キリスト祭り

2019年6月2日
今回は久々の県外遠征。
お目当ては鹿角市に隣接する、青森県三戸郡新郷村で毎年6月第一日曜日に開催される「キリスト祭り」
そのネーミングから奇祭として全国的に知られていて、たしかに噂通りのヘンテコなお祭りだったのだが、管理人の真のお目当ては祭りのなかで披露される、ある踊りだった。

「新郷村のナニャドヤラ」
ナニャドヤラ - 青森県南部から岩手県北部へと至る、旧南部藩領で受け継がれている「日本最古の盆踊り」
特に岩手県北部にはナニャドヤラを踊る地域が集中していて、○○町のナニャドヤラといった呼ばれ方をしている。
そして今日は新郷村に伝えられるナニャドヤラがキリスト祭りのなかで見れるという訳だ。
なお、秋田県内にもその系譜に連なる踊りがあるとされているが(鹿角市は旧南部藩領だったし)、ナニャドヤラの名を冠する踊りには出会ったことはない。
キリスト祭りについては、その名前だけは以前から知っていたものの、怪しさ満載の胡散臭い催し物ぐらいの認識しか持ち合わせていなかった。
それが一変、興味を持つようになったのは小野和哉さんの「今日も盆踊り」を読んでからだ。
ナニャドヤラという不可思議なネーミングの踊りに惹かれてから、この踊りの素晴らしさに開眼するまでが愉しく書かれており、管理人もどれどれとyoutubeで新郷村のナニャドヤラを視聴したところ、小野さん同様その素敵な踊りとお囃子が刺さってしまったのだ。
それ以来、キリスト祭りを見に行くことを密かに期していたのだが、ようやく念願が叶うことになった訳だ。

当日
午前7時すぎに自宅を出て、五城目町~上小阿仁村~北秋田市~大館市~鹿角市と経由して、新郷村へ向かう。
約200km、時間にして3時間半のドライブはそれなりにたいへんだったが、天気もよくさして気にならない。
何より、長年憧れていたナニャドヤラを見れると思えば苦にするはずなどない!ということで鹿角市を抜けると思いのほかあっさりと現地新郷村へ到着。近くの駐車場に車を止めて、会場となるキリストの里公園を目指す。


時刻は10時半すぎ。キリスト祭りは10:00に始まり、11:00には終わってしまうが、ナニャドヤラは最終盤の登場ということを知っていたので焦る必要はない。

会場へ到着

それほど広くはないスペースではあるが、たくさんの観客が駆けつけていた。↑の写真は最後方部だが、その前方はまさに立錐の余地なしというほどに混み合っている。こんなに人気の祭りだったのか!?さすがは青森が全国に誇る奇祭!

人がびっしりで移動もままならない中どうにか神事が行われている近くに進む。

来賓席には地元の名士たちが集まっていて、今は玉串奉納が行われている。
キリスト祭りについて紹介しておきたい。
まず、この地とキリストを結びつけるのは「竹内文書」で知られる竹内巨麿(皇祖皇太神宮天津教の開祖)らが1935年8月に戸来村(当時 ※管理人注 新郷村の旧名称)を訪れ、笹に埋もれていた塚をキリストの墓と主張した(←wikipediaより)ことが嚆矢となっている。
竹内が主張するところによると「キリストは21歳から12年間、日本に渡って修行した後ユダヤに帰ったが、受け入れられず、磔にされてしまった。ところが、処刑されたのはキリストではなく、弟のイスキリが身代わりになったのだといい、キリスト本人はまた日本にきて、戸来に住んだ。十来太郎大天空と称し、106歳で天寿を全うした」(←「都道府県別 祭礼行事・青森県」より)というもので、あまりに荒唐無稽で信ずるに足るとは言い難いのだが、地元新郷村ではこの説を観光コンテンツ化、その一環としてキリスト祭りが行われるようになった。
そして今や全国にその名を轟かせる奇祭へと成長(?)した訳だ。

玉串奉納が終わり、ナニャドヤラが踊られるキリストの墓へと向かうべく階段を上ったところ、神前で獅子舞が始まった。登場するのは地元新郷村の田中獅子舞保存会。見下ろす形で撮影


キリストの墓標に向かって奉納舞を披露
田中獅子舞は秋田で言うところの獅子舞番楽と同じ伝統芸能で、ここで披露されているのは「権現舞」
獅子頭を持ちながらの二人舞が特徴であり、一般的には獅子舞と呼ばれるが、旧南部藩領内では権現舞と呼ばれている。
秋田県内でも鹿角市で行われている松館天満宮三台山獅子大権現舞などは同じカテゴリに当てはまるだろう。

