屋敷番楽/八敷代番楽/坂之下番楽/貝沢からうすからみ

2017年9月3日
あれだけ暑かった8月も終わり、もう9月(というか記事を書いてるのは11月です。。。)
さすがに七夕行事、盆行事が集中した8月に比べるとその数は少ないものの、9月もホットな伝統行事が各地で目白押しである。
ということで、9月最初の行事は「からうすからみ全國大會」
からうすからみ(空臼からみ)はごく簡単に言えば番楽の演目のひとつである。
たびたびこのブログでも番楽を取り上げてきたが、数ある演目のなかでも一際ユニークかつ動きの激しいの空臼からみだ。

由利本荘市の発行した「民俗芸能と祭りガイドブック」によると、空臼からみは「餅つき臼を中心としてその周囲を4人の舞手がからみ棒を持って、臼の餅をつくかのように棒を突き、さらに臼の縁をからみながら、飛び跳ねたり、棒を打ち合ったりする舞」ということだ。
そしてこの度、由利本荘市貝沢集落の開基400年記念事業の一つとして、空臼からみや餅つきにまつわる演目を伝承する番楽団体が民俗芸能伝承館まいーれに集結し、開催されたのが「からうすからみ全國大會」ということである。
出演順は‥
①貝沢からうすからみ(鳥海小学校児童)
②赤田獅子舞「餅搗」
③釜ヶ台番楽「四人臼舞」
④屋敷番楽「空臼舞」
⑤八敷代番楽「もちつき」
⑥坂之下番楽「空臼からみ」
⑦貝沢からうすからみ
となっている。

当日9月3日を迎える。
10時開演なので、行程を考慮すると8時半には秋田市の自宅を出発しておきたい。
ところが寝坊したうえに、準備に手間取ってしまい、結局自宅を出たのは9時過ぎになってしまった。
国道7号~日沿道~国道108号と進み、まいーれに到着したのは10時40分
こちらが「民俗伝承館まいーれ」今年4月にオープンしたばかりの施設だ。
管理人的には6月に猿倉人形芝居を観覧して以来の訪問となる。

急いで館内に入ってみると、これがびっくりするぐらいの盛況ぶり!
立錐の余地なし、というか入口入ってすぐ左手の公演場に人が収まりきらず、場外に溢れているほどだ。
番楽の継承が困難になってきているといったニュースを聞くことは多いが、この盛況ぶりには驚かされた。
ということで、急いで公演場外から屋敷番楽「空臼舞」を鑑賞(動画に観覧中の女性の頭が映りこんでしまいました)

空臼舞は4人の男性により舞われる。
番楽の舞は演目によって、激しい動きだったり、ゆっくりとした動きだったりと様々な特徴があるが、空臼舞(空臼からみ)はコミカルさとダイナミックさを併せ持つ楽しい舞で、個人的には数ある演目の中でも最も親しみやすい。
屋敷番楽は由利本荘市(旧由利町)西沢屋敷集落に伝わる本海流番楽のひとつだ。
「神舞」「獅子舞」「翁」など、現在は20演目ほどが舞われているが、12演目ほどに減少した時期もあったらしい。
集落全体で後継者育成に取り組んだ末現在の演目数ほどに復活したということだ。

プログラム4番手の屋敷番楽が披露されているということは、鳥海小学校児童による貝沢からうすからみ、赤田獅子舞「餅搗」、釜ヶ台番楽「四人臼舞」は登場を終えてしまったということだろう。
寝坊などしている場合ではなかった。
いつの日かじっくりと観覧したい。

続いては山形県真室川市の八敷代(はっしきだい)番楽
鳥海山を中心とした本海流番楽は山形県側にも広がっており、現在は山形県下6ヶ所に伝承されていると云われる。
その中の一つが八敷代番楽だ。
八敷代番楽は秋田県旧矢島町から伝わったとされている。

山形県側の団体の演目を鑑賞するのは初めてだ。
鳥海山を中心とする本海流番楽の系譜に連なる由緒正しい獅子舞番楽であり、とても興味深く鑑賞させてもらった。

最初に小学生ぐらいの女の子が一人で登場して、その後2人の女の子が加わって舞を披露する。
この演目(もちつき)は子供が演じることになっているそうだ。

屋敷番楽のあとに休憩が入ったので、その際の人の出入りに紛れてどうにか公演場の中に入れた。
が、いかんせん観客の数が多く、どうにか会場後方の隅にスペースを確保してムービーをセットしたまではよかったが、写真撮影のためその場を離れたところ、ムービーの目前に男性が立ちはだかっていて、ずっと映りこんでいた。
しかもわずかのあいだ撮れた動画も、ステージ右方しか映っていない(正面向かって右側に陣取ったのに、番楽幕がフレームに収まるようにセットしていたので)。
そんなことでどうにか撮った動画が↓


女の子たちの手の中指に紙が結ばれている。
これは「力紙」といい、舞を通じて神に仕える証となるのだそうだ。
九の字に似ていることから「九字紙」とも言うらしく、鳥海獅子舞番楽、本海流獅子舞ではこの力紙を結んで舞われる演目があるらしい。

「もちまき」には臼を使った舞はないが、もちつきに必要な返し手を探すところから餅つきをするところまでが楽しく描写されている。
動画には映っていないが、餅まきも行われて観客は大いに沸いたのだった。

ダッシュするかのように、素早く交互に両足をあげて棒を足の裏側に通す所作のところで、観客からたくさんの拍手が一斉に湧き起こる。
小学生ほどの子が懸命に舞う姿を目の当たりにすると、何だか胸がいっぱいになってしまう。


山形県には現在6つの番楽が伝承されている(遊佐町杉沢・金山町稲沢・同町柳原・真室川町平枝・同町釜淵、そして八敷代)。
秋田にいると山形県の番楽の状況はなかなか情報として入ってこないが、やはり鳥海山周辺の地域で受け継がれている点において秋田と違いはなく、ある種の仲間意識を持って観覧させてもらった。
これからも県をまたいだ交流が続くといいな、と思わずにはいられない。

続いての登場は旧矢島町の坂之下番楽
こちらの空臼からみは今年3月に秋田市フォンテで一度鑑賞済みだ。
そのときは矢島高校の男性2人、女性2人による舞だったが、今回は矢島高校の学生さんに矢島中学校の学生さんも加えての舞らしい。


矢島高校では「地域学」というコースを設けており、授業の一環として坂之下番楽(空臼からみ)の習得をカリキュラムとしている。
学校ぐるみでこの貴重な伝統芸能を受け継いでいこう、という理念が感じられる。

前回の記事でも書いたが、10分以上にわたってこの動きを続けるのはかなりの体力がいるはずだ。
そういった意味でも、高校生ぐらいの体力を備えていないと舞うことができないと思われる。
因みに坂之下番楽自体は、本海獅子舞番楽の祖、本海行人がかなり高齢になったのちに伝承されたので腰を曲げて舞う動作が多い、と云われている。


空臼からみは「式舞」「武士舞」などの種目に分類しきれず、「その他」とまとめられることが多い。
ただ、舞の始まる前にご挨拶をされた関係者の方の弁によると、「鳥刺舞」と呼ばれる舞の特徴があるらしい。
「鳥刺舞」は「こっけい舞」と称する種目に分類されるそうで、たしかにそのお囃子や動きにコミカルな要素を感じ取ることができる。
また、空臼からみは必ず臼の周囲を左回りで舞われるらしく、それは左先の所作が守られている番楽の多くの演目と共通する所作なのだそうだ。


何度も繰り返すが、この動きを続けるのはきつい!
所作をマスターできても、踊り続ける持久力なくしては成立しない舞だ。
そういった意味では「地域学の授業の一環」というよりも運動部の部活動に近いものがある。


10分以上に渡る舞が終了
会場からはその熱演に惜しみない拍手が送られる。
前回のフォンテ公演に続いて、またも楽しませてもらいました!

そしてトリを飾るのは、本日の主役となる旧鳥海町の「貝沢からうすからみ」
これまでの舞が番楽の中の演目として演じられたのに対して、貝沢からうすからみは単独の演目となっている。
そのせいかと思うが、舞台の後方に番楽幕は張られていない。
これまで登場した舞手たちが、お囃子に導かれるように番楽幕をたくり上げて登場したのに対し(番楽幕はたくり上げるもので、決して幕の左右から出入りするものではないと言われています)、貝沢からうすからみは舞台上でスタンバイしての始まりとなる。

からうすからみの見せ場とでも言うべき、ジャンプしながら対面する2人が杵を合わせる所作が披露される。
全体的にコミカルな雰囲気の漂う舞だが、この場面は武術の要素を感じさせる。
また、杵を合わせるときに出る音にもおそらく悪魔祓いなどの意味があるように思うのだが、そのへんはどうなのだろうか。


貝沢集落にはからうすからみとは別に「貝沢獅子神楽」という伝統芸能が継承されている。
こちらは伊勢大神楽の系統となる大神楽であり、四人立一頭獅子(頭持1名・胴持3名)が特徴となっている。


そしてからうすからみが終演となる。
短い時間ながら、男性4人が舞台狭しと動き回る舞は躍動感に溢れていた。
これで1時間余に渡る鑑賞が終わった。

4つの演目を見逃してしまったが、それでもからうすからみを始めとした、もちつき舞の楽しさを満喫できた。
何より「からうすからみ全國大會」というコンセプトがユニークで、秀逸だと思う(わざわざ「全國大會」という旧字を当てたのにも意味があるそうです)。
まいーれの定期公演で番楽を鑑賞できる機会は確実に増えたし、これからもユニークで興味を惹かれる催しをたくさん開催して欲しいと思う。


“屋敷番楽/八敷代番楽/坂之下番楽/貝沢からうすからみ” への4件の返信

  1. ご無沙汰しております。
    盆踊りで秋田へ伺ったときに番楽を巡っている方とお会いして、はまったらやばそうだな~と思っていましたが当にですね!
    襷掛けや銭太鼓の様な所作や、秋田飴売り唄等も織り混ざっていて楽しそうでした。
    この後の記事もじっくりと読ませていただきます。

    1. ふじけんさん
      ご無沙汰しております!
      そうでしたかあ、番楽の深淵さに触れてしまったのですねー。
      番楽は秋田の伝統芸能の中でも存在感抜群なのですが、一般的にはほとんど知られていません。
      そんな番楽に、ふじけんさんのような東京在住の方が興味を持ってくださるのは、本当に喜ばしい限りです!
      因みに1月27日(土)に、由利本荘市鳥海町の「本海獅子舞番楽」と、北秋田市根子の「根子番楽」が国立劇場で初公演を行います。
      この際、番楽にどっぷり浸かってみるのもまた一興かなと(笑)

  2. 大変ご無沙汰しておりました。
    お盆過ぎから仕事の部署が変わり、なかなか時間が取れずにいました。
    akitafesさんの記事はじっくり拝見したいので、この年末年始がチャンスですね。
    さて、鳥海「まいーれ」までお越しいただき、ありがとうございました。
    遅刻は残念でしたね。
    私達講中にも出演依頼があったのですが、現在「もちつき舞」を演じるには、新たに舞手と歌い手を育てる必要があり、残念ながらお断りしました。
    そうですね。番楽舞の中では、どの分野に属するのか?本当に風変わりな演目と思います。
    舞の中で臼の中に餅を入れると「もちつき舞」になるらしいです。
    貝沢の「からうすからみ」は、私達の舞ととても似ています。
    本海行人が各集落に教えていった順序から推定すると、私達の方が先だと思っています。
    講中の中でも貴重な演目として扱われており、来年小正月過ぎから、復活へ向けて練習を開始する予定です。
    いつの日か、またみなさんにご披露出来るよう、がんばって行きたいと思います。

    1. TAIKO BEATさん
      ご無沙汰しております!
      こちらこそなかなか記事を更新できずにすいません。
      そうでしたか。前ノ沢講中さんに出演依頼があったのですね。
      からうすからみを観覧して思ったのは「この舞の楽しげな雰囲気、躍動感、素晴らしさをどれだけの秋田県民が知っているのだろうか?」ということです。
      番楽の数ある演目のなかでも、最も親しみ易く、キャッチーな魅力に溢れている舞であり、老若男女誰もが楽しめる要素を持ち合わせているのが、からうすからみではないでしょうか。
      そういった意味でも、番楽の入門編としてもっとたくさんの人に知ってほしい、見てほしいと願わずにいられません。
      前ノ沢講中の「もちつき舞」の復活、楽しみにしております!
      様々なご苦労もおありかと思いますが、あの楽しく愉快でリズミカルな舞をたくさんの人たちにご披露できる日がくれば、本当に素晴らしいことだと思います。
      間もなく練習が始まるとのことですが、1月の寒さを吹き飛ばすぐらいの熱さで頑張ってください!!

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