刈和野の大綱引き2019

2019年2月10日
県内各地でたくさんの小正月行事が行われる時期になった。
当然真冬の寒さが身にこたえる時期ではあるものの、そんなことなど気にも留めず「今年はどの行事に行こうかなあ、、」とスケジュールを立てるのがこれまた楽しかったりする訳だが、管理人的に絶対に外せないのが今回の「刈和野の大綱引き」
かれこれ10年近く通い続けている行事であり、今年も上町(二日町)と下町(五日町)の白熱した勝負を見ようと大仙市刈和野行きを早くから決めていた。

秋田県内ではすでにメジャーな行事であり、詳細な説明は不要とも思えるが、大仙市制作のパンフレット(←行事の概要がよく分かります)から抜粋すると「刈和野の大綱引きは室町時代からの伝習であるといわれている。平将門の一族である長山氏が刈和野に土着し、長山氏の氏神が市場を守護する神『市神』であり、その祭事として綱引きが始められたのが由来といわれる。上町、下町、その勝者がその年の市場開設権を獲得といわれているが、現在では上町が勝てば米の値が上がり、下町が勝てば豊作と、その年を占う『お告げ』が下される」ということだ。
「真冬の夜に行われる綱引き」という事なのだが、その熱量たるや冬の寒さを彼方へ吹き飛ばすほどの勢いで、古くからの伝統行事でありながら上町・下町両町の意地とプライドが激突する、まさに見応え十分、参加して損なしの素晴らしい行事なのだ。

当日
日が暮れたのちに自宅を出発し、現地刈和野には19時頃到着
ここ数年と同様に今年も雪が少なくちょっと心配していたのだが、2月に入ってからまとまって降ってくれたおかげでまずは一安心(秋田の小正月行事といえば雪景色がつきものなので)この日もいいかんじで降ってます。気分は⤴⤴

JR刈和野駅から続く会場「大町通り」へと向かう。


綱引きの開始は21時。今はまだ人はまばらだが、これから三々五々集まってくるのだろう。
後日読んだ秋田魁新報の記事によると、この日は8,000人近くの観客が集まったそうだ。
綱引きは毎年2月10日の1日のみだが、綱の製作は上町・下町で別々に約1ヶ月前から始められている。
藁を柔らかくして強いものにする「シナゴキ」から始まり、3つの藁の束を交互に撚り合わせる「グミ組み」、グミを束ねて大綱を作る「綱撚い」を経て、綱の最後尾に尻綱をつける作業を以て大綱の完成となる。
また、製作過程云々の前に藁を一定数調達する必要がある訳で、あらかじめ決められた農家に予約をして前年秋の収穫時に確保することになる。
そう考えると行事は2月10日の1日のみであるものの、半年近くもの日数とたくさんの人が関わる(ハンパない量の藁を扱うワケですから)一大プロジェクトのような行事なのだ。

会場となる大町通りへ到着。雪が一段と強くなってきた。

早速やっております、「若衆の押し合い」


花火(たしか厄除け祈願花火だったと思う)を背景に地元の若衆が熱く盛り上がる。
綱引き開始前の景気づけ、前哨戦の意味合いの強い押し合いだが、本来は両町の綱の出し合いにおける駆け引きの行われる場だった。
旧西仙北町教育委員会発行の「刈和野の大綱引き」によると「雄綱(※管理人注 上町の綱)と雌綱(※管理人注 下町の綱)を結び合わせるために、ドップ(※管理人注 両町の境界のあたり)の所に両方の綱を出さなければならないが、どちらが先に綱を出すか、またどれだけ出すか、『お前の方で出せ』『いや出さない』『ならば押し合い、さあ来い』となって押し合いとなる。押し合いの勝負は、自陣側に押し込まれた方が負けで、負けた方は勝った方の言い分を聞かなければならない。以前は、この押し合いを何回も繰り返して、徐々に両方の綱がドップの所に出てくるということで、非常に長い時間がかかった」そうだ。
また、現在は21時に引き合い開始と決まっているが、中世の頃には最終の飛脚が通過したあとに行事が行われた(現在の大町通りは旧羽州街道にあたる)ので引き合いが始まるのは真夜中だったそうだ。