奇祭には不釣り合いな神妙な空気感


同じ三戸郡内に、青森県無形民俗文化財に指定されている田子神楽がある。
田子神楽においても舞の中心は権現舞であり(熊野大権現の縁日 旧暦12月28日に田子町鎮守の八坂神社で権現舞だけを演じていて、これは「舞出し」と呼ばれるそうだ)、他にも「七ツ道具」「祈祷舞」「荒神舞」などの他に、番楽でもお馴染み「武士舞」「女舞」「道化舞」といった様々な演目がある。隣県とはいえ共通する部分もあれば、異なる部分もあり面白い。

そしていよいよキリスト祭り最後の出し物、ナニャドヤラ披露が近づいてきた。
最初にキリストの墓標周りで1回、続いてキリスト伝承館前広場で1回の計2回踊られるが、1回目は奉納踊りで2回目は余興の踊りとなっている。
舞台となるキリスト墓標近くに入場しようと、踊り手とお囃子方がスタンバイ。太鼓方の法被の背中に描かれたナニャドヤラのイラストを見ただけで感激のあまりウルウルしてしまった。


墓標の周囲を廻りながら踊るわけなので360度観覧場所がありそうなものだが、墓標に通じる狭い通路だけが立ち入りできるスペースとなっていて観客がすし詰め状態となる。
皆スマホを掲げてこれから始まる踊りの撮影に備える様はまるでファンカム状態!いやが上にも期待が高まる。
なお墓標は2つあり、1つはキリストの墓十来塚、もう1つはキリストの弟イスキリの墓十代塚と呼ばれているらしい(「都道府県別 祭礼行事 青森県」によると、墓であることに違いはないが、おそらくは中世の豪族のものだと一般的には認識されているそうだ)。

そして待ちわびたナニャドヤラが始まった。


流麗な手さばき、力強く鳴り響く太鼓、郷愁を感じさせる歌と旋律。キリスト祭りの珍奇さに隠れてしまってはいるが、この踊りは本当に素晴らしい。
新郷村がナニャドヤラの発祥の地、とする説もあるようで、旧南部藩領に広く分布するナニャドヤラのなかでもその美しさは際立っている。
盆供養以外にも農閑期などに夜を徹して踊られることもあったようだが、その旋律と踊りは土の匂いをあまり感じさせない極めて洗練されたものであり、神秘的ですらある。
その優雅さは秋田県内で言えば毛馬内盆踊りに近いような気がする。

観客を魅了する踊り


ナニャドヤラ ナニャドナサレノ ナニャドヤラ
まるで意味不明な歌詞。実際にこの歌詞の意味は未だ謎に包まれているが、それでも謎解きに挑んだ先人も数多くいたようで、今回旅の土産にということでキリスト伝承館で購入したCD「新郷村ナニャドヤラ完全版」のライナーノーツを見ると、実に14もの説が挙げられていた。
有力とされる説をライナーノーツから原文のまま抜粋すると‥
1,長慶天皇梵語説(南北朝時代、長慶天皇が足利氏に追われ、三戸郡名久井岳の近くに隠れ住んだ際に、味方に無事を知らせる内容を里人に唄わせた)
2,恋歌説(日本民俗学の第一人者、柳田国男氏は、この歌を「恋歌」であるとして次のように訳している。ナニャドヤラ【なんなりとおやりなさい]ナニガナサレノ【なんなりとなさりませんか】ナニャドヤラ【なんなりとおやりなさい】)
3,古代ヘブライ語説(米国シアトルに住んでいた神学博士 川守田英二氏が日本に帰った折、これを伝え聞き次のように翻訳している。【お前の聖名をほめ讃えん お前に毛人を掃蕩して お前の聖名をほめ讃えん】)
といったところだろうか。
他にも飢饉のときに歌われていたという「飢饉凶作時歌説」や、化け猫が踊る姿を真似たという「山猫説」やらいろいろあって、どれも当たっているような気もするし、逆にどれも違うような気もするし、といったかんじで諸説が入り乱れている状態なのだ。
それほどまでにナニャドヤラの語源を辿るのは困難であり、故に諸説が出回っている理由でもあるのだろう。

