三助稲荷神社の梵天行事

2020年1月3日
元旦深夜に行われた、八郎潟町の一日市裸参りから2020年の伝統行事鑑賞をスタートさせた訳だが、新年2件目にして早くも梵天行事の登場となる。
横手市大森町の「三助稲荷神社の梵天行事」がそれだ。
冬~春先にかけて県内の至るところで梵天が行われるが、三助稲荷神社は県内で最も早く開催される梵天らしい。
何でももともと1月第三日曜日開催だったのが(「秋田の祭り・行事」にもそう書いています)、紆余曲折を経て現在は毎年1月3日に固定されたそうだ。
若勢たちの勇ましい姿を見て、正月休みのだらけた気分を吹き飛ばそう!という意図は別にない。

当日。9時に自宅を出て、出羽グリーンロード~国道105号線~県道36号線と経由し、三助稲荷神社のある横手市大森町川西地区へ向かう。
神社のおおまかな場所については抑えていたので、あまり心配はしていなかったが、現地へ到着するまでは安心できない。「もし梵天一行が見つけられなかったらどうしよう。。。」などと考えていると‥

無視するのが難しいってぐらいに道路沿いに梵天が立ち並んでいた。俺は何を不安がっていたんだろうか、、、早速付近に車を止めて行ってみましょう。


県道沿いの一部がかなり幅広な歩道になっていて、そこに梵天一行と観客が大集合していた。
各集落の面々が梵天の前に入れ替わり、梵天の紹介を行っていた。


今年の梵天のテーマや制作の裏話を各集落ごとに紹介(やはりというか、年号が変わって初の梵天という事で「令和」の頭飾りが多かった)、そして締めに梵天唄を披露する、という流れだ。
梵天唄の代わりに法螺貝を吹く集落もあった。
今年は例年にないほどの少雪で全く冬らしさのない年となってしまったが、それでも雪深い県南のこの時期で聞く梵天唄は、冬景色によく似合う。

おおっ!頭飾りから花火が上がった!


五穀豊穣、家内安泰を祈願して神社へ奉納される梵天は、一般的に「神の依り代」とされている。
wikipediaによると依り代とは「神霊が依り憑く(よりつく)対象物のことで、神体などを指すほか、神域を指すこともある」そうで、神様が神の世界から現世に降臨するための目印にするため、梵天はこれほどにカラフルな色彩だという説もある。
神がこれから梵天に降りようとしているところに、ヒュ~~パーーンと花火上げるとか神様を追い返そうとしてるように見えてしまうが、今日は川西地区に賑やかな梵天祭りの日でもある訳で、まあこれぐらいなら神様も許してくれよう。

川西子ども梵天。もちろん子供たちも梵天制作に携わりました。立派!えらい😀


そして、三助稲荷神社への移動を開始する。
稲雄次さんの著書「カマクラとボンデン」に、奉納に至るまでの行事の様子が記されている。「ここのボンデンの製作や行事進行は全て世話人を中心にして行われる。すなわち、ボンデン作製の役割分担と材料の購入などである。そして出来上がったボンデンは、前日の4日までに世話人の家の前に立てて周囲に披露して御祝酒や御祝儀をいただくのである。ボンデンの奉納は厄年の人による早朝の裸詣りから始まって、午前8時頃に世話人宅に厄年の人と有志が集合する。不幸や出産のあった家の人は忌みのかかった人として参加はできないこととなっている」
「カマクラとボンデン」は平成2年の刊行なので、さすがに現在とは異なる個所もあるはずだが、厳格な様式にのっとった梵天行事の様子を垣間見ることができる。

徒歩2分の距離にある三助稲荷神社へ到着


三助稲荷神社は永禄年間(1558~1570)に越後の落人 高田甚右エ門がご神体を背負って石造の神社を建立したのが始まりだ。
神社の名称だが、HP「横手まちナビ放送局」によると「商売繁盛、五穀豊穣、家内安全など私たちを『三回助けてくれる』、『三助け(みたすけ)』から『三助』の名の由来があるとの説」が存在するそうで、何やら縁起のいい名前にも思えてくる。
その後江戸時代後期になってから、梵天行事が行われるようになったそうだ。

