小坂七夕祭

2018年8月4日
前日の秋田竿燈まつりに続いて、本日は鹿角郡小坂町の七夕行事を鑑賞した。
小坂七夕祭 - 秋田の中では最も色濃く青森ねぶたの影響を感じさせる山車が登場する、ある意味異色の行事だ。
それでももちろん本家青森のコピーではなく、小坂町独特の気風があちらこちらに垣間見られる、興味深い行事でもあった。

祭りは8月第一土日曜日に開催、土曜日に各町内単位での運行が、日曜日には全10町内が町のメインストリートである明治百年通りに集結して合同運行が行われる。
どうやらハイライトは日曜日の合同運行のようだが、その日は別の行事に行く予定を立てていたので土曜日のほうを鑑賞することにした。
当日8月4日。夕方に現地に着くように自宅を出発、国道285号~秋田道へのって小坂北ICで下りる。
6月の濁川の虫送りの際にお世話になった濁川集落の皆さんへ挨拶がてら、運行の様子を見させてもらおうと思い(濁川の属する川上地区も山車を運行します)、宿となる川上公民館へお邪魔したところ、町中心部のほうに運行に出発したという。
本当は時折降る雨のため16時に運行終了予定だったが、晴れ間が現れるようになり、もう一丁行ってみようかと出発したそうなので管理人もあとを追ってみる(結局、川上地区の山車には出会えませんでしたが、秋田県のがんばる農山漁村集落応援サイト~産地直送ブログで様子が取り上げられています)。

町中心部に到着
あちこちからお囃子の音が聞こえてきて、各町内が運行しているのは分かるのだが、どこへ行けば山車が見れるのかちょっとよく分からない。
また、山車をちらっと見かけて後を追いかけてはみるものの、車を止める場所を見つけられず運行を見送るだけ、みたいなことが続いてしまう。
ちょっと困ったなあ‥などと思っていると、スーパー マックスバリュ小坂店のあたりからお囃子が聞こえてきた。
マックスバリュへ行ってみると、山車がどーんと姿を現した。


雨よけのビニールで全面を覆っているのが気にかかるものの、スケール感十分の山車だ。
つくりは青森ねぶた風でもなく、結構違っている。
どうやらねぶた風のものもあれば、そうでないものもあるといった具合のようだ。
そして、こちらの山車は「小坂ふくし会」のものであり、厳密に言えばマックスバリュに併設されている老人ホームを運営する団体の山車であり、山車は老人ホームの敷地内に置かれているということになる。

手作りの七夕グッズ。老人ホームの入居者の皆さんの手作りだ。


「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」によると、この行事の由来について「明治末・大正初めに、鉱山隆盛の機運に乗り、鉱夫たちが青森ねぶたを偲び、近くの花輪七夕をまねたりして、犠牲者の供養、豊年祈願の気持ちもこめて小坂七夕をはじめたものであろう」と記されている。
小坂町を長く支えた主要産業である鉱山で働いていた人たちがこの祭りの起源に大きく関わっていて、鉱山が閉山になった現在は小坂町の人々じゅうから愛される祭りとなったわけだ。

小坂ふくし会のお囃子が始まった。
山車の運行こそ行われないものの力強い太鼓に、どこか懐かしさを感じさせるメロディを奏でるお囃子が乗ると一気にお祭りムードが高まる。
この曲は「ばか」と呼ばれるものだそうで、他には「がんまく」「だんだりっこ」という演目もある。

山車をよく見てみると、とてもユニークな構造であることが分かった。


笛とハーモニカ、大太鼓、小太鼓、鉦で構成されるお囃子方のうち、打楽器隊が山車に乗るタイプだ。
それ自体は特別ではないが、小坂ふくし会の山車はその配置が結構特殊だ。
いわば2階建て構造とでも呼ぶべき作りで、1階に小太鼓と鉦が陣取ってそのうえに置かれた山車灯籠の後方部分に大太鼓が座っている。
青森ねぶたにおいては、お囃子方は山車とは別にうしろについて運行するスタイルだが、その点がまず大きく異なるし、山車がまるでミニ家屋のごときつくりになっていて、小太鼓と大太鼓が別々の場所に座っているのが面白い。
他の町内もそれぞれに独特の作りになっていた。

そしてさらに特徴的なのはお囃子方の構成


「ボーン!ボーン!」といった低い音を奏でる大太鼓と、「トントン」と歯切れのよい音を奏でる小太鼓の組み合わせ
よく見ると大太鼓のバチはクラシックコンサートのドラム奏者が使うマレットのような、先端に柔らかめの素材を巻きつけたタイプのもので、そのせいで音がよく響くようになっている。
小太鼓のバチは通常のスティックのものであり、その組み合わせで以て一つの打楽器としての役割を担っているようだ。
また鉦については、「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」によると「鉱山鉄道のレールを裁断したもの」だそうで、今目の前にしている鉦もそうなのかはよく分からないものの、形がお寺の釣鐘みたいで実にユニーク、そして音もでかい。

