角館の火振りかまくら2020

2020年2月14日
小正月行事が盛んにおこなわれるこの時期、本来なら1年の内で最も雪深く、寒い季節でもあるのだが、今年はどうも様子が違う。
異常なほど雪が少なく、まるで3月下旬か4月上旬ぐらいの雪解け頃の様子で、良い意味でも悪い意味でも雪に備えていたのに拍子抜けの感が強い。
という訳で、去年も鑑賞した「角館の火振りかまくら」を再訪したのだが、この気候のおかげで例年とはかなり異なる行事の様子を見ることになってしまった。

当日2月14日は平日(金曜日)だったが、仕事を昼で切り上げて角館に向かった。
昨年は仕事が終わった後に向かったものの、現地到着が19時前になってしまい、ほとんど行事を見れなかったので、そのあたりの対策をしたという訳だ。夕方に秋田市を出発、途中で寄り道などしながら、17時半過ぎに現地角館に到着

ほとんど雪のない秋田市内の状況から察するに、雪深いといわれる県南にしてもほとんど積雪がないであろうことを想像していたが、予想が的中。ホントに雪が少ない。道路はアスファルトが剥き出しです。風情もへったくれもございません( ‘ᾥ’ )

少し歩くと桧木内川沿い会場を一望できる橋へ。

あらためて行事の概要を仙北市作成のパンフレットから抜粋したい。「『火振りかまくら』は宮中行事の左義長の名残を伝え佐竹北家時代から行われてきた小正月の伝統行事です。炭俵にかまどから火をもらいその火の付いた俵で身体の周りをまわします。俵の火によって自分自身や大地を清め無病息災・五穀豊穣・家内安全を祈願する伝統行事です」
静謐な雪景色のなか、炭俵の描く光(火)の輪がとても印象的な、先日鑑賞した刈和野の大綱引きとは一味も二味も違った、雪国風情満点の小正月行事だ。
ということで、桧木内川沿い会場ではこれから始まる火振りの準備に勤しんでいるのだろう。昨年は、行事終了間際の到着となってしまい、どうにかこの会場でのみ鑑賞できたが、今年は他のいろんな会場を見てみたいと思っていたので、町内方向へと進む。

おっ早速一つの町内を見つけました。こちらは「西勝楽町会場」

町内の皆さんの近くまで寄ってみるが、どうも様子が変だ。具体的に言うと炭俵が見当たりません。これはどうしたことか?🤔🤔🤔

西勝楽町町内の皆さんからお話を伺う。なんでも今年はあまりの雪の少なさに、火振りを取りやめて、お焚き上げのみ行うことになったそうだ。


町内の人たちが正月飾りやお札を持ち寄って、お焚き上げをする。これはかまくら行事ではなく、どんど焼き(左義長)そのものの光景だ。
では、何故火振りかまくらが中止になったかというと、あまりに積雪が少ないため、回し終えて地面に落下した炭俵の火の粉が何かに移って延焼する可能性があるから、ということらしい。
実際に行事を取りやめた町内や、西勝楽町同様に火振りをせずにお焚き上げのみ行う町内などもいくつか出てしまったようだ。
「火事さえ気を付ければ、炭俵振り回してもいいんでは?」と思えなくもないが、以前NHKで放送された「秋田ミンゾク大全集」で秋田民俗学研究の第一人者 齊藤壽胤先生が「炭俵の灰が田圃に散らばることで春先の肥料になると思います。こうした行事には生活の知恵みたいなものが当然入っているのでしょう」と分析されていた。
現在は田んぼを会場として行うことが無くなったとはいえ、火振りかまくらと雪はそもそも不可分であり、雪がない中での火振りかまくらなど考えられないということだろう。

