大森代々神楽

2018年7月16日
祝日(海の日)となるこの日、昨年訪問したにかほ市象潟の大森歌舞伎へ今年も足を運んだ。
大森歌舞伎は秋田県に2つほど残る地歌舞伎のひとつであり、忠臣蔵五段目「山崎街道」の一場面が面白おかしく演じられる、悲劇的ながらも楽しい郷土芸能だ。
登場人物「与一兵衛」と「定九郎」の怪演を楽しもうと早くからにかほ行きを決めていた訳だが、現地では思わぬ展開が待ち受けていた‥

大森神明社での神事に続いて歌舞伎が上演開始するのは午前10時半ぐらいなので、その時刻に合わせて自宅を出発
国道7号線~日沿道と進み、1時間あまりで会場となるにかほ市象潟横岡大森の大森神明社へ到着した。


今は神事の途中のようで、集落の人たちが社殿内に並んで座っている。
天気は申し分のない晴天でやや暑いぐらいだが、神社境内は涼しく心地よい。

あとは神事が滞りなく終わり、歌舞伎の開演を待つだけだが、昨年に比べるとギャラリーが明らかに少ない。
ん?このあと歌舞伎やるよな?と昨年とは違う雰囲気に少々不安になり、近くにいた一眼レフを携えた女性に「あの~、このあと歌舞伎演るんですよね?」と尋ねたところ、衝撃的な答えが返ってきた。
「中止ですって」
えーーーーっ!!!
聞けば、定九郎役の男性が怪我をしてしまったらしい。
で、代役を務められる人もいないということで、今年は中止になったそうだ。
日にちや時間を間違えたとか、天気が悪くて中止になったとかなら鑑賞し損ねることもあるだろうが、まさか演者の怪我が原因で行事が中止になるとは思わなかった。なんてこった。。。

しばらく経つとようやく心の整理がついてきた。
せっかくにかほ市まで来たのだし、美味いものでも食べてから帰ろう、と神社前に停めておいた車に戻ろうとしたところ、神事が終わって外に出てきた男性から「神楽見ていけば?」と声をかけていただいた。
先ほどの一眼レフの女性に自分(管理人)は秋田市から来た者であることを話していたので、よほど不憫に思われたのだろう、その女性が関係者の方に伝えてくれたようだ。
どうやら先の神事において舞った神楽を、これからあるご家庭の座敷でも舞うらしい。
一般家庭におじゃまするのも畏れ多いなあ‥などとも思ったが、せっかくなので遠慮なく鑑賞させてもらうことにした。
ということで、今回の記事は「大森代々神楽」に急遽変更!

早速神明社のすぐご近所のお宅にあがらせていただく。
お家の方から撮影、ブログ掲載許可もいただき、まずは一安心
そして玄関から入って少し家の奥まった場所にある座敷に通された。

座敷には舞い手、お囃子方のほかに集落の皆さん、こちらのお宅のご主人など10人ぐらいが集まった。
中には今年1月の上郷の小正月行事の折に、いろいろ話をさせていただいた男性の姿も。
管理人のことを「あ~、あのときのあの人ね~」と思い出してくださった。

すでに太鼓はセッティングされている。

そして上座には‥

獅子頭が置かれています。
これまでたびたび見てきた獅子舞番楽の獅子頭とは明らかに違う。
おそらくは大きさ自体も番楽のそれに比べて大きいし、眉・目・鼻・口などのパーツもでかい。
というのも、神楽における獅子舞では舞い手が頭を被って舞うのが基本なので(番楽では獅子頭を被ることはない)、それぐらいでかくないといけない訳だ。
また、番楽の獅子頭では「もてかくし」と呼ばれる布製のヒラヒラが頭から垂れているが、神楽の獅子のほうは髪がくるっと巻かれていてなんとなくパンチパーマっぽい。
なので同じ獅子頭でも受ける印象がかなり違う。
あと、番楽ではよく見られる「歯打ち」は神楽では見られないのも特徴だ。

獅子頭の横には‥

左から鈴、御幣、ササラが置かれている。
これから始まる舞で使われる小道具(?)です。

神楽が始まった。
昨年、歌舞伎鑑賞の前の神事で神楽が披露されたのを一度鑑賞しているが、そのときは歌舞伎の前座ぐらいのかんじでしか見ていなかったので、今日は真剣に鑑賞してみよう。


