山田地蔵祭り(ジンジョ祭り)2017

2017年12月16日
2017年も残すところ半月ほどとなった。
差し迫った年の瀬を前に去年に続いて2度目の観覧となる行事の登場だ。
奇祭「山田地蔵祭り」
県北地方、特に大館市内に数多く見られる、道祖神祭りの一つである。

道祖神祭りと言えば長野県の「野沢温泉の道祖神祭り」が有名だ。
集落の境に作られ、厄災や悪霊から集落を守る道祖神を祀るお祭りとして、高さ10数メートルにも及ぶ巨大な社殿に火を放つ勇壮な伝統行事だ。
で、大館市各地にも道祖神祭りを行う地域が点在しており、今回の山田地蔵祭りもその一つとなるのだが、祭りの様相は大幅に異なる。
「ジンジョ様」と呼ばれる男女一対の人形を祀り、集落を巡行して回るというお祭りだ。
道祖神といえば石碑や石像の形をしているのが一般的らしいのだが、ジンジョ様は人形道祖神であり、野沢温泉のお祭りのように(社殿等に火を点ける)どんど焼きの要素は持ち合わせていない。
また、集落の災いを一手に集めて葬る虫送り行事とも違っている。

祭りが行われるのは旧暦10月の末日の前日
昨年は11月27日だったが、今年は12月16日がその日にあたる。
その日はちょうど仕事休みの土曜日ということで行事鑑賞を早くから決定
昨年お世話になった赤坂常会(じょうかい)の石山正勝さんに前もって連絡を入れたのだが、今年は残念ながら石山さんはご事情により不参加とのこと
当初、昨年同様に赤坂の様子を見させてもらおうと考えていたのだが、石山さんが参加されないのであれば今年は他の常会の様子を見るのもいいなあと方針変更
アポなしで山田地域へ行って、どこかの常会にお邪魔させてもらおうと計画した。
祭りを行う(山田地域の)常会は、以下の通りとされている。
・赤坂
・美杉
・向館
・館町
・上名
・川反
・前田
・新明岱

当日
昨年は巡行の前の儀式を観覧すべく午後1時から祭りに加わったが、今年は巡行開始時間である3時半~4時に間に合うように、2時半ぐらいまでに祭りに合流できればいいや、と考え、11時半に自宅を出発
季節柄、道路に雪が積もっていてもおかしくないのだが、途中の国道285号線~国道7号線には雪は全くなし
7号線から山田方面に向かう県道68号線に入ると少し雪が残っており、山田に入ると多く残っているような様子だった。
途中昼ご飯を食べたりしながら、山田に着いたのはちょうど2時半

とりあえず行ってみよう、と山田まで来たものの想像どおり人影は皆無
どうアプローチしようかな?などと思案していたところ、一人の男性を発見
「すいません、どこかで山田地蔵祭りやってませんか?」と声をかけたところ、運良くその男性は祭りに参加中であり、煙草を一服ということで外に出られたとのことだった。
これはラッキー
その男性に取り持っていただいて、今年の上名(かみな)常会の当番である片岡さん宅にあげていただいた。
片岡さん宅のお座敷では上名常会の皆さんが宴会の真っ最中
突然すいません。
中央にいらっしゃるのが、自治会長の伊勢さん

聞けば八皿の儀(八つの杯に注がれた酒を列席者で飲み干す。これを飲み干さないと不作になるという言い伝えがある)、祷渡し(来年の当番への引き継ぎ)といった儀式はすでに終わり、今は歓談の真っ最中とのこと
あちこちで笑い声や楽しげな喋り声が飛び交っている。

いろんなお祭り・行事にお邪魔するたびに、いきなりの訪問にもかかわらずたくさんの食べ物・飲み物を振舞っていただくのだが、今日もたくさんいただいてしまった。
大皿を集めて、しかもお膳まで用意してくださって申し訳ないです!

