毛馬内の盆踊り

2016年8月21日
前回の西馬音内盆踊りに続いて、今回も盆踊りなのだ。
このブログを始めてから4つの記事全てが盆踊り(一部獅子舞あり)であり、もっとたくさんの種類の伝統行事を紹介したいのだが、管理人は盆踊りが大好きなのでそこは大目に見ていただきたい。

今回は「毛馬内の盆踊り」
秋田三大盆踊りのひとつであり、踊りの行われる毛馬内本町通りにこもせ(建物の正面に庇を設けた木製アーケード。現在は毛馬内本町通りのことを毛馬内こもせ通りと呼ぶらしい)が再び作られたこともあり注目度の高い行事のひとつである。
個人的には「最もブレイクして欲しい秋田県の祭り」でもある。

実は去年も観覧した。
今年も見たいということで本当は8月22日に出向く予定だったが、22日はかなりの確率で雨天とのことだったため、前日の21日に時間を作って鹿角市に車を走らせたのだった。
3時頃に秋田市を出発し、5時半ぐらいに鹿角市に到着した。

鹿角市に来ることはそれほど多くない。
知り合いもいないし、遊びに行こうにも秋田市からではかなり時間がかかる。
で、来るたびに強く感じるのは、秋田の田舎や町とは雰囲気が違うということである。
このへんの地域が旧南部藩領であることはよく知られているが、秋田と岩手の中間的な雰囲気というのでもない、新南部藩とでもいうべき独特の空気感がある。
お祭りにしても花輪で行われる町踊りは秋田の典型的な踊り行事とは明らかに違うし、かの花輪ばやしを見ても「ジョヤサ!」とか言いそうにない。
その地で行われる盆踊りがこの毛馬内の盆踊りだ。

祭り前の毛馬内本町通り
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車は会場のすぐ近くにある十和田市民センター前の駐車場に停めた。
車の数はあまり多くない、というか少ない。
現地の方は徒歩で会場に来るだろうし、電車で来られる方も多いのだろうか。
因みに会場の最寄駅はスイッチバック駅として知られているJR花輪線十和田南駅である。

それはいいとして、その少ない車のナンバーを見ると県外率がとても高いのだ。
岩手や青森、八戸ナンバーが多いのは分かるが、首都圏のナンバーや関西地方のナンバーもあったりする。
秋田県外における知名度は低いと思い込んでいたが、全国的にも知る人ぞ知る盆踊りなのであろう。
後日、小野和哉さんという方の著書「今日も盆踊り」を読んだが、行ってみたい盆踊りとしてこの盆踊りを挙げられていた。
秋田県人でも実際に見たことがあるという方は多くないと思う。
では、なぜそのような盆踊りが注目されているのか?
答えは簡単、素晴らしい盆踊りだからである。

会場では子供盆踊りコンクールが行われている。
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小さな子供といえど大人の踊り手と同じ装いであり、中には何やら貫禄漂う踊りを披露するちびっ子もいた。
また、コンクールというだけあって踊りの上手な子には賞が授けられるのだが、同伴のお母さん方がまるで我が子の受験の合格発表を待っているかのようにドキドキされていたのが印象的だった。

しばらく通り沿いをブラブラする。

こもせの町並み
提灯に明かりが灯る。
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会場入口の大きな提灯
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本町通りにある説明板
概要が書かれているが、詳しくは毛馬内盆踊りHPをご覧いただきたい。
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説明板の最後の方に「~見る人をしばし幽玄の世界に誘う」と書かれている。
羽後町の西馬音内盆踊りを「幽玄」と表現する向きがあるが、その言葉は毛馬内の盆踊りにこそふさわしい。
西馬音内があの世とこの世の狭間で踊られるのに対して、毛馬内は彼岸(生死の迷いを河・海にたとえた、その向こう岸)で踊られるモノトーンのイメージがある。

日が暮れてきた
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そこかしこで即席の撮影会が始まる。
踊り手のビジュアルがほかでは見ないぐらいユニークなので、それなりの数のカメラマンが集まる。
管理人は本格的なカメラを持っていないし、撮影技術もないがお相伴に預かって撮らせてもらう。
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そして7時半
まずは太鼓が会場に入り、演奏を披露するところから盆踊りが始まる。
県南生まれの管理人にとって県北方面によく見られる大太鼓の演奏はかなり新鮮だ。
8月15日は毛馬内の近く、大湯にて大湯大太鼓まつりが行われるが、披露されるのは太鼓の演奏のみというのも興味をそそられるところだ。
来年あたり行ってみたい。
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曲目は「大拍子」
太鼓に笛がつく。

この大太鼓演奏の時に限っては、おそらく大太鼓保存会などのお偉いさんと思われる方の解説や仕切りが入る。
その話し方が、この幽玄きわまりない伝統行事におおよそ似つかわしくないかんじで妙にフランクなのだ。
ある意味、この世とあの世の架け橋役でもある(笑)

解説によると、多くの太鼓は牛の革が張られており叩くと「ドン」という音がするのに対し、この大太鼓は馬の革が用いられており叩くと「パーン」という音がするのだそうだ。
たしかに聞きなれた太鼓の音とは違う。

