比立内の朝鳥追い

2021年1月1日
コロナ禍に揺れに揺れた2020年が終わり、2021年が幕を開けた。
忌々しいコロナなんぞさっさと消え失せてもらって、新鮮な気持ちで新しい年を迎えたい!と思う一方で、ここ数年ルーティン化していた大晦日のナマハゲ行事鑑賞と、それに続く八郎潟町の一日市裸参り鑑賞を断念したこともあり、いきなりつまづいた感満載の新年のスタートとなってしまった。
その借りを返すということでもないが、元旦早朝から始まる北秋田市(旧阿仁町)の行事鑑賞を計画。それが今回の「比立内の朝鳥追い」です。

「秋田の祭り・行事」によると「昔は小正月に行う害虫や雀などを追い払う豊作祈願の行事でしたが、今は元旦に集落の人々全員で行い、終わると比立内神社に初詣をします。暗いうちに笛・太鼓で人々を集め、集落はずれから『朝鳥ホーイホイ、これはどごの鳥ぼいだ‥‥」と歌って行列します。かつては参拝が終わってから、豊作祈願の綱引きをしましたが、現在はこの風習はありません」とのこと。
そして驚くべきは、その行事時間 午前5時30分~8時30分!早朝すぎるだろ!さすがにこの時間に比立内に行くのは辛いなあ‥と思いつつ、北秋田市に照会したところ「行事は1月1日、午前6時頃から行われます」とのお返事。その時間であれば4時に出発すれば大丈夫なはず。何とか起きれないこともない。よし!行きましょう、朝鳥追い。決定です!

当日。目が覚めたのは5時、いきなり寝坊です😱😱😱前日、紅白を最後まで見たのがまずかったのか、その後チャンネルを変えてガキ使まで最後まで見たのがまずかったのかどっちでもよいが、これでは6時の行事開始には到底間に合わない。比立内行きを諦めることもできたが、行事の途中からでも見れたらラッキー、ととりあえず出発。前日の強風はほぼ止んだものの、ヘンに車のスピードを上げるといきなりスリップするような状態なので、慎重に秋田中央広域農道~国道285号線~県道214号線~国道105号線と進む。途中ですれ違うのは除雪車ばかりという状況だった。

2時間かかって比立内まで到着

7時近くだというのに、空は暗いままだ。気温はマイナス8℃!こりゃ、十分に着込まないと寒さに耐えられそうにない!などと、行事を鑑賞できる前提でいろいろ想像してしまっているが、6時に始まった鳥追いがもう終わっていたのでは話にならない。
事前に北秋田市役所の方から伺っていた集合場所:比立内除雪センターへと急ぐ。なお、googleMapで比立内除雪センターと検索すると、国道105号線沿いに建つ阿仁幸屋渡の除雪センターを指してしまうが、行事のスタート地点は阿仁比立内梨木台にあるほうの除雪センターとなります。

国道を外れて比立内の住宅密集地域を抜けて、除雪センターへと向かう。どこかで鳥追い一行と遭遇できるんじゃないか‥などと思いながら向かうものの、行事が行われている雰囲気が全くない。昨年12月に思い切り空振った山田のジンジョ祭りの二の舞か😢と不安な気持ちがどんどん膨らむ中、車を進めていくと‥


おーーーーーーーーー!!いたっ、いました鳥追い一行が!これは奇跡に違いない!笛・太鼓、引率・同行の方々の他に10数人ほどの子どもたちが待機中。
これはどう見ても、行列の最中ではなく開始前の様子。車を降り、皆さんに自己紹介をして、早速「6時には出発すると聞いてたんですけど‥」と聞いたところ、現在は7時行事開始とのこと。北秋田市役所の職員の方から教えてもらっていた6時開始との情報が違っていたことになる。ただ、管理人の性分だと7時開始と事前に聞いていたとしたら、寝坊して6時に起きていたに違いないワケで、そういった意味では1時間早い情報をいただいたおかげでジャストの時間に着くことができた。