片岡さんの奥様から「食べて食べて!」と勧めていただいたが、全部は食べきれませんでした(そりゃそうだ)。
おはぎ、ぜんまいの煮物、手作りの漬物、どれも美味しかった^^

で、座敷の下のほうに目を向けると‥
ここにおられましたか!
昨年、赤坂常会とのぶつけ合いの際にお目にかかっておりますので、1年ぶりでございます。


ジンジョ様は年に一度当番宿に入り、この祭りの主役となる。
この後上名常会の集落境にあるお堂に納められて、1年間集落を守ることになる訳だ。
去年の赤坂常会では男性のジンジョ様が赤顔だったが、上名常会では茶色なのが特徴だ。
ナマハゲの面が各集落で異なるように、ジンジョ様の顔も常会ごとに違っている。

男神
胸にしまわれている木札には「塞神三柱大神」と書かれている。
昨年の赤坂常会のジンジョ様は、股間が立派すぎてふんどしがそれを隠しきれていなかったが、上名常会のふんどしはお腹の上ほどに巻かれており、最早隠すことを諦めたかのようだ(写真ではイチモツが見切れちゃってます)。

女神
胸にしまわれている木札には「久那斗大神」と書かれている。
昨年はそのご尊顔を「コワいよー」などと言ってしまい、たいへん申し訳ございませんでしたm(_ _)m

片岡さんに教えていただいたところによると、ジンジョ様の体部分は2年に1度の割合で作り替えられるが、今年ははざまの年にあたるため作り替えをせず補修だけしたらしい。
赤坂では毎年作り替えをしているようだし、そのあたりの運用についても常会によって特徴があることが分かる。
また、面は木製であり、基本的にはずっと同じものを使用し、劣化する都度作り替えられるそうだ。

祭壇にはたくさんのお供え物が上げられている。


なますの奥に見えるのは「しとぎ」
米粉に水を混ぜて作られた、この行事には欠かせない供え物だ。
先日テレビで岩手県宮古市の黒森神楽の様子が放送され、シットギ舞込みなる舞が披露されていたが、そこではシットギ(=しとぎ)を観客の顔に塗っていた。
しとぎの使い方もいろいろなのだ。
管理人は行事のあと、しとぎを10個ほどいただいた。
あるご婦人から「ホットプレートで焼いて食べると美味しいよ」と教えていただいたが、管理人は薄く伸ばしたあと蒸して、チャーシューとネギを巻いて中華風蒸しパンにして試してみた。
これも美味かったです^^

昨年、行事を観覧するにあたって参考にした「ニンギョ様を祀る -秋田県大館市に見る人形道祖神を中心に-」を再度県立図書館から借りた。
同書には、大館市内で「長木地区」「別所地区」「花矢地区」「山田地区」の4地区で同様の祭りが行われていて、計28集落に46体の人形道祖神が祀られていることが記述されているとともに、それらの人形がカラー写真で詳しく紹介されており、ジンジョ様の違いがたいへんよく分かる内容になっている。
また、「ジンジョ様」との呼び方は山田地域特有であり、他地域では「ニンギョウ様」や「ニンギョ様」、「ドンジン様」などいろいろな呼び名があることも紹介されている。
ただし、同書は平成18年当時の調査をもとに刊行されたものなので、今現在は状況が大分異なっている可能性もある。

時刻は3時半
伊勢会長が赤坂常会と連絡を取り、ぶつけ合いを行うための待ち合わせの確認をしている。
上名と赤坂は集落境を接しており、この2常会間においてだけぶつけ合いが行われる。
そして出立の準備が始まる。


総勢10名ほどが今年の上名常会代表として巡行を行う。
この行事はその年の当番であるお宅を中心に巡行前の神事や巡行が行われるのだが、当番制である以上去年とは顔ぶれが変わるし、また来年は違うご家庭が上名代表として行事の顔となる訳だ。
女神のジンジョ様を持つのが片岡さん。太鼓を持つのが伊勢会長
準備が整ったところで巡行を開始!
このタイミングでちらほらと小雪が降り始めたが、たいして気になるほどではない。

片岡さん宅を出て、右に行くのか左に行くのか?などと思っていたところ、正面の未舗装道路に入る。
去年の記事にも書いたが、山田地域内は道が複雑に入り組んでおり、部外者にはどこを通ればどこに出るというのがほぼ分からない。
ということで、まさかこんな細い道を使うの?というぐらいの小道を進む。