次の会場へと移動。町なかへ入ると、全く雪がない。

こちらは「本町通り会場」

旧NTT横駐車場にテントを立てて、住民の人たちや観光客をもてなす。「何喰う?」といきなり聞かれた。

あっじゃあうどん下さい🍜


うどんの他、そば、ラーメン、おでんが用意されていて、来場者に振舞われる。この後、厚かましくもおでんまでご馳走になってしまった。美味しかったです!😃😃😃
この行事は昨年までは2月13・14日の2日間に渡って行われていた。
13日は観光イベントとして、14日は本来の伝統行事として行われていたが、もともと秋田新幹線開通に伴う観光促進イベントだった13日のほうは、その役目を終えたということで今年からは14日のみの開催となったわけだ。
とはいえ、14日もきちんと観光客を迎える準備は整っていて、ここ本町通りのようにアットホームな雰囲気でもてなしてくれる会場もあり、十分に楽しめる内容となっている。

本町通りでは火振りが行われるようだ。

会場の中央に火が焚かれていて、ここから俵に火をつけて振ることになる。
「角館誌 民俗行事・固有信仰・童謡編」には「この夜のため若者たちが雪小屋を作り、火を振る田圃の雪を踏み固めておくのが普通である。この踏み固められた場所のほぼ中央に正月の飾りものや前の年のオフダ(お札)などを燃やして親火を焚く。子どもたちはこの親火から俵に火をつけて振るのである」と記されている。

会場隅に炭俵が積まれている。

「角館誌 民俗行事・固有信仰・童謡編」では、「炭は実生活上使用されなくなり、米は俵に入れるという事は極く少なくなった。現在は、行事のため、俵を編むという形に変わり一時、この供給に不安を感じたが、購入するということで定着し経済的負担は増したものの心配はない」とし、日常生活で炭俵が用いられなくなり、一時的に供給不安定となったが、手工業品として制作者から買い取る形を導入したため、安定供給へと繋がったとの記述がみられる。
たしかに、買い取りシステムを導入することで炭俵が一定量確保できるように思われるが、この後に訪れた七日町会場で結構たいへんな現状を聞くことになる。

火振りが始まった🔥🔥🔥


お父さんの足に抱きつく子どもたちはちょっと火が怖そうだが、それでも楽しそう。
20秒ほど火が振り回されて、やがて地面に落ちて炭俵の火が消えてしまう。あっけないといえばその通りだが、それでも情緒に溢れていて何だか癒される気分だ。
かまくら行事は本来子どもたちの行事であり、「角館誌 民俗行事・固有信仰・童謡編」を読むと、「子どもたちはこの親火から火をつけて振るのであるが、服装は火の粉をかぶってもヤケドや衣服が焼けないように、綿入れのドンブク(胴服)にゴム長靴、頬かむりの手拭いというのが一般的であった。昭和に入ってからは頬かむりの代わりに帽子が用いられるようになった。最近の子どもの服装はアノラックやヤッケが多くなり、しかも合繊のものが主流となっていて、火の粉がつくと、すぐに穴があくということが多くなった。こと『かまくら』に関しては外見より木綿の衣服を着せるほうが事故がない。服装に気をつけてやることは親の配慮であろう」と記されている。
現在では子どもよりも大人の振り手のほうが多くなってはいるが、かつては子どもが中心となって各地で行われていた、正統的なかまくら行事の特徴を色濃く残しているのが、この火振りかまくらなのだ。


これに雪景色が加われば、文句なしに情緒満点だが、ほとんど雪がなくところどころ地面が露出している状態だ。
聞けばこの僅かな量の雪も他所から運んできて、どうにか火振りのスペースだけはこしらえたそうな。
例年であれば、ここ旧NTT駐車場跡地には2mもの雪が積もり、雪を踏み固めて難儀して火振りのスペースを作っているそうで、それに比べると今年はどれだけ雪が少ないのかをあらためて知らされた思いだ。
また、近年はインバウンド需要の高まりとともに、多くの外国人観光客が訪問するものの、今年に限ってはこの少雪のせいで、例年ほどの観光客が来るとは見込んでいなかったため、炭俵の数もかなり控えめなのだそうだ。
なお、こののち猛威を振るうことになる新型コロナウィルスについては、2月中旬のこの時点ではあまり問題とはなっておらず、単純に雪が少ないことで観光客減となってしまったものとなる。