笛とハーモニカ


まず、伝統行事のお囃子にハーモニカが加わるということ自体珍しい。
そして笛とハーモニカが混ざった旋律が独特の浮遊感を生んで、ちょっとした新しさを感じさせる。
2種類の太鼓と笛&ハーモニカ、そして鉦が重なる分厚いアンサンブルが小坂七夕の特徴と言っていいだろう。

今度は山車がグルグルと回転し始めた。


本場青森ねぶたも時折回転を見せることがあるが、そちらは曳き手ごとぐるぐる回るのに対し、小坂七夕では台車はそのままに上の山車部分だけが回転する。
そのせいなのだろうが、結構なスピードで回転する。

入居者のお年寄りたちも楽しそう。

小坂ふくし会の山車を見ているとスーパー脇の国道282号線から山車が入ってくるのが見えた。こちらは若葉町だ。


お揃いの真っ赤な袖なし法被で入場
どうやら先ほどまで町内を運行していて、今日のシメにここマックスバリュで演奏することにしているらしい。
また、山車のために開放されるのはマックスバリュ駐車場の半分ほどで、残り半分は21時の営業終了まで買い物客用として使われるそうだ。

原色の目立つカラフルな山車


先ほどの小坂ふくし会の山車は作りは奇抜ながら灯籠のデザインは伝統的のものだったのに対し、若葉町の山車は思い切りポップ
小坂町のキャラクター「かぶきん」、町の名所である康楽館、鉱山事務所内に設置されている電話ボックス(で、あってますよね?)などが同居するおもちゃ箱のような山車だ。
雨よけのビニールが少々邪魔だったが、明日の合同運行を前に濡れてしまってはしょうがない、とそこは割り切ろう。
今にも降りだしそうな空がずっと続くが、結局この日は降ることはなかった。

若葉町の山車がマックスバリュ駐車場へ入ってきた。


「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」を読むと、この祭りの起源はよく分からないとしながらも、明治~大正にかけて「重兵衛」という集落が花輪ねぷたを真似た箱山車(王将)を出したのが最初、としている。
その後、青森方面からの坑夫たちによって弘前ねぷたの扇形山車の要素が加わり、さらには青森ねぶたの要素が追加されて豪華な山車が出現したという推測がなされている。
ちょっと単純すぎる気がしないでもないが、様々な山車文化が混合して小坂七夕の特徴を作り上げたことは容易にうかがい知れる。
そして現代は若葉町のようなポップな山車が登場するまでに進化した訳だ。

なんだか小坂ふくし会のほうが賑やかだ。


舵棒を持った若者たちが「イヤサカサッサー!」の掛け声とともに、ラインダンスよろしく両足を上げてステップを踏む。
ラインダンスの華麗さを元気に全振りしたかのようなパワーと勢いあふれるステップで、青森ねぶたで言えば曳き手が跳人(はねと)を兼任するようなものだ。
ムチャクチャ、エネルギッシュです!
「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」には掛け声の例として「ヤレヤレヤー、まんさくだー、ことしもほうねんまんさくだー」「イヤサカサッサ、ホーイホイ!」などが挙げられている。
はっきりとは言えないが、この掛け声自体すでにいろんな地域の掛け声がミックスされているようだ。
また、「今年も豊年満作だー!」は濁川の虫送りでも聞いた掛け声でもあるし、七夕行事(ねぶり流し)のものではないような気もする。
いろんな地域、いろんな行事の要素を少しずつ集結したのが小坂七夕ということなのだろうか。

愛好会 雅が入ってきました。

絵巻物風の箱型山車

絵は町内の皆さんが描いている。
「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」には「各町内会では5月中に相談によって、その年の山車のテーマ、製作開始時期、費用見込、製作各係を決定する。製作場のビニールシートの小屋を建てたり、空いた小屋などに電気を引いたりして用意し、早い町内は40日前、遅くとも1ヶ月前には山車作りがはじまる」と大まかな製作スケジュールが書かれている。
基本的には専門の製作者や絵師がいる訳ではなく、全てが手作りであり、その分山車に対する思い入れも大きいのではないだろうか。


いちばん初めの小坂ふくし会を見たあとはマックスバリュ駐車場を出てどこかの町内へ行こうかと思っていたが、続々と町内、団体が入ってくる。
地元の方に聞いたところ、全10町内のうち5町内がここに集まり、前夜の景気づけとばかりにひとしきり盛り上がるそうだ。
どうやら駐車場を出ずとも、ここで十分に楽しめそうだ。

一際元気の良い町内が入ってきた。


川通りの山車は本格的な青森ねぶた風
特にねぶた師がいる訳でもなく、やはり町内の皆さんの手作り
青森ねぶたのような超精密さはないが、武者人形の迫力と勢いは決して負けてはいない。