飲むヨーグルトで乾杯して、キリスト祭りは無事に閉幕。なお「今日も盆踊り」にはりんごジュースで乾杯したと書かれていたので、飲み物はそのときどきで変わるということだと思う。

続いてキリストの里伝承館前に移動して、本日2度目のナニャドヤラ。踊りに先立って、踊り手、お囃子方が記念撮影。みんな良い笑顔です。

踊りが始まった。


余興の踊りなので、奉納踊りに比べて皆リラックスした様子で楽しげだ。周囲で見ていた観客たちも続々と飛び入りして踊りの輪が人でいっぱいになる。
奉納時には正調である「ナニャドヤラ ナニャドナサレノ ナニャドヤラ」の歌詞が繰り返されたが、ここでは様々な替え歌が唄われた。
今年初めて 田の草取れや 後サ小草コそよと立つ
〽高い山から 田の中見れば 田んぼ稲の花 花盛り
〽盆と正月 一時に来れば アズキおこわ飯豆もやし
日々の生活の喜び、豊作への願い、淡い恋心などをテーマとした、情緒たっぷりの歌詞がナニャドヤラと同じ節で唄われる。
CD「新郷村ナニャドヤラ完全版」には地元の老婦の歌うナニャドヤラが収録されていて、そちらのほうは唄と歌詞の世界観が完全にマッチしている印象だが、今目の前で踊られているナニャドヤラでは女性3人によるプロ顔負けの優れた歌唱を聞くことができた。
素朴で古い民謡であるナニャドヤラが全く別の歌に生まれ変わり、懐かしさを残しつつも現代的な香り漂う踊り歌へと昇華されたかのようだ。

皆、楽しそうに踊ってます。


唄と同様に太鼓の演奏も素晴らしい。
youtubeに上がっているいくつかの動画を見ると「アフリカの部族のリズムに近い」といったコメントも散見されたほどで、華やかな歌声と相まって、新郷村のナニャドヤラ独特の浮遊感を生み出すことに成功している。
西馬音内のように太鼓と地口以外に笛や三味線、鉦、鼓が奏でられる賑やかなお囃子も素敵なのだが、太鼓と唄だけによる伴奏がこの踊りには合っていると思う。

薄紫色の着物がこれまた素敵です。


新郷村のナニャドヤラを見れる機会はあまり多くない。
地元の人の話では、お隣田子町のお祭りで踊ることはあるそうだが、基本的にはしょっちゅう踊っているものでもないとのこと。
ナニャドヤラということで言えば、毎年8月18日に岩手県洋野町で開催される「北奥羽ナニャドヤラ大会」にいつか行ってみたいと思っている(youtubeでこれまでの様子をチェックしたところ、新郷村のナニャドヤラも参加していたようだ)のだが、秋田からかなり距離のある地域での開催のうえ、8月18日といえば西馬音内盆踊り最終日、一日市盆踊りの初日でもあり、どうしても秋田県内の行事に気を取られがちになってしまう。
それでも、総勢1000人ほどのナニャドヤラ踊りパレードの壮観な様子は、一度だけでもいいので本当に見てみたいと思う。

踊りが続く。


各地のナニャドヤラ踊りは少しずつ所作が違っているが、いずれの踊りも流麗な手さばきと全身をくねらせるような大きな動きが共通した特徴と言えるだろう(青森県南から岩手県央へと南下するに従って踊りがダイナミックになっているように思うんですが、どうなんでしょうか)。
新郷村のナニャドヤラはそこまで大きな動きを見せることはなく、比較的小振りな所作でまとまっている。
また、手を3度ほど叩く所作が入るところが他地域のナニャドヤラ踊りとは異なっていて、手を叩くタイミングと太鼓のフチを叩くタイミングとがシンクロしているところがこれまたかっこよかったりする。

踊りの輪に笑顔があふれている。


10分近く続いた踊りが終わった。
これまでyoutubeで幾度となく鑑賞していた踊りを生で見れて感激もひとしおだ。
キリスト祭りの怪しさや、ナニャドヤラの起源の謎といった要素を除いても、この踊りには心惹かれる何かがある。
あえて説明するのであれば、新郷の地に受け継がれてきた伝統をベースとしつつ、ここではないどこかへ誘う妖しさ、魔力を併せ持つ、盆踊りの真髄を伝えてくれる素晴らしさなのだと思う。