境内に到着したら、いよいよ梵天奉納の始まりです。

今日は全10基の梵天が奉納された。参加集落/団体は以下の通り
①前村新町
②神成
③上村
④古希祝い有志
⑤還暦祝い有志
⑥川西子ども梵天
⑦後村
⑧松田
⑨下田
⑩百目木(ドメキ)
近年は10基前後の安定した本数が奉納されるが、少し前には5本ほどしか出なかったこともあり、それに比べると大幅に盛り返した形だ。

まずは子ども梵天から。みんな一生懸命😄

そして大人たちが梵天奉納


札を社殿の扉に「バン!バン!」と打ち付けて、早く扉を開けるように促す。
これまで見てきた梵天行事でも同様の所作があったかもしれないが、三助稲荷ほど強く、しかも繰り返し打ち付ける場面は見たことがないし、割れてしまう札もあるほど。
また、この後梵天が社殿に納まるとすぐに扉が閉じられてしまう。
おそらく社殿内に降りてきた神の姿を衆目に晒すべきでない、との言い習わしがあるのだろう。
なお、札に関しては「村札(むらふだ)」「制札(せいさつ)」など様々な呼び名があるが、「カマクラとボンデン」によると、三助稲荷では「幣札ふだ」と呼ばれているそうだ。

奉納が始まる。


秋田市太平山三吉神社梵天などは「喧嘩梵天」として有名だし、県内各地の梵天行事でも奉納する町内と、それを押しとどめる町内との押し合いはよく見られるシーンだが、ここではそういったシーンは全くない。
どちらかといえば「粛々」という表現が似合うぐらいに、整然と梵天が列をなして社殿へと入っていく。
社殿内では梵天を天井まで突き上げる奉納の形が見られたようだが、それ以外には梵天特有の熱気を生むことなく、どんどん行事が進行していく。
「カマクラとボンデン」には「当日は各地域から集まったボンデンが押し合いを繰り返しながら拝殿へと向かう。この際に押し合い、揉み合いは激しいが、相互にボンデンには手を触れないようにしている」と記されている。
かつてはここ三助稲荷も喧嘩梵天として知られていた歴史があるが、それでも他の梵天には触れずに(おそらくは人同士の)押し合いが展開されていたという事なのだろう。

次々と奉納


奉納を終えると社殿右の出口から退出。梵天は立てて並べられる。
地域によって、梵天の形はさまざまだが、ここ三助稲荷は梵天のてっぺんにピンとはねるように付けられた飾りが特徴だ。
「カマクラとボンデン」には、一般的な梵天の上部に付けられるハチマキについて「赤と白、青と白などの布製で、その結び切った先端を威勢よく上に跳ねあげる」と記されていて、ここの梵天もハチマキの先端のように見えなくもないが、おそらく稲さんが同著の中で「芭蕉ボンデン」と呼んでいる「芭蕉の葉を型どったもので、芯が針金か竹で作られ、葉は薄い布であり、持ち歩くと揺れて美しく見えた。造作も簡単で小巾なものに用いられた」タイプの飾りをつけている梵天だと思う。
また、先に書いたように「令和」の頭飾りを付けた梵天も何基か見られた。

こちらは社殿右横の拝殿

梵天奉納に続いて、恵比寿俵奉納


恵比寿俵奉納になると俄然、男たちがヒートアップ
押し合い、へし合いしながら階段を上がり、次々と社殿になだれ込む。
「カマクラとボンデン」でも「ボンデンの奉納後はエビスダラの奪い合いが拝殿の中で始まる。狭い社殿の中で、何度も繰り返される俵を中心に激しい揉み合いは、ボンデン奉納とは一味ちがうものである」と紹介されている通りで、梵天行事という名が付くものの恵比寿俵奉納がクライマックスであることは疑いない。
以前に鑑賞した、横手市大雄の長太郎稲荷神社の初午梵天、雄物川町の木戸五郎兵衛稲荷神社の初午祭も恵比寿俵奉納が主役の行事だったし、旧平鹿郡部の梵天に共通する様式なのだろうか。

