釜ヶ台番楽/インドネシアバリ舞踊

2018年9月29日
これまでたびたびブログで取り上げてきた、秋田を代表する伝統芸能「番楽」
今回はにかほ市の釜ヶ台番楽の登場だが、このたび秋田駅前フォンテで「世界の民俗文化を楽しむプログラム」と銘打って行われた企画で釜ヶ台が競演したのはなんとインドネシアバリ舞踊
秋田の祭りでもなければ日本の祭りでもない。
果たして我がブログで取り上げていいものか?はい。伝統芸能、伝統行事なので何の問題もありません。

秋田フォンテで番楽鑑賞をするのは、2017年3月の山内番楽、坂之下番楽以来となる。
6Fのあきた文化交流発信センター(ふれあーるAKITA)が会場となっていて、小さいスペースながらも買い物ついでに見られる手軽さはなかなか貴重だ。
当日13:30~の開始に合わせて会場へ到着。すでにたくさんの観客が各団体の出番を待っているところ。100人ほどいるだろうか。

「世界の民俗文化を楽しむプログラム」イベントポスター。こうやってみると番楽とバリ舞踊、なんか親和性がありそうだ。

釜ヶ台番楽については3月ににかほ市にかほっとで開催された「環鳥海地域伝承芸能祭典」で鑑賞(「番楽太郎」「三人立ち」「牛若弁慶」の3演目が披露された)して以来、バリ舞踊はもちろん初の鑑賞となる。

釜ヶ台番楽が先に登場。今回は関係者のみ動画撮影可だったので、写真のみの記事となります。

まずは獅子舞から


釜ヶ台は本海獅子舞番楽の流れを汲む「本海流番楽」として知られている。そして本海(流)で必ず冒頭に舞われるのが獅子舞
「本海獅子舞番楽 -鳥海山麓に伝わる修験の舞-」に記述されているように「本海番楽には獅子舞がある。獅子舞がないのは本海番楽ではない」ということなのだ。
ところによっては番楽とは呼ばずに「獅子舞」とだけ称されたりする芸能だけに、獅子舞はたいへん神聖であり、各演目のなかでも非常に重要な位置づけを占めている(獅子舞を演目とは数えずに、演目に先立って舞われるもの、とする見方もあるそうだ)。
笛・太鼓・鉦で構成されるお囃子方がひとたび演奏を始め、そのお囃子に合わせて獅子がときに大きく、ときに細かく舞い始めると、一気に番楽の持つ素朴ながらも神秘的な雰囲気が漂い始めるのがすごい。

堂に入った舞を披露


これまで見てきた獅子舞は全て成人男性が舞っていたのに対し、今回は小学校5年生の女の子が後幕とり、小学校4年生の男の子が舞い手を努めていて、これは相当に画期的なことらしい。
たしかに、これまでも児童が他演目で登場することはあったが、獅子舞の舞い手を任された場面は一度も見たことはない。
それほどまでに獅子舞が重要であることが分かると同時に、今回のチャレンジングな姿勢がまず素晴らしいし、番楽のこころとでも云うべき獅子舞を堂々と披露した2人には惜しみない拍手が送られた。
なお、獅子頭もちょっと小さめの子供用サイズのものなのだそうだ。
今日は獅子頭を持ちながら舞う「獅子がかり」を披露してくれたが、本来はその前に獅子頭を前に「下舞」を踊る順番であり、それほど遠くない将来にこの子たちが神聖で厳かな下舞を見せてくれることに期待したい。

続いては「三人達」


にかほっとで見たときには「三人立ち」と紹介されていたが、今回会場で配られたプログラムでは「三人達」と紹介されていた。
にかほっとの時と同じように小学生の児童3人(小学校2年の男の子2人と女の子1人)で闊達に舞う姿がとても小気味良い。
釜ヶ台には獅子舞、翁、牛若弁慶といった定番の演目から、根子切舞といった道化舞、さらにはさかさま番楽、やっちゃぎ獅子といった聞きなれない演目に至るまで17~8の演目が伝承されている。
五拍子の拍子や念入りな所作などから、釜ヶ台には本海上人が若い頃に番楽を伝えたとされていて(由利本荘市矢島の坂之下番楽は逆に年老いてからの伝承と云われている)、特に四方向を向いて同じ所作を繰り返す「四方固め」の所作に若さゆえの入念さが表れているそうだ。
「三人達」については柔軟な体と軽やかな所作が必要な訳で、主に子供によって舞われるらしい。