これにて全プログラム終了、あとは会場を去るのみとなったが、キリスト祭りについて新郷村観光協会会長さんにいろいろ伺っていたところ、「キリスト伝承館を案内しようか?」とのありがたいお言葉が!
せっかくなんでということで同じくキリスト祭りを見にわざわざ富山県から来られた男性ともに、会長さんのガイドで館内へと入った。


館内にはこの地のキリスト伝承にまつわる品々や南部地方の民芸品などが展示されているが、その中にかつてのキリスト祭りの様子を収めた写真が飾られていた。
それを見ると踊り手の何人かは頭から手拭いをかけていて、地元の方いわく「昔は5月3日に踊ってたからよ。そりゃ寒くてさ、手拭いを被っていたのよ」とのこと。
手拭いを被り踊るといえば、管理人的には一昨年鑑賞した小坂町川上地区連合盆踊りがまず思い浮かぶ。
毛馬内盆踊りでも手拭いを頬被りとして使っているが、毛馬内が顎の下できちんと結ぶのに対し、川上地区連合盆踊りでは結ばずにだらんと手拭いを垂らすスタイルであり、新郷村も同じ恰好だった。
また、頬被りの目的については、毛馬内では「隣国から侵入する不届きものが婦女を略奪するのに備えて変装した」のが起源とされていて、管理人も頬被り=顔を隠すということと認識していたのだが、単純に防寒の意味合いもあった訳だ。これはちとビックリ。

観光協会会長さんにお礼を述べて、館内をあとにする。
祭りのあとの十字架。キリスト祭りはキリストの御霊を慰める慰霊祭と(一応)されている。今日も年に一度の獅子舞と踊りの奉納をキリスト様は楽しまれたことだろう。

また、宮城県気仙沼市からわざわざ来られた男性とも話をしたのだが、実はこの男性、秋田の祭りや行事が大好きで西馬音内や鹿角市の花輪町踊りに踊り手として参加したり、五城目町の朝市に出店したりとかなりの秋田フリークだったのにはびっくりさせられた。
そういう流れで、このブログも度々お読みいただいたそうで、まさしく管理人冥利に尽きるとはこのこと!
もっと良い記事を書けるといいのですが、なかなかそうもいかなくてすいませんm(_ _)m

キリストの里公園を出ると、キリスト祭りとセットでその名を全国に轟かせている名店「キリストっぷ」が元気に営業していた。

土日のみの限定営業ながらそのネーミングと品揃えのユニークさは特筆もので、たくさんのお客さんが買い物をしていた。
管理人も本日2枚目のCD「ナニャドヤラ テクノver.」を迷わず購入。因みにテクノver.以外にもボサノヴァver.やボーカロイドver.などもあり、こちらのほうもそのうち買いたいと思う。

新郷村ナニャドヤラ完全版(右)、ナニャドヤラ テクノver.(左)

ローカルな踊りであるナニャドヤラをここまでポップに形を変えて一般化させた、その姿勢がスゴイ。
秋田と青森は隣県とは言え、県民性が大きく異なっているとよく言われるが、秋田県人にはこの売り方、アピールの仕方は真似できない。このユニークな発想、商魂逞しい姿は見習ったほうが良いと思う。
そして新郷村をあとにする。
帰りの車内ではもちろんナニャドヤラ完全版をでかめのボリュームで流しながら、気分よくドライブ。
初夏の青空とナニャドヤラの旋律、合っているようないないような。。。

キリスト祭り、そして長く憧れていた新郷村のナニャドヤラを見ることができた。
キリスト祭りに関して言えば、神事が執り行われ、獅子舞が奉納されるその先にいるのは西洋人であるキリスト、という倒錯したかんじが何ともシュールではあるものの、地元の年配の方々と話をしていると「やっぱりキリスト様を大事にしなきゃいけねえんだよ」とか「今日は良い天気だ。これもキリスト様のおかげだよ」とか、キリスト信仰が結構定着していることを裏付ける言葉を聞くことができた(バリバリの南部弁なので微妙に聞き取りづらかったけれど)。
やはり、キリストがこの地に育った人たちのアイデンティティの一部として存在しているということなのだと思う。
そして何といってもナニャドヤラ。小野和哉さんが「今日も盆踊り」で書かれている「願わくばナニャドヤラをもっといろんな場所で見たい!」と同じ心境だ。
すぐ隣の県にこれだけの素晴らしい踊りがあるのだから、秋田県民として、同じ東北に生きる人間としてこれからも応援するとともに、再会できる日を楽しみにしたいと思う。


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