雪が強くなってきた。


去年はまさかの雨で、興ざめとまでは行かないものの、行事の興奮が2~3割ほどは減退したような記憶がある。
それに比べ、今年のドカ雪具合はどうだ?これぞ秋田県南の小正月行事と言える風景にすでに大満足。
本当は小正月に行う行事なのだから、雪の降らない満月の夜に行われるのが正しい姿というか理想的らしいが(※行事は以前旧暦1月15日に行われていた。旧暦においては一つの月は「新月」から始まるとされていて、月半ばに「満月」になるので)、管理人的には真冬らしくモッサモッサと雪が降り注ぐ中で行うのが一番相応しいと思う。

押し合いが続いている。


雪が更に強さを増してきた。
若衆の叫ぶ「ジョヤサ!」は秋田のお祭りでは非常にポピュラーな掛け声だ。
県内では各種梵天祭りや裸参り、大きい祭りでは土崎神明社祭の曳山行事などで聞くことができる一方、県外ではほとんど聞かない掛け声でもある。
「除夜又」とか「常屋作」とかが転化したとも言われているものの、語源についてはよく分かっていないそうだ。
ここ刈和野でも頻繁に「ジョヤサ!」が聞こえてくるが、引き合いの際に呼吸を合わせるための「ジョヤーサノウ!」や、綱合わせのときに微調整を施すための「ジョヤサー‥(-_-;)」(←大きな声を出せないので)とかいろいろなバリエーションがあって面白い。

押し合いに続いては綱合わせが行われる。


あらかじめ上町・下町それぞれの側に用意されていた雄綱と雌綱を結合する作業だ。
文字にするとどうということはないが、雄綱64m、雌綱50m各々10トンもする綱を移動させて結びつけるわけなので、簡単に行くものではない。
この時間は綱が合わさっていく過程をじっと見届けることになるが、お祭り好きであればそのスケールの大きさや古から受け継がれた伝統の技法に感動すること間違いないので、是非じっくりと鑑賞して欲しいところだ。
また、実際には引き手は大綱を直接持つわけではなく、大綱に結び付けられた小綱を持つことになる。
両町各々40本ずつの小綱がつけられるが、40本以上つけてしまうとさらに多くの引き手が参加可能となることで、大綱が切れるリスクがあるため制限がかけられている。
したがって参加人数も7~8,000人を超えることはない、とされている。
参加については完全に自由で、性別や年齢による制限は全くなく、ボーッとつっ立っていると若衆から「はい!よろしぐ!」と上町なら黄色、下町なら赤色のハチマキを渡され、参加を促されることになる。
両町とも1人でも多くの引き手を確保しようと必死なのだ。
先に自由参加と書いたが、管理人的には参加資格として必要なのは唯一「全力を出し切る覚悟のある人」だと思っている。

「建元」と呼ばれる両町から選出された行事の責任者が綱合わせの指揮を取る。
ときには大声を上げて指示を出したり、ときには自身で綱の合わせ具合の微調整を行ったりとなかなか忙しい。


綱合わせも終盤に近づく。
すなわち綱が合わさって、間もなく引き合いが始まることを意味している。
もう、このあたりになると静寂を越えて緊張感が場内を支配するようになる。
おそらくは刈和野の町外、秋田県外からも多数の観客が混じっていると思うが、大半の人たちはその雰囲気を察してか余計なおしゃべりをしないし、徐々に真剣味が増しているようにさえ思える。
綱合わせの場面では大声を出すことは厳禁とされている。
大声を引き合いの開始の合図と勘違いして引き始めなどしたら、結びついてもいない綱を全力で引っ張ることになり、倒れて怪我をする可能性があるからだ。
これまで大きな事故はなかったとのことだが、一昨年は実際に下町側で酔っ払った観客が大声を出してしまい、フライング騒ぎが起こったりもした。
なお、ペチャクチャとおしゃべりなどしているだけでも声が大きいと、建元から「何だ、あいつら(`´)」とばかりキッと睨まれることがあるので、初心者の方は十分にご注意頂きたい。