梵天奉納の脇で餅巻きが始まった。


恵比寿俵の中には餅やミカンが詰められていて、奉納が終わると同時に観客に向かって餅巻きが始まる。
観客は一斉に社殿前に集まって、こっちに投げろとばかり「餅~!」とアピール、本来は神と人間が共食する「神饌」の儀式ではあるが、観客にとっては楽しいイベントタイムとなっている。

そ~れえっ!と餅をばら撒く。


思わぬ再会もあった。
3日前に能代市浅内のナゴメハギ行事でお会いした、イラストレーターの佐々木ゑびすさんも会場に来られていた。
ここ横手市大森はゑびすさんのお住まいのある大仙市と隣接していることもあり、出かけるのに丁度よいというのもあっただろうが、年末~年始にかけて各地の行事巡りや菅江真澄の足跡巡りでお忙しくされているなか、地元の小さな梵天行事にも足を運ぶエネルギッシュさはスゴイ!
この後も来訪神行事を中心に、各地へ出向かれるゑびすさん。今日は来訪神行事と並ぶ秋田の冬の目玉、梵天行事を楽しまれたことだろう。

餅やミカン、お菓子に紛れてミッキー&ミニーのぬいぐるみが登場。子供たち大盛り上がり😀😀😀


恵比寿俵奉納、餅巻きの賑やかさとは別に、子供たちの「ミッキー!」「ミッキー!」の連呼が始まりさらに賑やかさが増す。
今年は子年(ねずみどし)ということもあり、ミッキー&ミニーのぬいぐるみがプレゼントされるに至ったようだが、この盛り上がりぶりはどうだ?ぬいぐるみを用意した大人もさぞ喜んだことだろう。
なお、肖像権にめっちゃ厳しいと云われる某D社。ミッキーとミニーのぬいぐるみの写真を個人ブログにあげることについては、いろいろ調べたところ何とか大丈夫そうだ。(アウトだったらゴメンなさい)
そしてミニーが子供たちのなかに放り投げられる。もみくちゃにされながらもどうやら無事に一人の子の手に届いたようだ。続いてはミッキーが!

ああっ!


激しい奪い合いに耐えられず、ミッキーの手がもげ、足がもげ😱😱😱なんてことには当然ならず、ミッキーに触れている子供たち同士で、勝者を決めるじゃんけんが始まった。
もちろんじゃんけんも大盛り上がり。ミニー同様、ミッキーも無事に一人の子の手に渡った。ミッキーをゲットできた子、良かったね。新年からめでたい😀

恵比寿俵奉納、餅巻きも終わりに近づいている。

冒頭でも少し書いたように、この行事はもともと1月第3日曜に開催していたものを1月5日に変更、さらに1月3日へと再変更した経緯がある。
現在では新年最初の梵天行事として知られているが、そのポジションを確立する前は、少しでも行事に人が集まるように苦労したようで、開催日の度重なる変更にその足跡が表れている。
秋田では梵天が当たり前に行われているということもあり、その伝統的価値になかなか気付きづらい(稲さんは「ポピュラーであるがゆえに、これまで纏まった考察も論証もあまり深く追及されてこなかったのが実情である」と述べている)。
決して行事を取り巻く状況は万全ではないと思うが、川西地区の人たちが楽しんでいる姿を見ていると、決して消えることなく、この先も半永久的に続いていくような気もする。

1時間弱で行事が終わった。

皆一斉に会場をあとにする。
管理人はゑびすさんとしばらく立ち話。この後見に行く予定の行事の情報交換や、菅江真澄に関する話題でしばらく時間を過ごす。
それにしても、いろんな種類の伝統行事に精通されていて見識が広い!これからもゑびすさん独特のタッチのイラストとともに、たくさんの行事・風習を紹介していってください😀

