掛魚まつり

2017年2月4日
数多くの行事に足を運んだ1月が終わったが、2月になると1月を超える数の行事・祭りが待っている。
その先頭を切るのは「伝統の奇祭」として知られる、にかほ市の掛魚(かけよ)まつり
管理人が考える秋田の三大奇祭の一つ(他2つは男鹿市・潟上市の東湖八坂神社トウニン行事と、美郷町の六郷カマクラ行事 竹打ち)であり、同じく管理人が考えるにかほ市の三大奇祭の一つ(他2つは諏訪神社の酒飲み占いと、上郷の小正月行事 嫁つつき)でもある。※「三大○○」と名前を付けりゃあいいってもんじゃない、という指摘はごもっともです。。。

1月はどちらかといえば小規模で観光化されていない行事・祭りが多いのに対し、2月は観光イベントと合体した祭り・行事が多いのが特色だ。
この掛魚まつりも別名「タラ祭り」のネーミングどおり、この時期に食べ頃を迎えるタラ汁が振舞われたり、一等賞としてタラ丸々一匹が当たる大抽選会が開かれたりするイベントが祭りと一体化している。
ということで本来の祭りの規模は小さいが、たくさんの観光客が集まる注目のイベントでもあるのだ。
ご存知ない方はにかほ市観光協会HPをご覧いただきたい。

さて当日
秋田の日本海南端に位置するにかほ市だが、日沿道開通のおかげで自宅から1時間もすれば会場のある旧金浦町に到着する。
ということで8時半頃に自宅を出たのだが、国道7号でノロノロ運転を強いられることになり、結局旧金浦町に入ったのが9時40分、駐車場のある勢至公園竹嶋潟に着いたのが9時50分、そこからシャトルバスで会場となる金浦山神社に着いたのはちょうど10時だった。
※勢至公園竹嶋潟駐車場は祭りのある2月4日に限り、今年から500円の駐車料金がかかるようになりました。
本当は行列の出発点である金浦漁港市場から行列に同行したかったのだが、ここは無理をせず奉納が行われる金浦山神社近くでタラ担ぎの行列が来るのを待つことにした。

タラが奉納される金浦山神社
すでに参道はたくさんの人で埋め尽くされている。
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神社の鳥居近くに立てられている、掛魚まつりの説明板
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10分ほど待っているとお囃子の音が聞こえてくる。
そしてタラを担いだ行列が見えてきた。

先頭を歩くのは地元の金浦(きんぽう)神楽の皆さん
神社の境内と勢至公園観音潟脇の特設ステージで神楽の披露があり、祭り好きとしてはこちらも見逃すわけにはいかない。

行列は思っていた以上に長い。
最後尾のあたりになるとお囃子の音色は聞こえなくなっている。
今年は全部で52匹のタラが奉納されたらしい。
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行列が境内に入ってくる。
金浦神楽は階段の手前で止まりお囃子を続けるが、行列はどんどん階段を登っていく。

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それにしてもタラがでかい!でっぷりとした胴回りが重量感を感じさせる。
この大きさは二人掛かりで担がないと辛いだろう。
だいたい10kgほどの重さがあり、重たいものになると12kgぐらいあるそうだ。
2歳の男の子の平均体重と同じぐらいだ。

大人たちの行列に続いて、子供たちの行列が入ってくる。
タラは小さいものでも6kgぐらいの重さがある。
子供が運ぶにはいささかしんどいのではないかと思うが、みんな頑張って担いでいる。
そして行列の殿(しんがり)を務めるのは、秋田県が生んだローカルヒーロー、超神ネイガーとアラゲ丸
ネイガーはこの会場からすぐ近くの旧金浦町大竹地区在住という設定らしい。

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すべての行列が神社の境内に入ると、奉納の様子を見ようと観客もこぞって階段をのぼって境内に入ってくる。
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金浦山神社の境内は決して広くなく、身動きが取れないぐらいの混雑ぶりだ。
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タラが奉納されている。
ご覧の通りの巨体を持つタラが多数ぶら下がっている様はなかなか壮観だ。
その絵を撮ろうとカメラマンがタラに集まる。
たしかに伝統の奇祭の名にふさわしい、ちょっと奇妙な光景ではある。
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この祭りでは航海の安全や豊漁、五穀豊穣が祈願される。
危険な海での仕事の安全を祈る気持ち、家族のことを思う気持ち、大漁を願う気持ちは昔も今も変わらないということなのだろう。
そして、およそ350年ほどの歴史を持つという。
ただ、この後に行われたイベントで挨拶をされた地元の方のスピーチ「『350年の歴史がある』とか言ってるけど、かなり前からそのセリフが常套句になっているので、本当は400年ぐらい経っているんじゃないかと思います」には不覚にも笑ってしまった。