小中学生、あるいはもっと小さな子たちが中心となって運行を盛り上げている。


山車の運行の際に電線を除けるための棒を持って「イヤサカサッサー、川通り!」と掛け声をあげてステップを踏む。
子供たちを引率していた方から教えていただいたのだが、このお祭りになると子供たちがとにかく盛り上がってしまい、棒を持っての掛け声&ステップがいつからか定番になったそうだ。
それも、早く棒を持たせて!と言わんばかりに棒の取り合いになることもあったらしい。
小中学生の子たちにも、このお祭りのDNAは確実に受け継がれているようだ。

川通りにはもう一つ、目玉おやじの小さな山車が随行
メインの山車が青森風なのに対し、こちらは子供が喜びそうなアニメのキャラクター

女の子が一人で目玉おやじの舵棒を持ち、踊り始めた。メチャメチャ元気がいい⤴⤴⤴


「一人だと恥ずかしいし‥(//∇//)」なんてことは決して言わない。渾身のヘドバン!!!

川通りの山車が回転


ブウンと回る速さは結構なもので、下手をすると遠心力で小物などは飛ばされそうだ。
山車に乗っているお囃子方にとってはちょっとしたアトラクションだろう。
そこかしこからお囃子の音色、掛け声が聞こえて、ある町内は舵棒を持ってのステップを披露する。
時間の経過とともに観客も増えて、狭いながらもマックスバリュ駐車場は活気溢れるお祭り会場と化す。
「秋田県の祭り・行事 -秋田県祭り・行事調査報告書-」には山車製作に携わっている若者の「七夕バカが何人もいて、仕事よりも七夕に打ち込む。私もその一人だ。絵を描く係は今年の仕事をしているうちに、来年のテーマまで考えている」という談話が掲載されている。
ローカル色が強く、秋田の祭りの中では決してメジャーではない小坂七夕だが、祭りにかける情熱はこの若者の言葉に集約されているし、この盛り上がりを目の当たりにすると、それだけの情熱を注ぐ価値のある素晴らしいお祭りであることに気づかされる。

管理人の知らぬ間に永楽町の山車が入場していた。こちらが本日最終の町内となる。


こちらも青森風のねぶた。武者人形の表情が素晴らしい。

強面の武者人形の迫力と対照をなすように、サザエさん一家が描かれていた。


5町内の競演が続く。
今年は全10町内が参加して合同運行が行われたが、数年前は8台にまで減少したこともあったらしい。
今日のマックスバリュ駐車場の盛り上がりを見ていると、この先祭りが衰退するとは考えづらいのだが、祭りに関するサイトを見ると町内の減少、規模の縮小といった問題に現実的に直面しているそうだ。
鉱山事務所、康楽館といった県内屈指の観光施設が面する明治百年通りにて行われる合同運行にしても、あくまで地元の人たちのお祭りであり、他地域から観光客が大挙して押し寄せるといった状況ではないようだ。

マックスバリュ駐車場の喧騒はやまない。

5町内そろってのお囃子が続き、観客たちも笑顔で山車を取り囲んでいる。
青森ねぶた、弘前ねぷたの要素もあれば花輪ねぷたの要素もあり、「イヤサカサッサ」の掛け声は秋田民謡にルーツがありそうだし‥ととにかく色んな地域の祭りが小坂七夕に集められているという点については先に書いたとおりだが、ただ集めただけでは例えばお囃子にハーモニカが入ったり、鉦が鉱山のレールを加工した特殊な形のものにはなったりはしないだろう。
そこにはやはり小坂の人たちの先進性、進取の精神みたいなものが大いに影響していると思うし、さらに言えば鉱夫たちがただ故郷を懐かしむのではなく、小坂町の新たな祭りを作り上げたいという創造性がこの祭りのベースにあるようにも思った。

時間は20時
各町内とも大いに盛り上がったところで、解散となる。
それぞれの町内がマックスバリュ駐車場をあとにして自町内へと戻っていく。

山車と一般駐車のスペースを隔てていた台車があっという間に片付けられ、あれほど盛り上がったマックスバリュ駐車場がいつもの静けさを取り戻した。

管理人もお祭りの余韻を味わいながら会場をあとにした。

合同運行の盛り上がりを十分に予感させる、元気でエネルギーに溢れた前夜祭だった。
青森ねぶたなどの影響下にありつつも小坂町のオリジナリティを随所に滲ませる山車、お囃子であり、小坂町の皆さんが鉱山の隆盛期より大事に受け継いできた行事であることがよく分かった。
同時に観光資源としての可能性も大いに秘めており、これからの行方が注目されるお祭りの一つであろう。
来年以降、是非合同運行のほうも鑑賞し、このお祭りの真価に触れてみたいと思う。


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