小掛の鍾馗様

2020年9月6日
コロナの影響をモロに受けてしまい、8月はほとんどありとあらゆる伝統行事が中止になってしまった。
その結果、8月に鑑賞できたのは大仙市豊川東長野の東長野ささらと、秋田市雄和の萱ヶ沢番楽の2件のみ😢😢ということで、記事ネタを見つけられないもどかしさと焦りを抱えたまま、9月に突入したのだが、月替わりしたところで伝統行事が復活し始める訳もなく、ちょいちょい県内各市町村に開催情報を照会するものの「今年は中止ですね~」以外の返事を聞くことはない。
そんな中で迎えた9月最初の日曜日‥ああっ!今日はあの行事が行われる日じゃないか!!

能代市二ツ井町「小掛の鍾馗様(こがけのしょうきさま)」
「秋田の祭り・行事」では「集落の祠に男女1対の鍾馗様が祀られています。身長約2m、厚板に掘った顔に紅殻を塗り、目縁と歯は銀紙で光り、大きな木の煙管をくわえています。体は杉の葉をまとい、ワラの腰蓑をつけています。衣替えは年1回行います。鍾馗様を祠から出す時と納める時は、笛・太鼓・鉦で囃し、みんなで念仏を唱えます。鍾馗様は集落から悪疫を守る(原文ママ。「悪疫から集落を守る」の間違いかと、、、)と信じられています」と紹介されている。
しばらく遠ざかっていた道祖神系のお祭りなので、すぐには浮かばなかったが、9月第1日曜日が年に1度の衣替えの日だったはず、ということでネットで調べたところ、たしかに今日行われるようだ。よしっ、行ってみよう!と急遽訪問を決定🚗💨
秋田道を使っておよそ1時間強のドライブで現地に到着。時間は13時ちょうど。肝心の開催時間についてはよく分からなかったが、午後の早い時間であれば見れそうだったので、先ずは一安心‥だと思っていたが、小掛のどこかで行われるという情報しか持っていなかったので、正確な地点が分からない。
国道7号線から県道203号 高屋敷茶屋下線へ移ってひたすら進む。カーナビでは「二ツ井町小掛」と表示されているが、進めど進めど行事の行われてそうな場所に辿り着かない。そのうちトンネルを抜けて山間の風景の広がる場所にでてしまった。。。
これ、絶対通り過ぎただろ!!引き返してしばらく走り、ふと県道から外れる支道の先に目をやったところ‥

いましたー!やったー
二ツ井町仁鮒から小掛に入ってすぐに203号線を下り、小掛橋を渡ればよかったものを、管理人は小掛の中ほどまで進んでしまっていたらしい。
因みに言うと、管理人はつい一か月前ほど記事ネタ探しのために仁鮒を訪れていて、仁鮒七夕の開催が見送られたこと、城郭燈籠を出していた6地区のうち、1地区は2020年を以て参加を取りやめること(コロナとは関係なく、少子化が原因らしい)を現地の方から聞いており、その際に鍾馗様の祠のすぐ近くまで来ていたのだった。
振り返ると反省点だらけの足取りとはなってしまったが、まずは行事に間に合ったことをよしとしましょう😄

祠を囲む集落の人々

どうやら行事は最終盤に差し掛かっていているようだ。
集落の入口にあたる小掛橋のたもとの祠に男性の鍾馗様、出口にあたる田代集落へ抜けるあたりの祠に女性の鍾馗様が祀られていて、今日は衣装の杉の葉をかけ替える日となる。
そして衣替えを済ませた鍾馗様は再び祠に納められる運びとなり、今は女の鍾馗様に続いて男の鍾馗様が納められている場面。今年は例年開催している直会もコロナのせいで行われないと言うし、もうすぐ行事は終了というタイミングで管理人が鑑賞を始めたワケだ。

鍾馗様を整えます。


家内安全、悪疫退散を祈願。これから1年よろしくおねがいしますm(_ _)m
集落の人たち以外にギャラリーも多数。その中にやっぱりいらっしゃいました。秋田人形道祖神研究の「マエストロ」小松和彦さんと、イラストレーターの宮原葉月さんの秋田人形道祖神プロジェクト(ANP)ご両名。昨年末の能代市浅内のナゴメハギ以来の再会となる😀相変わらず精力的な取材ぶり、流石です❗
行事の始まりからフォローされていたお二人から、鍾馗様を祠に納めるまでの様子を教えていただいた。伺った内容をまとめると、①2体の鍾馗様を祠から移動 → ②杉の葉を新しいものに交換 → ③2体の鍾馗様を公民館前で向かい合わせに祀る → ④公民館内で百万遍念仏を唱える → ⑤女性の鍾馗様をトラクターに乗せて、集落出口の祠に納める → ⑥男性の鍾馗様をトラクターに乗せて、集落入り口の祠に納めるという流れだったようだ。
例年⑤⑥の際に奏でられるお囃子はコロナのために取りやめたそうで、こんなところにもコロナの影響が及んでいるわけだ。
また、通常④は鍾馗様を囲んで屋外で行われるが、これもコロナのため屋内開催。コロナを避けるのになんで屋内?と違和感がなくもないが、何かしらの理由がおありなのだろう。

