が点在している。
これが端縫い衣装を虫干ししているお宅の目印であり、家の中に上げさせてもらうことができる。

一軒目のお宅へおじゃまする。
2年前も訪問したお宅で、年配の女性が迎えてくれた。座敷へ通されると、たくさんの端縫いが飾られていた。


座敷をぐるっと取り囲むように端縫い・藍染が飾られていて、その全てが長年にわたり、このお宅で大事に保管され続けてきた貴重な衣装ばかりだ。
古いものでは作られてから100年ほど経つそうだ。
また、この日展示される端縫いは基本的に盆踊り本番で着用されるものではなく、かつては着用されたものの今は箪笥の中で眠っているものとなる。
さすがに年代物なので着用 → 踊る → 水洗いの繰り返しには耐えられない訳だ。

この柄は珍しい。
茶色をメインに歌舞伎役者と思しき人物画が大胆に描かれている。
秋田市出身の民俗学者 奈良環之助氏が「元来よそゆきの着物の中着なのだから、胴の部分は色もようのちりめんなどの縫い合わせで、袖と裾とは別の色調の切れを端縫ったもの」と端縫いを定義しており、その説にしたがうと歌舞伎役者の絵柄は胴に描かれているので本来は隠される部分となる。


こちらのお宅は点数が多く、座敷だけでは収まらず廊下にも飾っていた。
後日読んだ秋田魁新報によると、今年は約60件のお宅、商店で200着ほどの衣装が展示されたそうだ。
すっかり西馬音内盆踊りのプレイベントとして定着した感がある。

次のお宅へ。西馬音内川にかかる二万石橋を越えて移動

酒屋さんへ入ります。陳列棚の前に端縫いが飾られていた。

統一感のある3着の端縫い
各家庭のご婦人たちによって作られて代々受け継がれてきたものであり、こちらの酒屋さんでも大事に保管されてきたに違いない。
小坂太郎さんの「西馬音内盆踊り わがこころの原風景」には「日常の暮らしのなかのおりおりに、色とりどりのさまざまな絹の端切れを集めておき、配色や図柄の構成に工夫を重ね、心を込めてそれを接ぎ合わせ、縫い上げてきたのである」と記されている。
淡い色彩をベースとした作風がこちらのご婦人の特徴だったのだろう。

続いてのお宅。のぼりを出していないが、外からも鑑賞可能。ごめんください、と声をかけるとご婦人が出てきてくださった。
実は2年前にもこちらのお宅を訪れて、ご婦人からいろんな話を聞かせていただいた。


腰の少し上のあたりに黒ずんでいる箇所がある。
これは紛れもなくご先祖が盆踊り本番で着用した際の帯の跡だ。
先に書いたように今は現役を退いた端縫いではあるが、この黒ずみがかつての盆踊りの熱気を教えてくれるかのようだ。

特別に端縫いに触らせていただいた。
こんな貴重なものなのにありがとうございます。
この端縫いはそれほどでもなかったが、中には防寒用の中着として着用されていたため、結構分厚い作りのものもあったりする。
現在も端縫いは制作されているが、現在のものはそれほど厚手の生地は使っていないらしい。

次のお宅も外からのみ鑑賞可能。レイアウトがお洒落


編笠を手前に置いて、数着の端縫いが飾られている。
他県の盆踊りファンの方から送られた着物をベースに仕立てた端縫いであり、近年の作のようだ。
ただし、元の着物自体は古いものでは大正~昭和初期のものらしい。

次のお宅、お店に向かおうとしたところ、なんとかもっていた曇り空からポツポツと降り始めた。
と、思っていたらあっという間に土砂降りに(;_;)

雨を避けるように次の洋品店へ駆け込む。


否応なく目に入るのがこちらの端縫い
端縫い衣装に感銘を受けたアメリカ人アーティストの作品だ。
それぞれのお宅、お店には簡単な紹介パネルが置かれているが、それによると最愛のご主人を亡くされたこの方が来日して西馬音内盆踊りを鑑賞した際にかがり火から亡きご主人の魂が甦るかのような感覚を覚えたことにインスパイアされ、この衣装を仕立てたということだ。
そして衣装に使われている葉っぱのような布切れひとつひとつをきちんと古い布から作ったそうだ。

薄い紫色が上品なかんじです。


盆踊り保存会が昭和58年に刊行した「西馬音内盆踊の記録」には「多数の見物人の目にふれる踊り衣装に、婦人たちがなみなみならぬ関心と工夫を寄せたことはうなづけます。衣服に対して執着の強い女性たちは、小布やはんぱな布でも捨て去らず、残しておいたものでしょう」と書かれている。
そのような労苦を感じさせない優雅さが端縫いの魅力ではあるものの、一着一着に語られるべきストーリーがあることが何より素晴らしい。