太鼓の曲は「大拍子」、「七拍子」、「高屋」などがある。
不勉強ゆえどの演奏がどの曲なのかよく分からないが、太鼓の演奏だけでも一聴の価値はある。
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そして8時
踊りの列が入場し、盆踊りが始まる。
まずは「大の坂」

動画を見てもらえると分かるが、大太鼓も踊りの列に一緒に加わって移動する。
盆踊りと言えば櫓が組まれその周りを回るのが一般的だが、この踊りはその形を異にする。
この形は岩手県北部から青森県南部のいわゆる旧南部藩領に伝承される「ナニャドラヤ」と同じである。
旧南部藩共通の様式と考えられるが、これだけ大きな太鼓を運びながら踊りの列に入るのは毛馬内ぐらいのものではないだろうか。

踊りの輪
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今では太鼓と笛による伴奏の「大の坂」には以前歌詞がついていたそうだ。
柳沢兌衛さんという方の著書「重要無形民俗文化財 毛馬内の盆踊」から歌詞を抜粋したい。
♪ こごは大の坂 ハンハノ ハイ
ハェ 曲がるでぁ ハァヤィ
ハェ 中の ハァハェデャ
まんがりめで ナァ 日を暮らす
ハェデァ おう先ぎ ハイノソレガヤェー (原文ママ)
意味は「この世と常世と幽明界を異にする境界は今、仏にならんとする人がとぼとぼ登っていく坂なので、その坂の曲り目でいよいよ此の世と別れなければならないのかと『ハェー曲がるでぁ』と声をだしてしまい、坂の曲り目で日を暮らして悟ったのでハイお先にごめんなさい」というものらしい。
この世に別れを告げ今まさにあの世に旅立とうとする人の寂しさや孤独を歌った内容であることは明らかだ。
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死者への手向けの意味がある踊りではあるが、笛の奏でるメロディは無機質だ。
楽しく享楽的な要素はないし、かといって辛気臭さや悲しさも感じられない。
まさに一切の情緒を断ち切った彼岸の彼方から奏でられているかのようだ。
笛は3人で同じ節を吹いているが、個人的には1人で吹いたほうがより深く虚無感、無常観、諦念を表現できると思う。
が、大太鼓の奏でる轟音とバランスを取るには3人の演奏による相応の音圧が必要なのだろう。
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黒紋服に手ぬぐいの頬被りという出で立ちも相当ユニークだ。
毛馬内盆踊りHPを見ると頬被りの理由として「藩境で争いが多く、婦女の略奪等を避けるために変装をした名残り」と書かれている。
がしかし、目だけが見えて顔のほかのパーツが見えないというのは実はかなり魅惑的で、見る人に強い印象を与えてしまう。
おそらく頬被りをすることで男性と見間違える効果を狙ったと思われるが、これではかえって略奪を勢いづかせる結果となったのではないか、いやいや「略奪を避ける」などは表向きの名目で実は略奪してほしいという裏の意図があの頬被りに表れているのではないか、などと適当な推理をしてみる(笑)
カラー刷りの盆踊りチラシがすでに妖しい雰囲気を醸し出している。
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8時40分を過ぎると甚句踊りが始まる。
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踊りの輪の中に秋田市出身のプロダンサー、YOSHITAKAさんがいらっしゃった。
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踊りが終わったあとに少しだけ話をさせていただいたが、YOSHITAKAさんはこの時期の秋田県内のいろいろな行事に出かけられたそうだ。
秋田三大盆踊りを始め、生保内田植え踊りなど踊り関係のみならず、なんと差し手として竿燈祭りにも参加されたそうでそれはちょっと凄い。
今はロンドンを拠点に活動されているが、年内にアムステルダム(オランダ)に移られるとのこと
世界を相手に勝負する一方で自身のルーツである秋田の踊りにも積極的に関わっている姿はとってもカッコいい。
ということでYOSHITAKAさんのHPです。

「甚句」は戦いから帰った将兵たちをねぎらったのが始まりというだけあって、大の坂に比べて開放的な雰囲気が漂う。
動画で分かるように飛び入りで踊られる方もいらっしゃった。
大の坂では見られない手拍子も入る。
伴奏は唄のみなので賑やかということはないが、しみじみとした情感が伝わってきてこちらも好きな踊りである。
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手さばきが綺麗だなあ‥と思い、ある踊り手さんを撮影していると、しれっと仮装の男性3人組がフレームインしてきた。
この盆踊りの仮装の歴史は古く、明治時代に撮られた写真にも仮装した踊り手が写っている。
秋田三大盆踊りのひとつ一日市盆踊りが仮装盆踊りとして知られているが、一日市の仮装が「何でもアリ」なのに対して、こちらの3人組は派手な振袖に芸者のヅラという非常に正統派の格調高い(笑)出で立ちだ。