区長さんのご挨拶


現在はトラクターを使い、鍾馗様を公民館から祠へと移動させているが、かつては集落の有志が背負って送り納めていたようだ。
二ツ井町史には「戦前までは、疫病(赤痢、チフス等伝染病)がはやり出したといえば出動する習わしで、若者が背負う両性を揃えて囃しと共に練り歩き、玄関又は縁側に机をしつらえ、御灯明、御神酒、花、米その他を御供えして、迎える戸毎に一々接触を重ねては囃し立て、御神酒をいただいて酔い、一日にして部落一巡は喜ばしい難事であった」と記されている。
また、ANPのブログ記事を拝見したところ、昨年は若い方が数十年ぶりに鍾馗様を担いで移動する場面があったそうで、さぞかし盛り上がったことと思う。
そのあたりの雰囲気は以前に横手市大雄藤巻で見た厄神様(重さ100kgの厄神様を集落外れまで背負って運ぶ過酷な行事です💦)に近いのかもしれない。

近くに寄ってみましょう。


間近で見ると結構な迫力です😅😅
特に凝った造りではなさそうにも見えるが、躯体の杉の葉の濃い緑色と、面の濃い紅色のコントラストがヴィヴィッドに映える。
ワラを用いて躯体部分を造る道祖神が大半を占めるなか、鍾馗様の色使いの鮮やかさはちょっと珍しいのではないだろうか。
このあと時間が経つにつれ、杉の葉は枯れてしまい、緑色から茶色へと変色してしまうことになるのだが(道の駅ふたつい歴史・民俗資料コーナーに展示されている鍾馗様が着ける杉の葉は茶色です)、替えたばかりの真緑の衣装を見れたことはとてもラッキーだった。

午後の陽射しがまぶしい☀


仁ツ井町史には鍾馗様の姿について「顔は厚板の木彫だが、紅殻で染めて紅く、眼の縁と歯は銀紙を装うて光り、身には杉の葉を纏い、藁で作った厚い腰蓑をまわし、口に60cmの木彫煙管を銜え、腰に荷俵を小型にした『煙草入れ』を下げ、一見ギョッとする怪物である」と説明がなされている。
身長2mの巨体はたしかに「ギョッと」しそうな大きさだが、角ばった輪郭、繋がった太い眉毛と吊り上がった大きな目、口元の煙管などひっくるめると、とてもユーモラスな顔立ちだ。
以前大館市山田で見たジンジョ様などは真っ白な顔がちょっと不気味だったりして、真夜中にばったり会った時には怖さのあまり気を失いそうな顔つきなのに対し、鍾馗様の場合「なんだー、ショウキ様かあ。びっくりさせないでくれよお😅」と思わず安堵してしまいそうな、大らかさが感じられる。

これにて行事は終了です。


集落の人たち、見物客が三々五々に帰っていく。
小松さんと宮原さんは、このあと本日2件目の行事へ向かうとのこと。マジですか!強ええ!残暑厳しい折、暑さ対策だけは万全になさってくださいね~😃😃
管理人はと言えば、小松さんに引き合わせていただいた、ある道祖神ファンの男性の方に、女性の鍾馗様まで案内していただけることになった。
現在は大仙市にお住いのこちらの男性は、元々県外のご出身とのこと。秋田に数多残る道祖神に興味を持たれ、いろいろ見て回られているそうだ。
秋田ではそれほど珍しくない存在の道祖神だが、やはり県外の方から見ると貴重な文化遺産という風に映るのだろう。

歩くこと約5分。祠前に到着です。


男体と同様、しっかりとした造りの祠に納められている女性の鍾馗様
大仙市の男性から「ほら、目の色がさっきの鍾馗様と違うでしょう」と教えていただく。
男性の白目部分は金色だったのに対して、こちらは白銀色。結構細部までこだわった造りのようだ。
小掛の鍾馗様は、2020年11月に埼玉県所沢市にオープンした角川武蔵野ミュージアムの開館記念イベント展示のために、今夏新たに一体製作されたばかりだ(ANPのお二人も全面協力されていました)。
ANPのブログ記事によると、その鍾馗様は女性とのことで、言うなれば今管理人の目の前でどっかと鎮座されている鍾馗様の女友達ということになるんだろうか😄

女性の鍾馗様を見たのち、大仙市の男性に礼を述べて現地を後にする。どうもありがとうございました😄😄

鍾馗様を納める様子をちょっと見ただけの、短い時間の滞在とはなってしまったが、急に思い立って駆け付けた訳なのだから贅沢は言うまい。それよりも最後の最後の場面にどうにか立ち会えたことを喜ぶべきだろう。
そして何よりも、堂々とした鍾馗様のお姿!コロナの影響で、行事の形態が例年と変わってしまったのは口惜しいところだが、悪疫退散・家内安全を願う小掛の人たちの心の拠り所であり続けるだろうし、このご時世、対コロナのアイコン的存在にもなれそうなぐらいの存在感だ。
2021年は是非、賑やかなお囃子と共に、凱旋パレードよろしくトラクターで集落内を闊歩する鍾馗様の晴れ姿を見たいものだ。


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