去年の巡行の折には、雪は積もっていなかった。
同じ行事でも雪があるのとないのとでは景色が全く違うことをあらためて実感

ものの10分も行進すれば、赤坂との待ち合わせ場所となる集落境に到着
赤坂はまだ着いておらず、少しのあいだ待つこととなった。

あらためてジンジョ様を見せてもらう。
「ニンギョ様を祀る -秋田県大館市に見る人形道祖神を中心に-」には各常会ごとのジンジョ様の身長、手の幅、頭部の大きさなどのデータが掲載されている(丹念なお仕事、素晴らしいです!)。
それによると、上名の男神は全高(身長)110cm、女神は105cmとのこと
ここまで調べたのであれば、イチモツの大きさ調査も‥

行進の時には散発的にしか聞かれなかった、伊勢会長渾身の太鼓演奏!
ものの10秒ほどで終わってしまった貴重な演奏がこちら↓(笑)

そして赤坂常会が到着、15人ほどはいるだろうか。
中には小さなお子さんも
ただし、昨年とは当番のお宅が代わっているため、見知った顔の方はほぼいなかった。
また、秋田魁新報と北鹿新聞の記者さんも同行されていた。
ぶつけ合いが始まった!


お神酒を酌み交わした後にぶつけ合いが始まった。
ぶつけ合いには子孫繁栄の意味はもちろん、悪疫退散、無病息災などの意味が込められているらしい。
先に書いたように、現在ぶつけ合いを行っているのは上名・赤坂の2常会間のみで、他の常会は巡行のみと昨年石山さんからお聞きした。
また、山田地域以外においては儀式・直会のみ行い、巡行もなくお堂にニンギョウ様を納めるだけといったのがざっくりとした状況のようだ。
ただし、正確なところはよく分からないし、何らかの調査が行われるのを期待したい。


10分ほどでぶつけ合いは終了
昨年に続いて、いちばん盛り上がるシーンを見られて良かった。
欲を言えば、昨年同様に笛の音がお囃子に加わっていたならばなお良かった。
それでも、上名、赤坂両常会の人たちの願いを込めたぶつけ合いが、きちんと途絶えることなく、このように継承されていることが大事なのだと思う。

次は館町常会との集落境に移動


時刻は4時すぎ
冬の昼は短く、すでに薄暗くなっている、

ここが館町常会との集落境
本当はもっと奥が本来の境らしいが、「このへんでよかろう」ということで、このあたりを境に見立てているとのこと

館町との境では特に何をするでもなくUターン
だが、集落外から侵入する厄災を防ぐ、という意義は果たしたということだろう。
また、館町がジンジョ様を納めるお堂は何故か上名の集落内にあるが、その理由は分からないらしい。

そして八幡神社横にある、上名常会のお堂前に到着
これからジンジョ様をここに納めるのだ。

こちらが八幡神社
雪のため境内までは行けなかったが、いろいろな神社サイトで見ると素敵な雰囲気のようだ。

お堂の入口上部についている蛍光灯
噂によるとこの蛍光灯には電気がきてなくて、点かないらしい。フェイク!?

ジンジョ様の躯体は結構大きいので、納めるのに少し苦労したが、なんとか終わりました。

無事に祀られたジンジョ様


ジンジョ様はこれから1年のあいだ、ここに鎮座して上名の人たちを守るという大切な役目を負っている。
もともとジンジョ様は風の神、風邪を治す神と云われており、例えば家人が風邪をひいた時などにお堂にお参りする慣わしがあったそうだ。
またお堂の隅の方には、以前使われていた木製の首部分が立てかけられている。

全員でお堂に向かって手を合わせて、これにてお祭りは終了
すでに皆で飲食を楽しんだだけに、このあとはめいめいが家に帰るだけとなる。
管理人もお世話になった皆さんに挨拶
いきなりの訪問にもかかわらず快く迎え入れていただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m

昨年の赤坂常会に続いて、今年は上名常会の地蔵祭りの様子を見させてもらった。
人形道祖神がこのように祀られて、祭りが執り行われる形態は全国的にも珍しいようだ。
そういった観点からも、もっと注目されてしかるべき祭りだと思うのだが、そんな管理人の下世話な思惑などどこ吹く風とばかりに祭りは事も無げにひっそりと行われる。
山田地域の人たちにとっては、年に1度ジンジョ様を囲んで語らい合い、ジンジョ様を持って巡行することで、自分たちのアイデンティティ、人との繋がりを確認することが大事なのであって、その様子が素敵なのだと思う。
決して「奇祭」の一言では表現し尽くせない、ほのぼのとした行事を観覧できた満足感とともに帰宅の途についたのだった。


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