まずは舞い手2名、ササラ振り1名、お囃子方1名で獅子頭に向かって一礼

そして舞が始まる。


御幣を右手に持つ「御幣の舞」から、さらに鈴(錫杖?)を持つ「鈴の段」へと続く。
代々神楽は「太太神楽」「太神楽」とも呼ばれる神楽と同じ種類で、頭役と尻役の二人立ち一頭獅子が特徴となる。
「だい」と「だいだい」の違い、漢字の違いに大きな意味はないようだが、秋田魁新報社が昭和45年に刊行した「秋田の民謡・芸能・文芸」には、「秋田に案外多いのが、太(だい)神楽である。伊勢信仰を広めるためにおはらいをした。お伊勢参り代わりのおはらいだから、代神楽と書く方が原義にかなう」と記されている。

太鼓と笛のお囃子がつきます。


「象潟町史」によると、以前は8月第3日曜日に行事が行われていたそうだ。
そのさらに前は旧盆に行われていたそうで、神楽が各家々を回ったのちに大森歌舞伎が披露されていたらしいが、その後歌舞伎は盆踊りとともに行われるようになり、歌舞伎⇒8月13日、神楽⇒8月第3日曜日と分かれたものが、現在では再びともに7月の海の日開催に落ち着いた、という経緯をたどっている。

続いては「舞の段」


「御幣の段」「鈴の段」に比べてテンポが上がり、やや雰囲気が変わった。
ということで、獅子の鼻先で動き回るササラ振りの動きも活発になったきがする。
元々は悪疫退散、家内安全を祈願する神事としてスタートした太太神楽に余興として付属していた、皿回し、棒使いなどの曲芸は娯楽を提供する「大道芸」として発展を遂げる。
「おめでとうございま~す!」で知られる海老一染之助・染太郎さん(若い人は知りませんかね?)も、肩書きは「太神楽曲芸師」ということになるようだ。

10分ほどで舞は終了
獅子頭を再び上座に安置して一礼

この後は再び神明社へ戻り、舞を舞うことになるが、その前に一休み


集落の皆さんに混ざって管理人も飲食させてもらった。
中止になってしまった大森歌舞伎については、やはり集落の方々も何とか存続していかなければ‥と考えているようで、にかほ市内外の各種イベントでお披露目することを計画しているそうだ。
そういえば昨年9月の三種町森岳歌舞伎にも大森歌舞伎が出張公演という形で参加したし、定九郎役の方の怪我を一日も早く治してもらい、活発に活動してほしいと思う。

さて一行は神明社へ戻ります。

見ず知らずの一般家庭へおじゃまさせてもらったばかりか、すいかやらお菓子やらお茶やらいろいろご馳走になってしまった。
こちらのお家の方(お名前を存じ上げませんでした)、ありがとうございましたm(_ _)m
神楽一行の皆さんも、歌舞伎鑑賞が叶わずしょぼくれていた(と思います)管理人をわざわざ呼び止めて神楽をお見せいただいて本当にありがとうございました。

思わぬ形で大森代々神楽を記事に取り上げることになったが、現在秋田で太神楽を見れる所は限られていることを考えるとたいへん貴重な体験が出来た。
来年は定九郎役の方の怪我も復活し、歌舞伎が引き続き上演されることと思うが、神楽にも注目していきたいし、大森神明社境内の素敵な雰囲気と合わせて是非たくさんの人に見てもらいたいと思う。


“大森代々神楽” への2件の返信

  1. こんにちは。いろんな思いがこみ上げてきて書ききれません(笑)。地歌舞伎、神楽、そして近くにはチョウクライロ舞があって素敵な地域と思いました。上座におわす獅子頭は恐いぐらいの迫力。狛犬くんとは兄弟でしょうか。夏秋のお祭りシーズン、くたびれ起こさないようご自愛ください。

    1. のんびり秋田さん
      コメントありがとうございます!
      象潟町横岡大森は本当にいろんな伝統行事、伝統芸能があって面白い地域ですね。
      秋田にはこんな場所は多いですが、冬は奇習「嫁つつき(小正月行事)」、夏は「地歌舞伎」とは伝統行事の玉手箱状態です。
      お気遣いいただいてありがとうございます。
      そうですね。無理をしない程度にこれからも楽しいお祭り、行事の様子を発信していきたいと思います!

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