雄綱の先端ケンがグイーッと持ち上がる。雌綱の先端サバグチを通過した雄綱がいよいよ結び合わされようとしている。

綱合わせが無事に済んだようだ。
あとは綱の上に立っている建元が一人ずつ下に降りていき、最後の建元のみとなるのを待つだけだ。

そして最後の建元が「ソラーーーッ!」と大声を発して綱から飛び降りる。(←ここは「ジョヤサアーーッ!」ではないんです)引き合い開始の合図だ!


ついに戦いの火蓋が切って落とされた。
大綱の上でサントウ(提灯)が振られるリズムに合わせて、大勢の人々が「ジョヤーサノウ!」の掛け声とともに全力で綱を引く。
あちこちから「まだまだー!」「もっと力出せえ!」と怒号が飛ぶ。
ここ数年来、ずっと綱引き開始の場面に立ち会っているが、いつ見ても心が奮い立たせられる素晴らしいシーンだ。
「刈和野の大綱引き」に「サントウの指揮に合わせて『ジョヤサノー』の掛声をかけながら、大衆は渾身の力をふりしぼって引き合う。この遠雷のような引き声は、ある種のリズムを奏で、この土地に生まれた者にとっては、堪えがたい興奮を呼び起こす」と記されているとおりで、刈和野出身の方でなくても十分に心揺さぶられる熱さがある。

上町が優勢の模様。境界近くで見ていると下町が少しずつ引っ張っていかれているのがわかる。

上町の攻勢を凌ぐために、下町側は引くのをやめて道路いっぱいに広がって腰を下ろす戦法をとる。
力を蓄えるとともに相手を疲れさせる効果があるが、この間はずるずると引っ張られてしまうわけなので形勢は不利になってしまう。
建元や観客から誰ともなく「こでえれー!(耐えろ)」とゲキが飛ぶ。
管理人は最初の数年は引き手として参加していたが、あまりの体力消耗が堪えてしまい、今は専ら観覧に専念している。
で、引き手として加わった時の経験で言えば、こでえれーのときに余計なエネルギーを消耗せず、きちんと腰を落として上手に引きずられる(変な説明ですが。。)ことが重要な技術のひとつとなる。
この後の引き合い再開に向けてきちんと体力を温存できるか、ということだ。

こでえーれーを駆使し、体力を蓄えたはずだが、上町の攻勢はやまない。ずるずると下町が引っ張られていく。

「これは勝負あった、なのか?」ということで足早に優勢を保ち続ける上町側へと移動。ドップはこんなかんじ(※「ドップ」については先に両町の境界と書きましたが、大綱の中間点を表す際にも用いるようです)

上町側。建元も勝利の気配を感じ取っているのか、心なしか躍動感が下町とは桁違いのように見受けられる。まさにイケイケドンドン!

開始から15分ほど経過しただろうか。
攻勢の続く上町が「ジョヤーサノウ!」と上げていた掛け声を、「ジョヤサ!」と短く連呼するものに変えた。
これは「ジョヤサをかける」と呼ばれていて、「刈和野の大綱引き」では「どちらかが勝っていて、もう勝負をここらへんできめようと、一気に綱をズルズルと引いていくこと」と説明されているとおり、いわば将棋の「王手!」のような掛け声なのだ。上町が一気に勝ちきろう、と目論んでいるのは明白だ。

ここまでくれば上町の勝利間違いなし!と言ってもよさそうだが、短いジョヤサの連呼がやがて途切れてしまう。
「勝ったのか?いや、まだ続くのか?」みたいなかんじになり、一瞬ではあるが弛緩した空気に包まれたのち、まだ決着がついていないことが分かると引き合いを再開するのだが、さっきまでの牽引力は見られない。
逆にあれほど攻めていた上町が今度は引っ張られる恰好になっている!形勢逆転か!?