冬になるとスーパーや物産展でタラまるごと一匹が販売されるのを見ることがあるが、その顔をまじまじと眺めることなどあまりない。
よく見ると目が真ん丸でちょっとかわいい。けっこう愛嬌溢れる表情だ。
タラはアンコウなどと同様に「捨てるところがない魚」として有名だ。
要するにほとんど全ての部位を食材にできる魚ということだが、実はタラ自身も大食漢であり、このでかい口で自分と同じぐらいの魚を飲み込もうと窒息死したタラが水揚げされることもあるという。
つぶらな瞳と相まって、その間抜けさが可愛いと思えたりもする。
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それにしても、あまりに多数のタラが境内に吊るされているがために魚臭い匂いが辺りに漂っている。
ペットの犬がタラの前で写真を撮られているが、ワンちゃんの鋭い嗅覚にこのタラ臭はちょっとキツくないか?
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タラ1匹ずつに企業や団体名を記した名札がつけられている。
祭りが終わるとその企業・団体にこの大きなタラが下げ渡されるという訳だ。
今年は52匹中34匹が下げ渡された。
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そして金浦神楽が演奏される。
神楽の回りに人だかりができて、ただでさえ狹い境内の人口密度がさらに上がる。
よく見えないなあ‥とボヤきつつ動画を撮影

お祭り・行事に行くときにはそれなりに下調べをするのが通常なのだが、金浦神楽についてはほぼノーマークだった。
ということで演奏を見るのは初めてだったが、なんかすごくいい。
笛のメロディも管理人好みだし、軽快なテンポや時折入る掛け声、そして何よりも太鼓を叩く際のアクション
演奏を聴かせるだけでなく、魅せる要素もきちんと入っている。
こんな素晴らしい芸能が見れるとは予想していなかったので、思わず得をした気分になってしまう。
神社の本堂内では巫女の舞、獅子舞が行われたらしいがそちらのほうは見なかった。

11時で本来的な意味での祭りは終了となり、勢至公園に場所を変えてイベントが始まる。
境内にいた人たちが一斉に移動する。
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勢至公園内に掲げられた大漁旗
漁業の町であるということが伝わる光景だ。
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そして公園内も先ほどの神社境内と同様、観客で溢れている。
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早速タラ汁のチケット1枚(500円)を購入
このチケットがあとで行われる大抽選会の抽選券となるので、最後まで大事に持っておかないといけない。
続いてタラ汁と引き換えとなる訳だが、その行列が長かった!
都心の人気ラーメン店でもこれほどには並ばないだろう、というぐらいの長さだった。
3~400mはあっただろうか。
警備にあたっていたお兄さん曰く「今年は2月4日が土曜日のうえに天気も良いので、例年に比べてだいぶ客足が伸びてます」だそうだ。
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40分ほど並んでようやくタラ汁と引き換えできた。
公園内の沼のほとりのベンチを確保し、早速食べる。
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味噌仕立ての汁にタラの身、肝、ネギ、豆腐のシンプルな一品
これだけで、十分旨い。
行列で冷えた体を温めてくれた。

それにしても勢至公園は雪が少ない。
今年の小雪の影響もあるのだが、にかほ市は秋田県の中で最も温暖な地域であり、秋田県内でいちばん早く花見ができる場所がここ勢至公園なのだ。
春がすぐそこまで来ているかのような錯覚を覚えてしまう。
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12時を過ぎると公園内特設ステージでイベントの開始
ステージの周囲にはたくさんの人が集まっている。
管理人も少しでもいい場所を押さえようと場所探しをする。
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祭り関係者の挨拶に続いて、先ほど神社の境内で演奏を披露した金浦神楽が再度登場
今回は先ほどのような人混みの中でなく、ゆったりと鑑賞できた。

この神楽は遠い昔、旧金浦町の若者が山形県から持ち込んだものだそうだ。
そのように言われてみると、秋田県内で類似する太鼓芸はないような気がする。
それとも、管理人が太鼓を使った芸能に疎いだけで他にも存在したりするのだろうか。

大太鼓と小太鼓を同時に叩き分けるというスタイルも初めて見た。
おそらくそれなりの練習量がないと、きちんと演奏し切るのは難しいと思う。

太鼓に半身で向かい合い、時折観客のいる前方を向きながら叩く。
また、バチをヒラヒラとさせたり、空いた方の手を高く上げたりといったアクションが入り、躍動感を感じさせる。

この太鼓は演奏を続けたまま奏者が入れ替わる「早替わり」が見どころの一つである。
演奏をしたまま奏者が入れ替わるのは珍しいシーンではないが、見せ場として成立しているのは珍しいと思う。
入れ替わるひと同士の阿吽の呼吸が絶対に必要であろう。

本日最後の演奏
「背面打ち」とでも呼べそうな太鼓に背を向けての演奏や、「早替わり」など金浦神楽の特徴が凝縮された演奏である。
十分に堪能させてもらったし、今日タラ汁目当てで会場を訪れた観客にも十分アピールできたと思う。

後日ネットで金浦神楽保存会HPを見つけた。
小さい子供から壮年に至るまで幅広い年代の方々が所属しており、にかほ市で開かれる祭りやイベントなどでの活発な活動の様子も伝わってくる。
機会があれば是非もう一度鑑賞したい。

その後はタラ担ぎ体験コーナー
奉納の時と同じようにタラをつるした棒を担ぎ、その重さを体感しようという企画
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続いてはお待ちかねの大抽選会
おそらく全観客のお目当てであるタラまるごとは全部で18匹用意されており、内1匹がオスである。
オスはメスに比べて珍重されるのだが、理由は秋田県民であればご存知であろう。
「ダダミ」と呼ばれるタラの精巣は秋田の冬の味覚の一つであり、秋田県民のダダミ好きは最早熱狂の域に近い。
ただ、タラまるごと1匹以外にも様々な景品が用意されており、観客を飽きさせることはない。
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抽選が進み、タラがどんどん当選者に配られる。
管理人はもともとクジ運が悪いので期待はしていないが、100%諦めているかといえばそういうことではない。
どこかで「もしかして当たるかも‥」と思っており、主催者側の意図するがままに射幸心を煽られている状態である。
見事タラを当てた方にお願いして写真を撮らせてもらった。
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そしてダダミ、いやオスのタラもどなたかに当たり、結局全てのタラ抽選は終了
もちろん管理人はタラを当てることはできなかった。
タラ以外の景品抽選に移るが、ここで奇跡が!
管理人の抽選番号が呼ばれた!!
景品を受け取りにステージまで進み、そこで渡されたのが‥
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掛け軸の下の棒の両端に吊るす、奉納タラを模した重し!
管理人は掛け軸を持っていないし、全景品の中で最も実用性に欠けるアイテムではあった(失礼!)が、それでも嬉しい。
やったあ!!という気分である。

そして抽選が全て終わり全てのイベントが終了、時計は1時を過ぎていた。
会場を埋め尽くしていた観客がぞろぞろと帰路に着く。
管理人もシャトルバスで勢至公園竹嶋潟に向かう。
昼頃から晴天になり、竹嶋潟はまるで春先の景色
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今日は伝統の奇祭も間近で観覧できたし、金浦神楽という良質な芸能との出会いもあったし、タラ汁も食べたし、タラの掛け軸の重しも当たったし、と言うことなしだった。
大きな満足感と共に秋田市へ帰っていったのだった。

この時期の秋田県南部~山形県北部にかけてのタラ熱には凄まじいものがある。
「タラ熱」などと言ってはジカ熱みたいで悪い言い方だが、まさしくタラはこの地域の冬の味覚の王者なのだ。
山形県鶴岡市、酒田市、遊佐町でも同様のタラ汁イベントが結構大々的に開かれており、毎年大入りの盛況ぶりである。
タラは冬に差し掛かる時期になると、津軽海峡のあたりから徐々に栄養を蓄えながら日本海側を南下し、もっとも食べ頃となるのが1~2月ということだ。
「旬のものをその土地でいただきたい」という願望に応えるイベントとして、そして伝統の奇祭としてこれからもたくさんの人たちを集め続けるであろう。
そして金浦神楽である。
にかほ市以外で披露されることはあまりないようだが、秋田県内であまねく認知されても良いほどの優れた芸能だと思う。
掛魚まつりの末永い盛況とともに、この神楽の発展的な将来にも大いに期待したい。


“掛魚まつり” への2件の返信

  1. 会社にも『鱈に似た方』いますね?、、、笑。もうすぐ春、鱈から➡︎タラの芽でしょうか。
    春よ早く来い!いつも楽しみにしています。

    1. 隣人1号さん
      コメントありがとうございます。
      にかほはすでに春の気配が漂っていますが、全秋田的にはまだまだ厳冬なんですよね~
      春の山菜も楽しみです。
      いつもお読みいただきありがとうございます!

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