激しい動きの舞


後半は「くずし」と言われる難パートの連続となる。
いくら身軽な子供たちとは言え、飛んだり跳ねたりが続く舞はなかなかにハードそうだったが、しっかりと舞い切ってくれました。頑張ったね~(^^♪
2017年10月に山形県真室川町で行われた「番楽フェスティバル」で見た柳原番楽(金山町)の三人立ちは、成人男性による舞で大きな動きと躍動感が特徴だったが、今日の子たちはその軽快さがとても良かった。
なお、三人達の舞い手が被るシャグマ(武士舞でよく用いられる)だが、ここでは「サゴマ」と紹介されていた。
本海獅子舞、本海流でもそれぞれの団体の個性があり、その違いを垣間見たようで興味深かった。

獅子舞と三人達を舞った児童たちの声が聞けました。


この日のために練習を続けてきた成果を十分にみんな発揮できたと思う。
「これからも頑張りたいです」と抱負を語る小学生の子たちの姿が本当に頼もしい。
釜ヶ台は若い人たちが中心となってSNSで積極的な情報発信を行っていることもあり、世代間の伝承がとても順調に進んでいる印象を受ける。
県内各地の番楽団体が後継者の問題に悩まされているなか、こういった釜ヶ台の取り組みはひとつのモデルケースになると思う。

最後の演目「四人空臼」


2017年9月に由利本荘市まいーれで行われた「からうすからみ全國大會」で本当は一度鑑賞できていたはずだが、当日に寝坊して見れなくなってしまった経緯があるので、ちょっと感慨深いところもある。
また、四人空臼のように臼を中心に複数の舞い手が囲み、臼の縁や持っている棒どうしを叩き合う舞を空臼舞と呼ぶが、由利本荘市矢島町の坂之下番楽の空臼からみをこれまで三度に渡って鑑賞したので、非常に馴染み深い演目だ。
ときにはピョンピョン飛び跳ねるように、ときには本当にジャンプを繰り返しながら臼の周りをぐるぐると廻る演目で、見ていて気分が高揚する楽しい舞が特徴だ。

ジャンプしつつ棒を打ち合う所作が楽しい、だが演ってるほうはたいへんです。


リズミカルかつダイナミックな所作が観客を惹きつける。
臼の周りをくるくると回るときに棒をぶつけ合う所作が入るが、一度に2回「カン、カン」と打ち合っていた。
ここの所作では1回だけぶつけ合う所作が通常の動きだと思っていたので、個人的にはその手数の多いところにも注目した。
空臼舞と一言で言っても各団体ごとに特徴があり、多くの団体が一同に会した「空臼からみ全國大会」でそれぞれの違いや面白さを認識することができた。
貝沢(※貝沢からうすからみの伝承地として知られる)開基400周年記念合同競演会として開かれた特別な催しだったので、今後同様のイベントが行われるかよく分からないが、もう一度開かれたら寝坊などせずに最初からきちんと鑑賞したいと思う。
また、当ブログにたびたびコメントを寄せてくださっているTAIKO BEATさんの所属する鳥海前ノ沢太鼓保存会(本海獅子舞番楽前ノ沢講中)でも「もちつき舞」を復活させ、上演するまでに至ったとのことだし、空臼舞には管理人がまだ知らない奥深い魅力が潜んでいるのではないかとも思ってしまう。

かなり長い時間舞い続ける。


バトントワリングのように手先で棒をくるくる回す所作なども入り、見ていて全く飽きない。
先の坂之下番楽の空臼からみの記事でも書いたように、番楽を知らない人でも十分に楽しませられるエンターテインメント性がこの演目の持ち味だ。
番楽は5月5日の山神社例祭、8月の初棚供養以外にも各種の伝統芸能発表会等で見ることができる。
是非たくさんの人に四人空臼の楽しさ、そして釜ヶ台の素晴らしさを味わってほしいと思う。

長くハードな舞が無事に終了。皆さん本当におつかれさまでした!

素晴らしい3つの演目を鑑賞した。
伝承された時期は定かでないとされているが、おそらくは1700年代には伝わったとされている古い芸能であるが、テクノロジーの最先端(ちょっと大げさか、、)であるSNSを使用して情報を発信する現代性がそこに混じり合い、たいへん活発な活動ぶりが目立っている。
今では多くの番楽団体において女の子が舞い手として登場するようになったが、釜ヶ台は本海流の真骨頂とでも云うべき獅子舞を女の子が舞うという点で革新的ですらある。
是非その若さと大胆さでたくさんの人たちを惹きつけていってほしい。