おそらく下町側では形勢有利に転じたことで、建元が「来たどおーーーっ!!」と戦況を知らせるとともに、皆を勇気づけているに違いない。
その声を聞いた引き手は、「よーーし!」とばかりパワー倍増することになるし、これまでの劣勢に耐えて攻勢に転じようとする姿には胸を熱くする何かがある。
管理人が引き手として参加した2012年は、下町が最初から圧倒したもののまさかの大逆転で上町が勝利を手にした。
管理人は下町についていたのだが、「勝ちは間違いなし!」の確信が「あれ?おかしいな」へ変わり、そのままずるずると引っ張られて負けを甘受せねばならない悔しさは相当のものだ。
以前「ダイドードリンコ日本の祭り」でその年の様子を放送していたのでご覧になった方もいると思うが、今年はまさしく2012年の裏返し!劣勢一方だった下町が崖っぷちからの大逆転を見せようとしている!ということで下町側へ移動しました。

下町。さっきまでの敗色を一気に吹き払い、猛烈な勢いで引いています!


引き合い開始から30分は経過しただろうか。
両町ともにかなり疲れているのは明らかだが、勝ちを信じて一心不乱に引き続ける。
ここ数年はどちらが勝つにせよワンサイドの展開になることが多く、20分も経たずに勝負が決したこともあったぐらいなので、今日は両町が存分に力を発揮し合っているとも言えるだろう。
なお、これまでの最長記録は50分以上だったっそうだ。
また、勝負については、一方の最後尾が町境を超えたとき、または建元からギブアップ宣言を受けたときに決着がつく決まりになっている。

そしてついに、下町がジョヤサをかけた!


40分もの激闘の末、下町が大逆転勝利!!下町陣営一同大喜び!おめでとうございます(^^♪
あちこちから「バンザーイ!」とか「ジョヤサアアッ!!」といった勝利の雄叫びが聞こえてくる。
地元下町の住民ばかりでなく、秋田県内外からたくさんの人が集まったはずだが、たとえ下町に縁のない人でも、窮地から意地の踏ん張りを見せて見事に飾った大逆転勝利は嬉しいに違いない。
周りにいる人たちと誰彼となく勝利を喜ぶ姿が最高です。

引き合いが終わると人々は帰路へと着く。


8,000人が両側から引いた結び目は固く締まっているが、今度はこの結び目をほどく必要がある。
建元をはじめとした関係者一同で、大槌やテコを使用して(刃物を使ってはいけないとされている)どうにか綱をほどいたのち、近くの浮島神社へと奉納される。
なお、管理人は19時から始まる若衆の押し合いから鑑賞開始したが、当日日中には厄年を迎える男性が浮島神社に祀られる市神を奉戴し、両町の境に飾られた大綱の前に移動したのち神事が執り行われている。
もっと大綱引きのことを知りたい、接してみたいという方はこれらの場面に立ち会ってみても面白いと思う。

徐々に人も減ってきた。管理人も帰路に着いた。


ここ数年なかったぐらいの接戦に大満足、大興奮の一日となった。
一昨年までは下町が3連勝、昨年ようやく連敗を食い止めた上町が今年も去年の勢いそのままに勝ちを手にすると思っていたら、まさかのどんでん返し。
これぐらい白熱してくれたら何もいうことはない(引き手、関係者の皆さんはさぞお疲れになったでしょう)。
管理人は基本的にどちらに肩入れするわけでもなく「赤勝て白勝て」のスタンスなのだが、長年行事を見てきていると上町にも愛着があるし、下町にもこれまた愛着が湧いているところがある。
来年、下町は当然2連勝を狙ってくるだろうし、上町は今年のリベンジに燃えて勝負を挑んでくるに違いない。
これからも両町が熱い戦いを見せてくれることに期待したい。


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