勝平神社地口絵灯籠祭り2021

2021年5月13日
相変わらずのコロナ禍のなか、今回訪れたのは秋田市保戸野 勝平神社の地口絵燈籠祭り。これまで2回ほどお邪魔した馴染みの行事でもある。決して派手ではないものの、風刺の効いた地口と、絵心溢れる戯画が描かれた燈籠の灯りが夜の境内を照らす景色は一見の価値あり。ということで仕事終わりに時間を作って出かけてまいりました。

19時40分。近くに車を止めて勝平神社へ歩いて移動。カメラを持ってくるのを忘れてしまい、スマホで撮影したので縦長の写真になってます。

「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」にこの祭りが取り上げられていて、その冒頭に分かりやすい説明がなされている。
保戸野の勝平神社の例祭にあたり、社頭で繰り広げられる地口絵燈籠祭りといわれるものは、その時代時代の生活の様相や政治、経済、文化、教育などを庶民の心情で風刺したもので、庶民の本音をあらわした落首のようなものである。これを文字にして、また南画風の挿絵にして地口絵燈籠として飾り出すというものである。それによって一時、庶民の憂さを晴らそうとしてきたものである。

世相を風刺する特徴そのままというか、やはりコロナ関連の絵燈籠が多い。2020年はコロナが流行り始めた時期だったこともあり、境内の絵燈籠飾りは中止になってしまったが、代わりに燈籠に貼られるはずだった地口絵紙を勝平神社がFacebookで公開する形で、完全な中止状態は免れた。その際の絵紙を見ると、コロナを題材とした作品がそれなりに混じってはいたものの、未知の脅威だったコロナに対する警戒感が感じられるものや、全国的なマスク不足を風刺したものなどが目立っていて、すでにいくつかの感染ピークを経てきた2021年とは傾向が異なることを実感できる。

こちらが神社の本殿です。

5月12日に宵宮、13日に例祭が行われたが、神社のFacebookを拝見すると関係者のみ参列、時間も短縮して執り行われたようだ。ただ、絵燈籠が飾られる参道への立ち入り人数の制限などがあったワケではないので、その部分については例年とあまり変わっていない。というか、そもそも大挙して人が押し寄せるお祭りではないので、三密の心配などは元から無用だろう。

参道へ進みましょう。
絵燈籠のほの暗い灯りが参道を照らして、本当に心地よい雰囲気だ。以前の記事にも書いたように「大人のお祭り」のイメージで、一般的なお祭りにつきものの賑やかさとは無縁なようにも思えるが、「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」には「戦前の勝平神社の祭礼には、櫓が建てられ余興や様々な奉納行事が行われていたという。とりわけ今と違って電灯が少ない時では、夜間の照明を兼ねた地口燈籠はこの賑わいをさらに盛り上げるものであった」とある。お祭りの喧噪を倍増させるアイテムの一つだった絵燈籠が、今は慎ましく控えめな存在へと生まれ変わったようにも思える。

参道に飾られるのはお馴染み、神尾忠雄さんの作品群(参道以外に飾られるのは神尾さんのお弟子さんたちの作品となってます)

このお祭りで飾られる絵燈籠の大半を描かれている神尾さん、長く絵燈籠制作に携わるとともに、日本画・水彩画の普及・発展にも努められたということで2020年には秋田県文化功労者に選出された。と聞くと絵画の巨匠、みたいなイメージを持ってしまいそうになるが、市井の人々の心情を反映させた、独特の優しいタッチの絵と文章で人々を和ませてくれる、癒しの作風が特徴だ。そして、2021年も変わることなく、訪れる人の心をほんのりと暖めてくれる作品ばかりだ。

「水なくも わたしゃ 住みよい 泥のなか」
「弱い魚も 丈夫な体」
「ヤドカリの親分 タラと同居をす」
シンプルに癒しを与えてくれるだけでなく、神尾さんの作品は含蓄に富むというか、文学的な奥深さがあると思う。これも神社のFacebookで知ったのだが、江戸時代より絵画と文字(言葉)を組み合わせて謎かけする「判じ物」というジャンルがあったそうで、ダブルミーニングを含んでいる(ように思えてしまう)神尾さんの作風は判じ物の一形態と捉えることもできそうだ。ただ、読んだままのストレートな文章なのか、裏の意味を併せ持っているのかが、シンプルな作風の奥に隠されているようで哲学的ですらある。

落ち着いた境内の雰囲気。素敵です。

「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」では、勝平神社のお祭りについて「今では、地口絵燈籠そのものを奉納する祭礼としては秋田県内唯一のものである」としたうえで「戦前までは他にも盛んで亀ノ丁の恵比須堂、矢橋伊勢堂、楢山愛宕神社、寺町当福寺境内福千代稲荷大明神、寺町妙覚寺地蔵堂などの祭礼にも地口燈籠が出されたというが、今はみられない」と紹介している。おそらく、ここ勝平神社の地口絵燈籠も廃れる可能性は十分にあったと思うが、神尾さんが中心となって牽引した結果、今でも絵燈籠祭りが続き、さらに下の世代へと継承が行われる成果へと結びついているのだろう。

先に紹介した勝平神社Facebookにアップされている2020年の作品を見ると、小さいお子さん方の作品も多数掲載されていて、完成形ではない可愛らしさに溢れた作品を見ることができる。また、絵燈籠の制作においては特に厳密なルールはなく、各自が思い思いの絵と地口を描くスタイルになっているものの、上半分に地口、下半分に戯画を描くスタイルで統一されていて、この形こそが勝平神社の絵燈籠の特徴なのだろう。また、燈籠の横面には「勝平神社」「家内安全」「交通安全」といった語句を記すのも特徴らしい。

地口の真骨頂、権力風刺も忘れません。

神尾さんの作品にもコロナを題材としているものが含まれている。それでも必要以上に重かったり、悲観的過ぎたりせず、コロナが生活や仕事に及ぼす影響がさらっと表現されていて、軽やかな印象を受ける。この後も収束することなく、それどころか(2022年4月時点で)益々新規感染者が増加傾向にあるなか、神尾さんの作品の如く泰然と普段の生活を送りたいものだ。

春から夏へと移ろうこの季節の夜は本当に気持ちよく、ずっと過ごしていられるぐらいに快適だ。この後、初夏を過ぎて夏本番を迎えるころにはコロナ禍も収まり、各地のお祭りや行事に行けるようになるんだろうなあ‥などと呑気に考えていたが、結局コロナは収まらず、ほとんどの夏祭りが中止となってしまう。それに合わせるように管理人自身も気持ちが萎えてしまって、結局この絵燈籠祭りが2021年最後のお祭り・行事訪問となってしまうのだった。

20分ほど滞在。帰宅の途に着く。

以前訪れたときとほとんど変わらない雰囲気の中の鑑賞となった。2020年の絵燈籠展示中止を経て、2021年は待ちに待った再開の年となったが、特に気負うでもなくさらっといつもの通りの絵燈籠が飾られる景色は変わらず素敵だった。コロナの猛威について、引き続き楽観できる状況ではないものの、2022年もいつもどおり訪れる人々を癒す祭りであってほしいと思う。


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