ようやく白み始めた朝の空に笛と太鼓の音色がとどろいてます。


出発前にもかかわらず、笛と太鼓が賑やかに鳴らされていて、いやがうえにも祭り気分が高まる。
行事の間じゅう、間断なく雪が降り続くが、これすらも冬祭りの風情を高めてくれる。昨年はほとんど雪がなく一抹の寂しさを感じたのだが、今年は昨年のようなことはない。

準備はいいですか。


雪の降りしきる中、鳥追い行列が行進を始める。
ともすると、止まない雪と寒さに心が挫かれてしまいそうだが、最後尾から鳴り響く太鼓と笛の音が一行を元気づけてくれる。
阿仁町史では、阿仁地方全域の鳥追いの様子を「この鳥追いは15日から16日の朝にかけて行われるもので、せっかく丹精こめてつくった農作物を鳥獣に荒らされないように、あるいはいまわしいことがないように、まじないの意味を込めて行われる行事である。子供は拍子木を打ち鳴らしたり、ブリキカンを叩きながら深く積もった雪を踏み分け、雄々しく、楽しく集落を回る。その子供たちの姿は凶作を追い払い、豊かな実りの年を迎えるよう願う希望が形になったように映る」と紹介している。

冬の重々しい空気の中、軽妙な笛の音が心地いい。


北秋田市HPにアクセスすると、合併前の旧4町(鷹巣町・森吉町・合川町・阿仁町)の広報のバックナンバーが閲覧できるようになっており、その中の「広報あに(1974年1月号)」に当時の朝鳥追いの様子が紹介されていて、表紙の写真含め、現在とはかなり異なる50年近く前の行事の様子が垣間見ることができる。
「元気に朝鳥追い 年明けの風俗行事」と題されたレポートのなかで「身を切るような寒気の中を、暗やみの奥からかん高い声が聞こえてくる。(中略)こうして明けるすがすがしい朝、朝鳥追いの終わりとともに、この地は新しい年を迎えることになる」と書かれている通りで、今日の鳥追いからも雪の降り続く陰鬱な様子とは裏腹な、どこかさっぱりとした雰囲気が感じ取れる。

しずしずと進む行列


先頭の男性から「よかったらどうぞ」と鳥追いの歌詞のコピーをいただく。♪朝鳥ホイホイ、夜鳥ホイホイ、これはどこの鳥追いだ。とざとの鳥追いだ。鳥もないかぐぢに粟食う虫と、米食う虫と、頭割って塩つけで、塩ダラさぶち込んで、海山おい流せ、ケガヂも追い流せ、ホイホイ
2年前の冬に鑑賞した、三種町勝平の鳥追いと節はほとんど一緒なものの、歌詞がところどころ異なっている。
阿仁町の中でも集落によって歌詞が違う、と阿仁町史のなかで説明されていたし、微妙な地域差がそのままの形で受け継がれているということなのだろう。

子どもたち、寒くない?頑張っていこー😃


秋田県教育委員会が昭和43年に刊行した「秋田の田植習俗」には県内各地のいくつかの鳥追い歌が紹介されている。
♪朝鳥 ホイホイ 宵鳥 ホイホイ ヨナカ(世中)の良い時 鳥もいないやほいほい 稲食う鳥よ あわ食う虫よ 尾切ってかしら切って 塩俵さぶちこんで 佐渡島さ流せ流せ(旧仙北郡中仙町)
♪朝鳥 ホーイホイ 夜鳥 ホーイホイ 長者どんのカクヂ(囲地)に稲こぐ鳥こかしらもんで ソ(塩)つけて ソダラ(塩俵)さぶっこんで 男鹿の島ちけがら(近いから) 佐渡島さぼってやれ(旧山本郡琴丘町鯉川)
♪朝鳥 ホーイホイ 夜鳥 ホーイホイ 長者のカグヂ(囲地)は鳥もネガグヂ 久保田の親子 能代の親子 鳥追ってたもれじゃ ホイホイ(旧山本郡八森町)
「男鹿」「久保田」「能代」などの県内の地名に混じり、盛んに「佐渡島」が歌詞に登場する。以前の記事「勝平の鳥追い」でも紹介したが、後藤麻衣子さんの著書「カマクラと雪室 その歴史的変遷と地域性」には、秋田県や新潟県など日本海側地域には、鳥を佐渡島へと追いやる詞章が多い、としたうえで「中世において、東は『外が浜』が日本の境界であり、その先の「夷島』は境界の外に位置づけられた特殊な境域であったとされている。(中略)換言すれば『夷島』は悪いものを追放する場所と認識され、佐渡はその意味を持つ場所であったと考えられる」といった考察が記されている。

ずんずん進みます。


太鼓の音がドンドンと響く。
それにしても背中に担いだ太鼓を奏者が叩いて行進するスタイルはなかなか珍しいのではないだろうか。
この太鼓は毎年8月14日に行われる比立内の獅子踊りで使われる太鼓でもある。ただし、お囃子は獅子踊りのものとは異なり、鳥追いだけで演奏されるお囃子なのだそうだ。
奉納舞である獅子踊りの場合は本番の前にお囃子の練習をするはずだが、鳥追いは本当に年1回しか演奏しない。笛吹きの男性に「よく節とか忘れないですね~」と伺うと、「これが結構覚えでるんだよ」と仰っていた。
子供のころから慣れ親しんだメロディであり、それを笛で再現するという感覚なんだろう。
また、歌に関しても子供のころはもちろん誰も歌詞を覚えていないので、先導する大人が声を張り上げて子供に歌わせることから、子供が次第に覚えていくそうだ。


全長1kmほどのコースだが、笛・太鼓奏者がかじかんだ手を暖め、太鼓の担ぎ手が交代するための休憩がたびたび入る。
今のルートは県道308号線を国道105号線方向に向かって進んでいて、結局国道には出ることなく行列は終了となるが、昔はコースも長いうえに総勢150人にもおよぶ大行列が組まれ、歩く時間も長かったため、陽がのぼるかなり前の真っ暗なうちに出発していたそうだ。
また、地元の年配の方に教えていただいたところでは、大人数で雪の積もった平場を歩くことで春先の堆肥運搬用の道普請も兼ねていたそうで「バンバンど固まった、ええ道がでぎだもんだよ」と仰っていた。
儀式的行事である鳥追いにそんな実利的な側面があったとは!その点だけをとっても比立内の人々には絶対に欠かせない行事だったことが分かる。

時折吹雪く。


一行が歩いている県道308号の正式名称は「県道河辺阿仁線」
名前の通り、秋田市河辺と阿仁とを結ぶ一般県道であり、途中、河辺の岩見ダム付近から鳥追い一行のスタート地点 除雪センター付近に至る道路は「河北林道」と呼ばれ、秋田市~阿仁まで僅か30kmほどで繋ぐショートカットルートとなっていた。
一般県道として1995年に認定されたものの、通行危険個所多しという理由で2009年に通行止めとなり、現在は秋田市⇔阿仁間の通行はできなくなっているが、その野趣溢れるさまが多くのオブローダーたちを魅了、超有名ブログ「山さいがねが」でも取り上げられている、知る人ぞ知る激走スポットなのだ。



運搬用道路の事を教えてくださった年配の男性からは、昔はこの行事が小正月2月16日に行われていたことを教えてもらった。
それがなぜ元旦の開催に変わったかというと、出稼ぎの人たちが年末年始に帰省したのに合わせたからだという。
「秋田の祭り・行事」にはかつて行列後に綱引きが行われていたことが記されているが、これはおそらく小正月行事としての綱引きであり、鳥追いや綱引きが一体となった、この地におけるかまくら行事の姿が伝わってくる。
現在は行列のあとに比立内神社で正月の福引が行われるのが恒例なのだが、今年はコロナのせいで中止になってしまった。

ここでも休憩


雪の下に氷が張ってあるのを見つけた子どもたちがスケートごっこを始める。
今年はコロナのせいで帰省される方(とそのご家族)が少なく、行列の人数も例年に比べてかなり少なめとのこと
そんな状況下で行われた鳥追いではあるが、朝から家の前の除雪をしている多くの人たちが作業の手を休めて、鳥追い一行を温かく迎える姿が印象的だった。
なかにはご祝儀を持参して、先導役の方に預ける方もおり、人数は減れど比立内の人たちにとって新年の大事な行事であることに変わりはないのだろう。

「頑張ってけれよー😄」


「カマクラと雪室 その歴史的変遷と地域性」には鳥追いの要素の一つである「集落同士による悪口の言い合い」について触れられている。「本来、鳥追いは害鳥や悪いものを集落の外へ追放する目的で行われていたのであり、相手集落を貶めるものではなかった。(中略)その後、両集落で悪口をいえばいうほど白熱していき、互いの集落の悪いものをさらに追い払う効果が高められると考えるようになり、集落同士で、争う鳥追いの形態へと変化したと推測される」
比立内ではこの慣習について伺うことはできなかったが、富木隆蔵さんという方が1973年に上梓した「日本の民俗 秋田」には「阿仁の部落では阿仁川を挟んで16日、鳥追いの後、夜がしらじらと明けるころ、悪口を言い合うアクダイマツリがある」と記されている。
もしかすると、鳥追いから派生する形で「悪態祭り」なる呼び名で集落同士の悪口合戦が繰り広げられていたのかもしれない。

比立内神社前を通過


時刻は7時50分
比立内神社前を過ぎて、ほどなく国道105号線から150mほどの四叉路へ到着。笛・太鼓の演奏で締めて、行列は終了となる。
この頃になると風と雪は止み、心なしか雲も少しづつ薄くなってきた。自宅を4時出発どころか、5時に目が覚めたときには「あ~あ、やっちまった🥱🥱」と軽くやさぐれた気分になったのだが、何とか比立内まで来て、鳥追い一行に同行して冬の朝の冷たくも爽やかな空気に触れ、新年初めの日を気分よく飾ることができた。

比立内神社へと移動します。


先に書いたように、本来ならここで福引が行われ、集落の沢山の人が集まるのだが今年は中止。子どもたちはここで新年のお参りを済ませて、お菓子やカップラーメンの入った福袋をもらって解散となった。
大きくないながらも、新しいうえにがっしりした造りの比立内神社。思わず地元の方に「立派な神社ですね~」と尋ねると、「んだよー。お金かがってるよ~」とのこと
沿革については分からなかったが、阿仁町史には「マタギの里、鉱山の里として長い歴史を持つ阿仁町は、また神々の里といってもいいほど神社が多い。そもそも阿仁では、山の神への信仰が古くから行われてきた。マタギはクマの狩猟で生活を成り立たせていたが、クマなどの獣は神からの尊い授かりものだ、という信仰に結びついていたわけである」と記されている。
比立内も古くからのマタギ集落の一つであり、かつてのマタギ達も比立内神社で山への感謝とともに猟の成功を祈願したに違いないだろう。

比立内をあとにする。

いきなりの寝坊から始まった今日の行事鑑賞だが、新年の幕開けを飾るに相応しい行列の様子が印象に残った。
多くの秋田県人にとっては冬は雪に悩まされる鬱陶しい季節であり、早く終わってほしい、というのが偽らざる本音だと思うし、事実今年は大量の降雪に見舞われ、雪下ろし中の事故のニュースがひっきりなしに報じられる有様となってしまった。
そんな中にあって、笛と太鼓が鳴り響き、元気な子どもたちが楽しそうに行進する朝鳥追いは、暗い冬に差し込む一筋の明かりのように清々しく、美しかった。
来年はコロナ禍の収束とともに、再び比立内の皆さんが大集結する本来の姿を取り戻してほしいと思う。


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