帰りの冬景色

時刻は昼どきということもあり、お腹がすいてきた。
近くに新年三が日ちゅうに開いている食べ物屋などないと思いこんでいたが、定食「おおもり屋」さんがなんと営業されていたので迷わず入って、担々麺をオーダー。長時間、寒空の下にいただけあって本当に暖まって美味しかった😀
また、店長さんが管理人の通っていた高校の大先輩だということも判明。高校時代のことや、TVで流れていた箱根駅伝のことなどいろんな話をして、楽しい時間を過ごさせてもらった。

ということで、新年二発目の行事鑑賞を終了
たびたび梵天行事を見ているうちに、梵天の出来上がりや奉納時の作法など、微妙に各地域で違いがあることが徐々に分かってきた。
ここ三助稲荷神社梵天は、恵比寿俵奉納がメイン、かつ以前の喧嘩梵天の頃の名残をほとんど感じさせない平和的で楽しい梵天行事だった。
決して派手ではないし、たくさんの客を集める行事ではないが、旧平鹿郡の伝統を受け継ぐ梵天として、これからも愛され続けてほしいと思う。


“三助稲荷神社の梵天行事” への2件の返信

  1. こんにちは。
    今回も楽しいレポートありがとうございました。
    「んだんだ横手」さんが、残念ながら更新終了となってしまい、寂しい思いをしていたところなので、今回の梵天の記事を嬉しい気持ちで読ませていただきました。
    三助稲荷の梵天は、年明け県内最初の梵天として取り上げられることも多く、さしずめ、秋田の小さな祭り界の有名どころといった風でさえありますよね
    さて、動画にもあった、弊札ふだを打ち付けて、「開げれ、開げれ~」ってやるやつですが、30年くらい前、同じく横手市は境町の貴船神社の梵天でも、同様にやっていたのを、なんとなく覚えています。(戸だけでなく柱にも力強く打ち付けていた記憶があります。)
    この札一つとっても、地域ごとに大きさや呼び名、枚数、神殿に打ち付けるか、札同士で打ち付け合うか等が異なっていて興味深いと思いました。
    また、梵天本体は頭飾りの芭蕉の葉のカラフルさと、紙の御幣の取り付け位置や形、数に目が行きますし、恵比寿俵の押し合いに迫力があることもあり、恵比寿俵が多いことも特徴的ですよね。
    恵比寿俵を奉納するということ自体が他県にはあまりないようですので、こちらも興味深いところです。
    ところで、ゴールデンウィークから夏にかけても、秋田ではお祭りの盛んな時期と思いますが、新型コロナウィルスの影響下、残念ながらきっと開催を見合わせているお祭りもたくさんあろうかと思います。
    秋田県および東北地方では第一波はどうやら収束した模様ではありますが管理人さんもどうぞご自愛下さいませ。
    またの記事を楽しみにお待ちしております。

    1. アックスさん
      コメントありがとうございます!
      梵天行事がお好きと仰るアックスさんらしい、ツウな書き込みで管理人も勉強させてもらいました(笑)
      県南に広く継承される梵天ですが、地域的な傾向があるようで面白いですね!
      横手市、旧平鹿郡で言えば豪華な頭飾りや、恵比寿俵がポイントになっているようですし、大仙市・仙北市へ行くとまた違った様相でないかと想像します。
      かと思えばアックスさんの地元 横手市金沢や、管理人の故郷 増田町などでは、竿燈を扱うかの如く梵天上げが行われていますし、この特徴ってどこから生まれているのか?と空想をめぐらすのも結構楽しいですよね!
      仰せの通り、今はコロナ禍でほとんどの行事が中止となってしまってますし、仮に行われている行事があったとしても、部外者である管理人が「おじゃましまーす」と飛び込むのもどこかためらってしまいます。
      一日も早く以前の状態に戻ることを願うとともに、コロナ明けの元気なお祭り・行事の様子を引き続き発信したいと思いますので、お付き合いのほどよろしくお願いします!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA