綴子の大太鼓

2017年7月15日
その魅力に一旦触れた以上は全貌を知りたくなる、というのは当然のことかと思う。
今回紹介する「綴子の大太鼓」は、管理人にとってそんな行事だ。
5月に秋田市内で開催された「食と芸能の大祭典2017」で大太鼓の勇姿を初めて目の当たりにして、その大きさはもちろん、太鼓奏者の渾身のバチさばき、お囃子の素朴なメロディなど、見どころがいっぱい詰まった行事であることを知った。
しかも「食と芸能~」では一張のみの運行だったものの、祭り本番では数張にのぼる大太鼓の行列と様々な伝統芸能まで見れるらしい。
これは、本番である7月15日の八幡宮綴子神社例大祭を見逃すわけには参るまい。

事前に大太鼓行事について調べてみる。
この行事についてはWikipediaにかなり分かり易く概要が記されているので、そちらを参照願いたい。
気になるのはやはりその巨大さである。
県北方面で「太鼓」といえば大太鼓と呼ばれる、直径1.2mにものぼるタイプのものを指すが、綴子の大太鼓はいちばん大きいもので直径3.8mもある。
大きさが規格外なのだ。
wikiにも書かれているとおり、元々は直径70cmほどだったものが、何ゆえ3.8mにも拡大したのか。
そういった点にも注目しながら、行事を鑑賞したいと思う。

祭り当日
11時に始まる本祭に合わせて、8時半に自宅を出発する。
秋田市金足から広域農道に乗り、五城目町~上小阿仁村~北秋田市と順調に車を進める(以前は上小阿仁村~北秋田市に抜けた直後のくねくね道が苦手でしたが、最近慣れてきました)。
運転は全く順調なのだが、この日はとにかく暑かった!
例年のこの時期の秋田は梅雨の真っ最中であり、それほど暑くないのだが、今年は何だか様相が異なる。
もう8月の最夏を迎えたかのような天候だ。

途中休憩を入れながら11時前に綴子地区に到着
車を降りると熱気がぶわ~っと押し寄せてくる。いやー暑いわ、マジで
結局この日、最高気温は33℃ほどだったらしい。
綴子集落の様子。各家々の玄関先に提灯が飾られていた。

この行事は上町(うえまち)と下町(したまち)が1年交替で行事を執り行う。
偶数年は上町、奇数年は下町、ということで今年は下町が当番となるため、下町の宿となっている「綴子基幹集落センター」を目指す。
年に1度の行事なのだから、上町・下町関係なく一緒に執り行ってはいかが?などと考えもしたが、そればかりは地元に長く根付く伝統であろうから致し方ない。
綴子基幹集落センターに到着(北秋田市内で「○○基幹集落センター」との名称の建物を他にも見かけた。おそらく北秋田市では公民館と同等の施設をこのように称しているのだろう。)

センターの敷地内へ入ると、これから出陣(出陣と呼ぶのだそうです)予定の皆さんがちょうど記念撮影中
管理人も慌ててカメラを取り出して撮影

左から直径2.47m(三番太鼓)、直径3.71m(一番太鼓)、直径3.44m(二番太鼓)となる。
また、写真には映っていないが行列にはもう一張の大太鼓(直径1.2mほどか?勝手に四番太鼓と命名)も帯同することになる。


中央にドカーンと陣取る3.71mの一番太鼓は、牛の一枚皮で作った世界最大の太鼓としてギネスブックに載っている大太鼓だ。
その大きさに圧倒されるが、それと同じぐらいビックリするのが、下町と対をなすように上町も一番太鼓、二番太鼓、三番太鼓を所有していることだ。
上町の一番太鼓は直径3.8mもあり、大きさでは下町を凌いでいるが、ギネスブックに登録されているのは下町のものとなる。
たしか、上町の一番太鼓は一枚皮ではないのでギネスに申請していない、とかいうような理由だったと思う(間違っていたらすいません)。
因みに非番となる上町では踊りが披露されるものの、大太鼓の出番はないそうだ。


そして行列の人たちの多さにもビックリさせられる。
関係者の方々含めると、100人ほどにもなるだろうか。

トラクターが3台並んでいる。
そう、このトラクターで大太鼓を牽引するのだ。
大太鼓のサイズ別にトラクターの大きさも決まっているようで面白い。

そしてトラクターを大太鼓にジョイントさせて、いざ出陣!


基幹集落センターを出発して、通りに出る。
ここから綴子神社まで約750mの行列のスタートとなる。

最後に控える一番太鼓が通りに出ると、いよいよ出陣行列の始まり
世話役を行列の先頭として、それに団旗、豊年旗、露払と続き、野次払(ヤツパレ)が登場
野次払については先にリンクを貼ったwikipediaにその役割が記されているが、そのたくましい体つきと華美な衣装で一際目立っている。

野次払の後ろには陣旗、紋旗と続いて、さらに後方は侍、長刀、鷹匠‥と続く。
秋田県立図書館で借りた、綴子出身のカメラマン宮野 明義さんの「写真集 大太鼓の里」を見ると、大纏、馬印、挾箱などもいたようだが、この行列にはそれらの姿はない。
行列の規模も縮小傾向にあるのだろうか。

子供たちもこの暑い中頑張っています。

そして獅子に続いて、大太鼓が行進
真っ青な空に太鼓の轟音が鳴り響く。
気持ちのいい眺めだが、とにかく暑い!奏者の皆さん、水分補給だけは忘れないようにね。


「写真集 大太鼓の里」には、本来は獅子踊りや奴踊りを奉納するための伴奏に過ぎなかった太鼓が、どんどん巨大化して今や行事の中心となっているとの記述がある。
元々大太鼓は脇役だったのだ。
それが何故、これほどまでに巨大に進化を遂げたのか?
どうやら上町と下町の苛烈な競争意識が原因のようだ。
かつては互いの町同士の奉納先陣争いが過剰にヒートアップして、相手の運行を妨害する、相手の太鼓をぶち破るなどの狼藉におよぶこともあったという。
それはよくないということになり、1年交替で奉納することに決まったのだが、直接的に争うことがなくなった代わりに大太鼓のサイズを競い合うようになったらしい。
先に「祭りは年に1回しかないのだから、一緒にやっていいのでは?」とか書いたが、そんなことをしてはかつての激しい攻防が再燃する可能性もあるわけだ。

行列中に見られる踊りも見ものだ。
ここでは棒を使った奴踊が見られる。
子供たちも精一杯の踊りを披露する。


ギャラリーは全部で100人ほどだろうか。
管理人は何故かは知らないが、もっとたくさんの人出があると思っていた。
おそらく鷹ノ巣駅前で行われる「ふるさと踊りと餅っこまつり」での大太鼓運行のイメージと混同してしまっており、たくさんのギャラリーがいるものだと思い込んでいたっぽい。
さらには大太鼓のスケール感、行列の鮮やかな衣装などのド派手なイメージが、数多くの観客がいるものだと暗に思い込ませる要因だったかもしれない。

通りを右に鋭角に曲がる。
おお‥。地図で見るとちょっときつめの曲がり角ぐらいの感じだったが、曲がった先は結構な上り坂ではないか。


ダンプカーが山道を進むかの如く、細い道をグイグイと上っていく。
素晴らしきトラクターの牽引力!
因みにトラクター登場以前(昭和40年代前半)には、太鼓を牽引していたのは農耕馬だった。
当時は一番・二番太鼓のサイズは存在しておらず、文字通りその馬力を活かして農耕馬が三番太鼓を引っ張っていたらしい。
馬は聴覚が敏感だと言われる。
すぐ背後で「ドーンッ!!」と太鼓の轟音がするのを「うるさいなあ‥」などと思いながら、頑張っていたのだろうか。

この太鼓行事はもともと雨乞いの神事として始まった。
太鼓演奏の轟音を雷鳴に見立てて雨を降らせる、との意味が込められているらしい。
そのいわれどおり、例年はよく雨に見舞われるそうだが、今年は雨の気配は皆無だ。

そして坂を上りきったあたりに八幡宮綴子神社が現れる。
神社のHPには「東北最古の八幡宮神社」と記されている。

神社の境内は広くない。
そこに行列についてきた人たちのみならず、あらかじめ神社で待っていた人たちも加わり、結構な人数が集まっている。
人口密度が高まって暑さが増すかと思いきや、適度に木陰で休めるのでそれなりに快適になれたりもする。
ただし日差しが直接当たるとジリジリと暑い。
そんな中で湯立て神事に使う釜の火が燃え盛っている。

境内では作占いが始まった。
先日、大館市田代山神社の作占いに参加したが、ここ綴子神社の宮司さんが田代山神社例祭の折には山に登って宮司を務めている。

続いては湯立て神事

今年の占いの結果は「平年並みで心配なし。水の管理に注意を払うこと」と出た。
先日の田代山神社の作占いでも、結果は「平年並み」だった。

その後、露払の口上に続いて、芸能の奉納が始まる。
まずは野次払が登場し、棒使を披露
基本的な振り付けは行列のときと変わらないようだが、この力強い踊りを続けざまに演じるのはなかなかたいへんそうだ。

続いては旗物、竿物が入る。
行列では大纏、小纏、馬印が見られなかったが、奉納にはしっかり登場
横向きに並びながら行列前方に進んでは180度ターンして、同様に行列前方に進むのを繰り返す歩き方は珍しいと思う。
横に脚を出して前進するときとターンするときに「シッサー」、道具を掲げる際に「シュー」と声を出すのが作法らしい。

お囃子方も精一杯の演奏
境内に持ち込まれるのは四番太鼓で、奉納のあいだ一番・二番・三番太鼓は外で待機

棒使の再登場に続いては挾箱かつぎが2人ずつ入ってくる。
この動きは独特だ。
管理人がやったら最初の一歩で足がつるだろう。

続いては「写真集 大太鼓の里」で「唯一の道化役」と紹介されている、押えの槍
長い槍を素っ頓狂な雄叫びとともに観客に向けて疾走する姿はたしかに道化役に相応しい。
押えの槍の先に先端恐怖症の人が立っていたらたまんないだろう。

押えの槍に続いては獅子踊が入る。
子供獅子が3匹、大人の獅子が3匹登場し、それぞれに踊りを披露する。


黒い頭が牡獅子、緑色が牝獅子、赤が子獅子
この場面では大太鼓は叩かれずに、獅子が腹に抱えている小太鼓と笛のみの伴奏となる。
子供らしい軽快さが小気味よいが、さぞかし暑いだろう。
頑張れ頑張れ!

続いては大人の獅子
ダイナミックな動きで所狭しと舞を疲労
「写真集 大太鼓の里」には、「しし」は鹿のことを指しているだろうから、この舞も「獅子踊」ではなく「鹿踊」と表記するのが正しいと思う旨の記述があった。
たしかにこの衣装、面は岩手県花巻市周辺に伝わる鹿踊と類似しており、著者の宮野さんの仰るとおりだと思う(この記事では従来の表記「獅子踊」を採用しております)。


この写真は、3匹の獅子が野山で遊んでいるうちに子獅子が木と木の間に隠れてしまい、牡獅子と牝獅子が必死になって探すというストーリー仕立ての一場面である。

続いては大人数による奴踊。これは扇舞
中心に中奴と呼ばれる仕切り役を置き、その周りを奴が固めるのが基本的な形のようだ。
「写真集 大太鼓の里」には、演目の選択や構成に関しても中奴が決定する旨の記述がある。
いわば舞の仕切りもするし、演出もする立場ということになるだろう。


扇奴のほかにも「旭山」、「廻り奴」、「サギリ奴」などいくつかの演目があるようだ。
今日も子供たちがいくつかの舞を披露した。
中には小さな子もいて結構自由な舞を踊っていたが、この奉納に参加したのが原体験となって、この子たちのアイデンティティとなっていくのだなあと思う。

舞が終わると一人ずつ神社に礼をして退場
おつかれさま。涼しい所でサイダーでも飲んで休んでねー

続いて大人による奴踊
基本的な演目の構成は子供たちによる踊りと変わっていなかったように思う。

お囃子のテンポが上がり、舞をさらに盛り上げる。
下町のご婦人に「上町の踊りは優しいイメージなんだけど、下町の踊りは荒っぽいんですよ。演目も違うしね」と教えていただいた。
たしかに無骨で、男臭い匂いのする勇壮な舞のようだ。

そして、棒ぶっつけ
この棒術の型はもちろん武術をその原型としている。
それにしても、野次払の方々の二の腕の筋肉が本当に見事だ。
男性の逞しい二の腕が好きで好きでたまらない、という女性はこの祭りに是非一度行ってみたほうがいい。


およそ1時間以上に渡り、たくさんの芸能を堪能した。
行事の名称が「綴子の大太鼓」なので大太鼓メインの行事だと思いがちだが、紛れもなく行事の中心は奴踊、獅子踊などの芸能であることを実感したのだった。

そして再び行列が始まる。

「降り太鼓」と呼ばれるお囃子に乗って、上った来た道を戻っていく。
この後は集落の中での芸能披露があるようだが、このあたりで綴子集落をあとにした。

出陣行列の開始から終わりまで約2時間半、大太鼓行事を堪能した。
奏者、演者の皆さん、猛暑のなか本当におつかれさまでした!
今年は下町の大太鼓を観覧したわけだが、来年は上町が当番町となり、下町とはテイストが異なるらしいので今から気になるところだ。
かつての上町・下町の強烈な対抗意識が独自の行事形態を作り上げ、類を見ない巨大さの大太鼓を生み出した。
今では9月のたかのす大太鼓まつりで共演することもある2町内ではあるが、綴子神社例大祭においてはかつてのライバル関係の名残りが感じられて、そういった点を含めてこの集落の伝統に触れられた気がする。
そして見落としていけないのは、上町・下町ともにこれほどまでに巨大な大太鼓を作る技術・財力を持ち合わせていた、という点だ。
「写真集 大太鼓の里」には、「『何もできなかったら水汲みでもよいからやれ』という言葉が集落に残っている」と書かれている。
要するに、太鼓を叩けない、踊りを踊れない、それならば水汲みでもいいから行事に貢献しろ、というわけだ。
先人たちが全力を注いで行事を大きくしていったその努力の結晶を、現代の私たちが享受できる幸せを噛み締めながら、いつかもう一度この行事を鑑賞したいと思う。


2 Replies to “綴子の大太鼓”

  1. 16年前、ワールドゲームズ秋田2001というイベントの開会式に参加した時、初めてこの大太鼓と、昼竿灯を拝見しました。
    細長いバチで叩くので、大きさの割に重低音は期待できないのですが、迫力は充分でした。
    バットのようなバチもあるのですが、それで叩いたらどんな音が出るのだろう?と凄い興味が湧いたのを思い出しました。
    竿灯も始まりますね。
    まだ夜の竿灯は見た事がありませんが、秋田に生まれ育ったのも何かの縁。
    一度は拝見しなければと。
    また、このHPに出会ってから、様々な「祭り」に強い興味が湧いて来ています。

    1. TAIKO BEATさん
      書き込みありがとうございます!
      一度、綴子の大太鼓をご覧になられたのですね。
      バットのようなバチで叩くとどんな音が出るのか?とは、太鼓の専門家であるTAIKO BEATさんらしいです。
      鷹巣のほうでたびたびお披露目があるようなので、もう一度ご覧になってみてはいかがでしょう。
      明日からの竿燈始まります。
      そのうち夜の竿燈もご覧になってみてください。想像以上の迫力ですよ!
      お祭り・行事ラッシュの8月になりました。
      これからもたくさんのお祭りを紹介していきたいと思います。

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