続いてはインドネシアバリ舞踊の登場です。

番楽幕が取り払われ、舞台セットの傘が飾られる。そして照明が落とされて、舞台中央部分にだけ柔らかい光が当てられた。
おお‥気分は一気にバリ島です。

最初の演目は「ペンデット」


バリ舞踊のことは全く分からないのでペンデットの解説をパンフレットから全文抜粋したい。
お客様への歓迎と祝福を込めて踊られる演目。花が撒かれるのは、神を迎える為に花を撒き場を浄める、寺院の奉納舞踊に由来しています。
なるほど。本海流で云うところの獅子舞、北秋田市根子番楽で云うところの露払いのような演目ということか。
また、本来は寺院の本殿前で舞われるもので、複数人で踊られることもあるらしい。
そしてこの舞(というかバリ舞踊の)基本となるのは中腰の姿勢を保つことなのだそうだ。

舞い手の動きはかなりスローで、太極拳を思わせるようだ。番楽で言えば翁のようなかんじか。


顔を動かさないまま目だけを動かして右を見たり左を見たり、コロコロと表情が変わる。
バリ舞踊と言われても、何十人ものダンサーが登場するインド舞踊(インド映画でお馴染み)とか、イランとかのペルシャダンスと正直区別がついていなかったが、ペンデットの所作を見ると鮮明にイメージがつかめてくる。
BGMにはインドネシアの伝統楽器「ガムラン」の音色が鳴り響いていて、舞踊が始まると同時に独自の世界に引き込まれてしまうのだった。
調べたところ、一言でバリ舞踊と言っても呪術的なケチャダンスや、獅子舞のような聖獣バロンが登場するバロンダンスなど様々な種類があり、動的なダンスもたくさんあるようだ。

次は「バリス・トゥンガル」


パンフレットから「若い戦士が、初陣に臨み、敵の気配に怯えながら勇敢に前進していく様子を表現した踊りです。バリでは踊りを始めた男の子が最初に習う、男性舞踊の代表的な演目です。男性舞踊の基本が全て詰まっていると言われています。」
なるほど。先の釜ヶ台では2番目に披露された三人達が番楽を習い始めて最初に習う演目らしいが、ちょうど同じ位置づけにあたるのが、このバリス・トゥンガルという訳だ。
肩をいからせてのっそりと(失礼!)入ってくる瞬間は怖い印象すら受けたが、その中に怯えや戸惑いといった人間的な感情が込められていることを知ると何故か親しみが湧いてしまう。

神々しい舞踊です。


2015年にバリ島の伝統舞踊三様式と云われる「ワリ」「ブバリ」「バリ・バリアン」がユネスコ世界遺産に認定された。
それらの三様式は更に各3種類に分類されるそうで、バリス・トゥンガルはワリ舞踊のなかの「儀式バリス舞踊」にカテゴライズされるそうだ。
儀式バリス舞踊については、寺院の神々を護る勇士と化した成人男性によって舞われるのが一般的で、バリス・トゥンガルはその中でもたいへんにポピュラーな演目らしい。
こうして見るとバリ舞踊も番楽と同じく大分類があり(番楽で言うと式舞、武士舞、女舞といったカテゴリー)、その下に各演目が中/小分類としてぶら下がっており、舞踊の種類による体系化は世界共通なんだなあ、、と思わず頷いてしまった。

最後の演目「レゴン・ラッサム」
こちらもユネスコ世界遺産「バリ・バリアン」のレゴン・クラトン舞踊の一つとのこと


レゴン舞踊は主に鑑賞用として舞われるそうで、バリ島女性舞踊の代表的な舞らしい。
そして、踊りの基礎的な所作が含まれていることから、女の子が最初に覚える舞でもあるそうだ。
最初に出てくるのはチョンドンと呼ばれる宮廷の女官。ピンク色の衣裳が特徴のアイドル的ポジジョンな役として人気であり、ひとときNHK Eテレ「アジア語楽紀行」に出演していたユリアティ(yuliati)さんの当たり役でもあったようだ。
たしかに表情などを見ると可愛らしく、キュートなイメージだ。