次の会場へ移動。こちらは「中央通り会場」

中央通り会場でも、火振りは行わず、お焚き上げのみ行われた。
ところで、会場の数についてだが、パンフレットによると主会場:6個所、主会場(中央会場):3町内、それ以外の会場:18個所、となっていた。
ただ、白岩会場では2月1日の白岩城址燈火祭で、八割会場では2月11日といった具合に必ずしも全町内が2月14日に行うという事でもないようだ。また、白岩会場や角館温泉「花葉館」で行われる西長野会場などは、中心地から結構離れた場所であり、角館町全域で行われる行事でもある。

さらに移動し、桧木内川沿い会場へと再び到着


土手の上でギャラリーが多数見物中。桧木内川河川敷では「横町」「七日町」「西勝楽町2区」の3町内が行事を行うのだが、どうやら3町内ともに火振りは終わってしまったらしい。
本町通り会場に結構長居させてもらっていたので、まあしょうがないか😅雰囲気だけでも味わおうと川べりへ下りてみた。

赤々と燃える親火


時刻は19時前
昨年は19時半頃まで火振りが行われていたのが、今年はやけに早く終わったようだ。七日町の関係者の方からお話を伺う。
まず、今年は炭俵を120個ほど用意したのだが、例年に比べるとかなり数が少ないとのこと。
では何故、例年ほどの個数を確保できなかったのかというと、炭俵の作り手の高齢化によって思うように数が揃わなかったそうだ。
材料は仙北市から支給されるが、それを炭俵に仕上げるのは角館の住民の方々(ある特定の集落の方々が受け持っているらしい)であり、地元角館高校の生徒たちの協力を得ながら制作したものの、それでも例年に比べるとぐんと数が減ったという事だ。
「角館誌 民俗行事・固有信仰・童謡編」には、炭俵を一種の商品として扱うことで供給が途絶えるのを防いだ旨記述があるものの、実際には作り手の減少のため、思うように炭俵を作れなくなっている背景がある。
昨年現地で住民の方からお聞きした、炭俵をビニール素材に変えて量産する案はボツになったそうだが、炭俵不足の状態が続くようであれば、別の対策を講じる必要が出てくるのかもしれない。

皆さん、火を眺めてます🔥


煌々と燃え盛る親火が行事の名残を伝えてくれる。
「角館誌 民俗行事・固有信仰・童謡編」には「小正月の火は予祝として欠くことのできないもので、火によって悪を払い益をもたらしてもらう」と記されている。
また、そもそもかまくら行事は火祭りと同義と言ってよいほどに火が重要な要素となっていて、かつてのかまくら行事の様子を描いた絵巻を見ると、子どもたちが至るところで火振りを楽しんでいるのが分かる。
火振りは終わってしまい、観客もどんどん帰路に着き始めるが、燃え盛る炎を見つめているだけで、原初のかまくら行事の風景が目の前に蘇ったような感覚を覚えてしまう。

ぼちぼち帰りましょう。

横町、西勝楽町2区にも少しだけお邪魔する。横町の今年の炭俵の数は40個。七日町同様、例年に比べると非常に少ないそうだ。
横町では豚汁をいただいてしまった。暖まりました!ごちそうさまでした😃
うどん、おでん、豚汁と、次々に振舞っていただいたおかげで、思いがけず満腹感を得て角館をあとにした。

少雪のせいで、残念ながら小正月行事の風情満点の鑑賞とはならなかった。
また、炭俵の製作にかかる事情をお聞きして、県内ではかなり名の知れた小正月行事であるにもかかわらず、先行きにぼんやりとした不安を感じたりもした。
さらにはこの後に日本中、いや世界中を覆い尽くした新型コロナウィルスのこともあり、この後行事がどのように様変わりするのかも全く分からないが、それでも角館の人たちがこの行事を大切に思う気持ちは十分に伝わってきた。
雪深い北国の静かな夜に、無数の光(火)の輪を作り出すこの行事は、角館の人たちの心象風景であり、何物にも代え難い祭りなのだろう。
来年はこれぞまさに秋田の小正月行事、といった美しい風景に出会えることを期待したい。


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