盆踊りグッズも充実しています。こちらは風呂敷

これは売りものではないです。

端縫いのデザインは基本的に左右対称になっている。
たくさんの布切れを集めて制作するため、ともすれば散漫な出来栄えになる可能性もあるが、左右対称の原則が貫かれていることで現代的な感覚を伝える意匠となっている。

雨が降り止まない。サクサク行きましょう。

案内所も16時を前に店じまい

次は呉服店


こちらの呉服店では今まさに端縫いの製作中だった。その手を止めて見せていただいたのがこちらの端縫い
鮮やかな黄色が目に眩しい。
本来は極めてローカルな行事だった西馬音内盆踊りは、今や日本中の踊り好きが集まる一大イベントに成長した感があるが、美しい端縫い衣装を着てみたいという願望が現在の隆盛に拍車をかけたのは間違いない。
古い伝統を持ちつつも、この端縫いに象徴されるような鮮やかさが特に若い女性たちを惹きつけたのだと思う。

彦三頭巾の踊り手のタペストリー

次は洋品店


端縫いは秋田県内(特に県南)各地の元地主や古い商家にも保存されていたりするそうで、決して西馬音内オリジナルの衣装という訳ではない。
だが、西馬音内の端縫いが特に知られているのは、ひとえに下着、中着として着られていた端縫いを盆踊りのフォーマルな衣装とした点にある。
デザインに創意工夫が凝らされていることは先に書いたとおりだが、帯や袂についても通常の端縫いと比べて長く作られているそうだ。
盆踊りが副次的に具有していた見せる要素を集約したのが端縫い衣装であるとも言えよう。

着けているのはマネキンだが、それでも端縫いの美しさ、素晴らしさが伝わってくるようだ。

次のお店


「西馬音内盆踊の記録」には、端縫いについて「祖母や母の若き日の形見として残っていたもの(※管理人注 布切れ)があるとすれば、それを自分の肌に着けて、ともに踊り、踊りながら追憶にふけるという夢もあったことでしょう」と記されている。
まさしくその文章の通りで、江戸・明治・大正と先祖が着用していた着物を解いて、パズルのごとく組み合わせた端縫いもある。
それはまるで、今に生きる私たちが先祖代々の血を受け継いでいるのと同じようなものだと思う。

次はお菓子屋さんです。


この盆踊りを象徴する端縫い衣装だが、実はいつから盆踊りの衣装として採用されたか、はっきりしていない。
「西馬音内盆踊り わがこころの原風景」でも「実証的な資料はなくほとんど不明」として、「写真に残っているのは、昭和10年の全国大会出演記念のものである」と記述されている。
昭和10年の全国大会というのは、東京都内で開催された「第9回全国郷土舞踊民謡大会」のことを指していて、この大会を機に西馬音内盆踊りが全国にその名を知らしめることになるのだが、同時にそれまで各自ばらばらだった振り付けを統一して盆踊りの基礎を築いた契機となったことでも知られている。
振り付け同様にこの大会が端縫いを大きくフィーチャーする機会になったと推察するものの、果たしてそれ以前から盆踊り衣装として着られていたのかはやはりよく分からない。

どうにか雨は止んでくれた。

次の洋品店


「西馬音内盆踊り わがこころの原風景」の著者小坂太郎さんは同著の中で、かつて土と砂利道だった時代に端縫い衣装が土埃りに耐えられたものだろうか、と疑問を投げかけている。
すなわち端縫いは昔から盆踊りの衣装だった訳ではないとの考察がおありのようだが、管理人も同様に感じている。
端縫い自体はかつてから存在していたものの、盆踊り衣装に起用するという発想の転換により、全国でも他に例を見ない衣装として西馬音内盆踊りの象徴になったのだと思う。

最後のお店


こちらのお店も素敵な雰囲気で、端縫いの優雅さが際立っている。

時刻は16時になり、イベントの終了となる。
1時間ちょっとの鑑賞時間では一軒一軒ゆっくり見られず、ちょっと心残りではある。
このイベントに興味を持たれた方がいれば、できるだけ早い時間に現地に入り、時間を気にせずぶらり町歩きがてら端縫いをじっくり鑑賞することをおすすめしたい。

わずかな滞在時間ではあったが、各家庭で先祖代々受け継がれてきた端縫いを多数見させてもらった。
本当は目立たないながらも独特のデザインが施されている藍染めの浴衣の写真もアップしたいところだったが、あるご婦人から「藍染めの写真をネットに上げると柄を誰かが真似して作ってしまう可能性があるから控えたほうが良いかも」とアドバイスをいただいたので、自粛することにした。
で、裏を返せば端縫いに関してはデザインを真似しようにも素材となる布がすでに入手不可の状態なので、盗用されるリスクは皆無ということなのだ。
これほどに貴重な端縫いと、藍染めが一斉に展示されるということ自体、本来は得難い機会のはずなので、秋田県内、いや日本全国の西馬音内盆踊りファンの方には是非一度訪問することをお勧めしたい。
盆踊り本番の興奮と感動を倍増させてくれること間違いなしです。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です