次に入ってくる2人はラッサム王、ランケサリ姫


3人による舞踊。なまめかしくも神秘的
たしかにユネスコ世界遺産に選ばれてしかるべき、美しい伝統芸能であることを実感する。
バリ舞踊の中心地は「ウブド」という村で、ガムラン音楽、美術等も含めた芸術の村として有名らしい。
先に書いたようにレゴン舞踊は儀礼とは関係なく、主に鑑賞用として寺院外の集会場で踊られるそうだが、それでも日本では考えられないぐらいに芸術と生活が一体化していて、演者のほうも踊りも踊れば絵書きもするといった具合に伝統芸能が深く生活に密着しているそうだ。
「ハレ」と「ケ」ではないが、どうしても日本では生活と芸術は切り離されてしまい、芸術は生活を超えた高尚なものと捉えられる傾向があるように思うが、本来の芸術とは人々の生活から滲み出るものであり、芸術と「生きる」ということは本質的に同じだと思う。
そういった意味では、バリ島ウブド村で繰り広げるられる各種舞踊は伝統芸能のあり方に忠実な、世界でも希少な文化なのではないだろうか。

チョンドンが立ち去り、ここからラッサム王、ランケサリ姫の物語が始まる。


パンフレットから「初めに宮廷の女官が登場してソロで舞い、途中から加わる2人の踊り手は呼吸をぴったり合わせた振り付けを踊ります。その後2人は王と姫の役になり、物語が始まります。王は森の中で見かけた美しい姫に惹かれ自分の国に連れて帰り求婚しますが、婚約者のいる姫はそれを拒みます。そして王は姫の兄の王国へ、戦いに向かっていきます」
いわばラッサム王とランケサリ姫の恋のもつれが国と国とを動かす大事へと発展する一大叙事詩を踊りで表現しているわけだ。
このスケール感も日本の伝統芸能ではあまり見かけないように思う。
芸能が生活や社会と一心同体となり、人々の日々の暮らしに欠かせないものであることをあらためて知った思いだ。

3演目が終了。ここでバリス・トゥンガルで踊りを披露した男性が再登場し、観客からの質問に答える。

今日出演した皆さんは、秋田で唯一のバリ舞踊を踊るグループ「ギリ・クンチャナ」の皆さん
ご挨拶をされたAYUMUさんは秋田市新屋のHIPHOPダンススタジオ「RUNNING MAN」で代表を務める傍ら、現地バリ島でアノム(anom)さん(「地球の歩き方 バリ島」で「まさにバリスを舞うために生まれてきた舞踊家」と紹介されていました)の師事を受けた、本格的なバリ舞踊家でもある。
RUNNING MANのHPを拝見したところ、各種イベントへ登場したり、自らイベントを開催したりと多方面でご活躍されているようで、HIPHOPや伝統芸能、アジアンカルチャー好きの方であれば要チェックなのは間違いない。管理人も注目していきたい。

最後に今日登場した皆さんでご挨拶。素敵な舞、踊り披露、ありがとうございました!!

ふれあいコーナーへと続く。


両団体が踊りの際に着けていた衣裳を直に身につけたり、触れたりできる貴重なコーナーだ。
管理人も釜ヶ台の獅子頭を持たせてもらいました。
けっこう力を込めて歯打ちをして「カン!」と音を鳴り響かせたつもりだったが、演者の男性がまだまだ音が小さいなあ‥と実演してくれたところ「クアンッ!!!」と3倍ぐらいの音が響いたのはビックリした。
スゴイ。これぞ伝統の重み(ま、もともと管理人非力ではあるんですが、、)
番楽とバリ島の伝統を十分に目の当たりにできた満足感とともに会場をあとにした。

釜ヶ台番楽とインドネシアバリ舞踊
一見ミスマッチのようだが、ともに長く人々の間で受け継がれてきた伝統芸能だけあって様々な共通点も見られた。
そして何より、秋田いや日本という地域にとらわれずに番楽と海外の伝統文化との競演が実際に見られた点が素晴らしい。
おそらく釜ヶ台番楽保存会のオープンな姿勢が開催実現には不可欠だったろうし、秋田に本拠を置きながらバリ舞踊に取り組むギリ・クンチャナの熱意がそれに呼応したということだと思う。
これからもこういった想定外のコラボレーションにたくさん出会えることを期待したいと思う。

※地図はにかほ市の釜ヶ台多目的会館


2 Replies to “釜ヶ台番楽/インドネシアバリ舞踊”

  1. 釜ケ台番楽を紹介してくださり、ありがとうございます!有難いことに、今年もイベント等にたくさん呼んで頂いております(^^)5月に行われる食と芸能の祭典にも参加予定です。お時間ありましたら、ぜひ見にいらしてください!

    1. KAMADEさん
      書き込みありがとうございます。
      ご関係者の方にお読みいただいて嬉しいかぎりです。
      先日も金浦勢至公園での観桜会にご出演されておりましたね、おつかれさまでした!
      これからも県内各地での公演でお忙しいことと思います。
      また見に行かせていただきますのでよろしくお願いします!!

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