踊りの輪の中に跳び箱の踏み台に似た小さな台が置かれており、唄い手はそこに上がり唄う。
台は2つあり、一方の台に上がった唄い手が歌い終わると同時に、もう一方の台に上がった唄い手が唄を始める形で繋いでいく。
踊りのための唄なので、唄と唄の間にブレイクが入らないようするための工夫であろう。
なので、唄い手は唄が上手いのはもちろんだが、太鼓や鉦などのリズム楽器が一切ないわけであり、唄のみで踊り手にノってもらうことも踏まえなければならないのだろう。

輪の中にカメラマンがいるが、この盆踊りは踊り手が輪の内側を向いて踊りながら進んでいくため、その表情を近くから撮る場合には輪の内側に入る必要がある。
ということで500円で撮影許可証を購入すれば、指定された時間のみ輪の中に入り撮影することができるのだ。
管理人も写真の技術とセンス(と良いカメラ)があれば輪の中で撮影したいが、おそらくこの先も無理だろう。

時間が経つにつれ、観客がまばらになっていく。
近隣のホテルから観覧に来た御一行が大挙して引き上げたし、おそらく個人で見に来られた人も交通機関の事情があるのだろう。
そんななか管理人がいる辺りの観客たちは終始楽しく盛り上がっていた。
踊り手に話しかけたり、件の仮装3人組が目の前に来た時にはやんややんやの喝采を送ったりしていた。
心から踊りを満喫していたようで、こちらも楽しい気分になる。

踊りも終盤
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9時20分に甚句が終わり、そのまま「じょんから」へ
この踊りは津軽じょんからの流れを持つそうで、明治時代に青森県弘前市に陸軍に入営していた毛馬内の青年たちが持ち帰った比較的新しい踊りのようだ。
「大の坂」の幽玄な振りとは異なり、躍動感のある楽しい踊りである。
このあたりの時間になると観客数は本当に少なくなるが、飛び入りで踊る人が甚句以上に多くなる。
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そして9時30分に全プログラムが終わり、踊りの終了となった。
踊りが終わったあとも小さな撮影の輪ができ、カメラマンが集まってきたので管理人も便乗して撮影
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当初は翌22日の観覧を予定していたが、22日は天気予報どおりの雨天になったらしく場所を十和田市民センター体育館に移して行われたようだ。
一戸ナニャドラヤ保存会によるナニャドラヤ踊りを見れなかったのは少々残念だが(22日のみ客演)、雨の心配をすることなく最後まで観覧できたので本当に良かった。
深い満足感を覚えながら秋田市への帰路に着くことができた。

冒頭で「最もブレイクして欲しい秋田県の祭り」と書かせてもらった。
踊りは本当に独特でモノトーンの美を十分に発揮できているし、お囃子もこの踊りの世界観を余すところなく表現できている。
甚句、じょんからの唄い手たちも郷土に脈々と受け継がれているこころを唄い切っていた。
大太鼓演奏も迫力に溢れ、見るものを十分に惹きつけていた。
規模は小さいながらも、たとえ遠方からでも足を運ぶ価値のある行事なのである。
願わくば、より多くの秋田県民、全国の人たち、世界中の人たちにその魅力が伝わり、たくさんの人たちがここ毛馬内の地を訪れるようになってほしい。
夏の終わりに、この世のものではない冥土の踊りを体験するために‥


“毛馬内の盆踊り” への4件の返信

  1. akitafesさん、お返事ありがとうございます。
    実は今回、田子内盆踊りの前日まで、郡上踊りと白鳥踊りに参加していました。
    待望?の土砂降りには遭遇しませんでしたが、盆踊りを通してその土地の歴史や風土、人とのふれあいを楽しんでいます。

    秋田の小さな祭たち、楽しみにしてます!

    1. ふじけんさん
      書き込みありがとうございます。
      郡上おどりと白鳥おどりに行ってらしたんですよね?
      お噂は聞いておりました(笑)
      でもすごいのは、岐阜から秋田に一日で移動して、田子内盆踊りという秋田県人ですら9割以上の人が知らない(勝手に見積もりました)と思われる盆踊りに参加されたことです!
      その行動力たるや、賞賛以外の何ものでもありません。
      田子内盆踊りも風情のある良い盆踊りでしたね。
      近々記事にしますので、しばしお待ちくださいませ~

  2. この日は日中の雨は上がったのですが、
    大変蒸し暑い夜でしたね。
    この年まで黒石よされの蹴出しでしたが、
    今年は純正の蹴出しに半幅帯のいで立ちで踊りました。
    しかし西馬音内盆踊り同様独特な衣装の事情か、
    途中からの降雨で30分繰上げ終了となってしまいました。

    1. ふじけんさん
      書き込みありがとうございます!
      黒石よされ、毛馬内の盆踊り!青森・秋田両県を跨いで盆踊りを楽しまれているようで、こちらも何故だが嬉しくなってしまいます。
      8月後半は突発的な降雨があり、盆踊り含む屋外イベントには何かと苦労がつきもののようですね。
      しかも盆踊りの場合は「雨が降ってきたから、屋内に場所を移動しようかあ」とはできない辛さがありますし。。。
      とはいえ、郡上おどりのように雨が降ろうが槍(?)が降ろうが踊り続けるというのもちょっと興味があります。
      豪雨の中で踊り狂うというのも一興なんでしょうね(笑)

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